22 / 144
4
しおりを挟む
駿の喜びの声に、伊織もまんざらではないようだ。
「うん、私の従者らしくなったな」
そう言って、ニコニコと笑みを浮かべている。
そして、思い出したように両手を合わせて鳴らした。
「そうだ。君に見せたいものがある」
「何でしょう」
とても、良いものだ。
ぜひ、駿に見せたいと思っていたのだ。
そんな伊織にいざなわれ、駿は広い庭園へ降りた。
美しい錦鯉が泳ぐ池に沿って少し歩くと、見事な紅葉に色づいた庭木が見えてきた。
「綺麗だな……」
幻想的ですらある光景に、目を奪われていた駿は、伊織の弾んだ声で我に返った。
「駿、私がイメージしていた菊は、これだ」
そこには、見事な大輪の菊が所狭しと並んでいた。
黄、白、紫、様々な色に、花弁の形も異なった大菊だ。
そして、豪華絢爛な菊人形もあった。
繊細な彫りの日本人形を、菊の花や葉が衣装として彩っている。
「……」
「どうした。感想は?」
「……驚いて、声も出ません」
「そうか。駿は、こういった菊を見るのは、初めてか」
伊織は嬉しそうに、すぐさま野点の準備をさせた。
「菊を愛でながら、外で味わう茶はいかがかな?」
「美味しいです……」
高くて青い、秋の空。
もう冷たくなってきた風が、頬を撫でる。
駿は、気が遠くなる心地を覚えた。
ああ、これは夢なんじゃないかな。
僕は眠って、別世界を見ているんだ。
起きるとそこは、冷たい床の上なんだ。
朦朧としている駿に、伊織は少し心配になった。
「何、考えてる?」
「これは、夢じゃないかな、って」
すると伊織は、愉快そうに笑って、駿の頬をつねった。
「痛い!」
「安心しろ。天宮司 伊織の創る世界に、夢はありえない」
全て、現実のものだ、と伊織は誇らしげに言った。
「うん、私の従者らしくなったな」
そう言って、ニコニコと笑みを浮かべている。
そして、思い出したように両手を合わせて鳴らした。
「そうだ。君に見せたいものがある」
「何でしょう」
とても、良いものだ。
ぜひ、駿に見せたいと思っていたのだ。
そんな伊織にいざなわれ、駿は広い庭園へ降りた。
美しい錦鯉が泳ぐ池に沿って少し歩くと、見事な紅葉に色づいた庭木が見えてきた。
「綺麗だな……」
幻想的ですらある光景に、目を奪われていた駿は、伊織の弾んだ声で我に返った。
「駿、私がイメージしていた菊は、これだ」
そこには、見事な大輪の菊が所狭しと並んでいた。
黄、白、紫、様々な色に、花弁の形も異なった大菊だ。
そして、豪華絢爛な菊人形もあった。
繊細な彫りの日本人形を、菊の花や葉が衣装として彩っている。
「……」
「どうした。感想は?」
「……驚いて、声も出ません」
「そうか。駿は、こういった菊を見るのは、初めてか」
伊織は嬉しそうに、すぐさま野点の準備をさせた。
「菊を愛でながら、外で味わう茶はいかがかな?」
「美味しいです……」
高くて青い、秋の空。
もう冷たくなってきた風が、頬を撫でる。
駿は、気が遠くなる心地を覚えた。
ああ、これは夢なんじゃないかな。
僕は眠って、別世界を見ているんだ。
起きるとそこは、冷たい床の上なんだ。
朦朧としている駿に、伊織は少し心配になった。
「何、考えてる?」
「これは、夢じゃないかな、って」
すると伊織は、愉快そうに笑って、駿の頬をつねった。
「痛い!」
「安心しろ。天宮司 伊織の創る世界に、夢はありえない」
全て、現実のものだ、と伊織は誇らしげに言った。
21
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。
愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~
大波小波
BL
第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。
ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。
白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。
雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。
藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。
心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。
少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
それが運命というのなら
藤美りゅう
BL
元不良執着α×元不良プライド高いΩ
元不良同士のオメガバース。
『オメガは弱い』
そんな言葉を覆す為に、天音理月は自分を鍛え上げた。オメガの性は絶対だ、変わる事は決してない。ならば自身が強くなり、番など作らずとも生きていける事を自身で証明してみせる。番を解消され、自ら命を絶った叔父のようにはならない──そう理月は強く決心する。
それを証明するように、理月はオメガでありながら不良の吹き溜まりと言われる「行徳学園」のトップになる。そして理月にはライバル視している男がいた。バイクチーム「ケルベロス」のリーダーであるアルファの宝来将星だ。
昔からの決まりで、行徳学園とケルベロスは決して交わる事はなかったが、それでも理月は将星を意識していた。
そんなある日、相談事があると言う将星が突然自分の前に現れる。そして、将星を前にした理月の体に突然異変が起きる。今までなった事のないヒートが理月を襲ったのだ。理性を失いオメガの本能だけが理月を支配していき、将星に体を求める。
オメガは強くなれる、そう信じて鍛え上げてきた理月だったが、オメガのヒートを目の当たりにし、今まで培ってきたものは結局は何の役にも立たないのだと絶望する。将星に抱かれた理月だったが、将星に二度と関わらないでくれ、と懇願する。理月の左手首には、その時将星に噛まれた歯型がくっきりと残った。それ以来、理月が激しくヒートを起こす事はなかった。
そして三年の月日が流れ、理月と将星は偶然にも再会を果たす。しかし、将星の隣には既に美しい恋人がいた──。
アイコンの二人がモデルです。この二人で想像して読んでみて下さい!
※「仮の番」というオリジナルの設定が有ります。
※運命と書いて『さだめ』と読みます。
※pixivの「ビーボーイ創作BL大賞」応募作品になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる