胸に咲くは純白の花

大波小波

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 電話で打ち合わせたとおり、大島と名乗る男が病院の出入り口で待ってくれていた。
「僕が白井です。駿佑さんは、どこですか!?」
 考えていたよりずっと幼いその姿に大島は驚いたが、駿佑の趣味をどうこう言っている暇はない。
 優しく、だが緊迫した様子で、聖に声を掛けた。
「こちらです。急いで」
「はい」
 小走りで通路を歩き、ICUへ入る。
 そこには、物々しい医療機器に囲まれた駿佑が、静かに眠っていた。
「……駿佑さん」
 堰を切ったように、聖の目から涙がぽろぽろとこぼれてきた。
 彼の手を取り、頬に当てた。
「駿佑さん……駿佑さんのバカ……。起きてください、早く……!」
 痛ましい聖の姿に、近寄って来た医師は、少しだけでもと明るい展望を説明した。
「飛沢さんを撃った弾丸は、右の背中から入って右の腹から出ました。幸運にも、筋膜に入り、筋膜に沿って体の外に出たんです」
「そうしたら、どうなるんですか? なぜ、幸運なんですか?」
 目を赤く腫らした聖に、今度は大島が語り掛けた。
「弾が腸を傷つけてしまうと、出血量が多くなって死んでしまう確率が高くなる。彼は、本当に運が良かったんだよ」
「運がいいなら、目を覚ましますよね。このまま死んじゃったり、しませんよね!」
 それには自信を持って、イエスと答えられない大島だ。
 泣きじゃくる聖を、昏睡状態の駿佑を、ただ見守るしかなかった。

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