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しおりを挟む黒光りのする一枚板の座卓に、口をへの字に結んだ男の顔が映っている。
「なぜ、今まで黙ってた」
「私が男性しか愛せないと知ると、お父様お母様を悲しませるかと思ったのです」
芳樹の言葉に返事はよこさず、父・義人は香り高い煎茶を一口飲んだ。
「それで、その。加古さんは、どちらの加古さんなのかしら? 加古伯爵と、縁がおありとか?」
「お母様、残念ながら伯爵とは関係ありません。ですが、私は彼を心から愛しています」
母もまたその言葉には何も返さず、ただ小さな吐息を漏らすにとどまった。
しかし芳樹は明るい声で、先ほども清美に言った言葉を繰り返した。
「青葉はこの通り男性ですが、第二性がオメガです。妊娠出産が可能ですから、世継ぎは設けられます」
「世間体、と言ったものがあるだろうが!」
やや怒気をはらんだ、父の声。
母もその言葉に相槌を打つ。
「七浦の家に傷がつきます」
青葉は、それらの言葉に身を縮めて耐えていた。
「お父様、お母様。今の世の中、そんな古い考えはもうお捨てください。むしろ、七浦家が社会をけん引していく存在になる、とお考え下さい!」
義人はお茶を乱暴に飲み終えると、立ち上がった。
「そこまで言うなら、いいだろう。ただし、そこの加古くんが本当に世継ぎを宿せるのかを、確かめさせてもらう」
「お父様?」
来るんだ、と義人は青葉の腕を掴んで立たせると、ぐいぐい引っ張り部屋を出た。
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