ベータの俺にできること 【俺はただ、波留を悲しませたくないだけなんだ】

大波小波

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1話 波留のために

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 クリスマスを前にして、来夢の周囲が不穏になった。
 波留が、こんなことを言い出したのだ。
「ね、紫苑。来夢、最近変わったことない?」
「どういう風に?」
「あんまり知らない人と、電話してるとか。会ってるとか」
「別に」
 紫苑は短く答えると、再びスマホに目を落とした。
「そっかぁ。だったら、僕の思い過ごしだよね」
 来夢、浮気してるんじゃないか、なんて考えちゃった。
 そんな風に、口に出してわざわざいう所を見ると、本当は自信が無いに違いない。
 僕は、来夢に愛されてる。
 来夢は、僕だけを見てくれてる。
 そういった、恋人の自信が揺らいできているに違いない。

 紫苑は、画面を追うふりをしながら考えた。
(来夢のやつ、本気で浮気するつもりなのか?)
 水島 由樹(みずしま ゆき)。
 先だって、初めて来夢が自宅へ連れてきた友人だ。
 大学で知り合ったという由樹は、キュートというよりセクシーだった。
 波留と、真逆の魅力があった。
 危うい空気を醸す、大人のオメガ男性だった。

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