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 捨てられた。
 あんまりだ。

「稀一さん……稀一さん!」
 蒼生は、自分の小さなアパートで散々泣いた。
 泣きながらも、明日の予定を考えていた。

 病院へ行こう。
 悔しいけど、情けないけど、中絶にかかる費用を、聞こう。
 そして、稀一さんに払ってもらおう。
 実家に、両親に、こんなこと言えやしないんだから。

「ごめんね……僕の赤ちゃん!」
 泣き疲れて寝てしまうまで、蒼生は涙を流していた。

「想像妊娠です」
「え!?」
「赤ちゃんは、いませんよ」

 翌日、受診した病院で、蒼生は医師からそう告げられた。
 言葉を失い、呆然としていると、続けて訊ねられた。
「病院に来る前に、妊娠検査薬で調べましたか?」
「え!? あ、いいえ」
 やれやれ、と医者は肩をすくめた。
「女性にとっては、常識なんですが」
「そう……ですか」
「オメガ男性にも、こういう知識は、学校で教育してもらいたいですねぇ」

 せっかく病院まで、足を運んだのだから。
 そう言って医者は、蒼生に妊娠検査薬とその使い方をレクチャーしてくれた。

「いなかったんだ……赤ちゃん……」
 でも、稀一さんは。
 稀一さんを、失ってしまった。
 僕の早合点で!


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