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しおりを挟む「早くしてください、赤井先生。スケジュールが、押していますぞ!」
「解った、解った。そう、急くなよ」
白衣を身に着けているところから見ると、この男は医師だろう。
そして、麻衣の担当医。
だが麻衣は、この屋敷に来て初めて、衣服を着崩している人間を見た。
白衣の下は確かにスーツだが、ネクタイがひどく緩んでいる。
シャツの裾が、スラックスの脇からはみ出している。
足元は光る革の靴ではなく、サンダルだ。
ただし、首から下げたネックストラップには『赤井 哲郎(あかい てつろう)』とある。
「赤井、って。もしかして、赤井 武郎先生のご親戚ですか?」
思わず訊いた麻衣に、医師は明るい笑顔でうなずいた。
「赤井 武郎は、俺のひいおじいちゃんだ」
そして、麻衣の姿を上から下まで、しげしげと眺めた。
「小さいなぁ、細いなぁ。これでホントに、赤ちゃん産めるのかな!」
「え!?」
初対面の医師から、そんなことを言われたのは初めてだ。
麻衣が戸惑っていると、岩倉が。
あの落ち着いた岩倉が、顔を赤くして怒鳴った。
「それを何とかするのが、あなたの仕事でしょうが!」
「冗談だよ。そう、怒るなって」
勢いよくデスクチェアに掛けた、哲郎。
彼に勧められるまま、その真向かいのチェアに腰掛けたが、麻衣は不安になっていた。
(これはまた、個性的なお医者様だな)
しかし、響也との間に新たな命を授かるには、彼の助けが必要不可欠だ。
(僕、この先生と、うまくやっていけるかなぁ)
笑顔だけはやたらと良い哲郎を前に、麻衣は胸の内で溜息をついていた。
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