胸に咲くは純白の花

大波小波

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「毎晩できない理由は、ちゃんとある。そろそろ私の仕事が、大詰めを迎えるんだ」
 帰れない夜もでてくる、と駿佑は打ち明けた。
「今回は、どんな掃除なんですか?」
「それは、言えない。話せば、聖にも害が及ぶ危険があるからな」
 その言葉に、聖は息を呑んだ。
「危ない仕事を、しているんですか。駿佑さん」
「そうだ」
 それきり、聖は黙ってしまった。
 うつむき、手にした薬を手でいじり、時々瞼を閉じる。
(僕が見た掃除は、高校生相手だったけど。きっと今回は、大人の悪い人なんだ)
 大人の悪人とくれば、頭も切れるし戦闘力もあるだろう。
 聖は初めて、駿佑の掃除人という仕事に不安を覚えた。
「駿佑さん」
「何だ?」
「やっぱり、今夜抱いてください」
「なぜ」
 僕は、怖い。
 駿佑さんが外へ出て、二度と帰って来ないかもしれないと思うと。
「僕は、怖いんです」
 聖の声は、震えていた。

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