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 廊下でわあわあ言っている芳樹をよそに、義人はひそひそと青葉にささやいた。
「ああ見えて芳樹は、小さい頃から私には従順でね」
「……」
 口を塞がれては、青葉は返事ができない。
 義人の真意が解らずに、ただ身を固くしていた。
「今回も諦めて、あのまま時が過ぎるのを待つか。はたまた、君を助けるために乗り込んでくるのか」
 父親としては、実に興味がある、と喉で笑った。
「そろそろ父を乗り越えていって欲しい、というのが私の本音だが……」
 そこまでで、本当に襖を蹴破り芳樹が殴り込んできた。
「いくらお父様とはいえ、許しませんよ!」
「おいおい、襖を破るとはなんだ」
「弁償しますよ! 青葉から、離れてください!」
 父から青葉を引きはがし、芳樹はそそくさと玄関へ向かった。
「芳樹さん、話しはまだ終わってはいませんよ!」
「お母様、また改めて伺います!」
 青葉を半ば抱えるようにして、芳樹は駐車場へ走った。
 マスタングに乗り、ようやく人心地ついた二人は、顔を見合せ大きく息を吐いた。
「青葉、すまない。まさか、ここまでひどい展開になるとは思ってなかった」
「いいえ。お父様の真意を、お伝えします」
 そこで青葉は、義人が青葉にひそひそと囁いていた『父の思い』を説明した。
「お父様は、芳樹さんが僕を助けに来てくれたことを、嬉しく思ってらっしゃるんです」
「そうか? ホントか? だといいが……」
 それからの芳樹は、車を走らせながらあまり話さなかった。
 青葉は疲れて、助手席でうとうとしていた。
 芳樹はその寝顔を、愛おしそうに眺めていた。
 心から愛おしく、見ていた。


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