ベータの俺にできること 【俺はただ、波留を悲しませたくないだけなんだ】

大波小波

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 紫苑が帰宅すると、玄関には兄の靴に並んで、小さなローファーが揃えてあった。
「……チッ」
 最近、父親の夜勤が多いのをいいことに、来夢はよく波留を家に上げるようになっていた。
 やはり波留は、リビングにいた。
 ソファに掛けて、タブレットを使って何かやっていた。
 物音に気付き顔を上げ、にっこりと良い笑顔を寄こしてきた。
「あ、おかえりなさい。紫苑」
「……来夢は?」
「お風呂、入ってる」
「飯は食ったのかよ」
「まだ」
 恋人に飯も食わせず放り出して、まず自分がシャワーかよ、と紫苑は不機嫌になった。
 腹の中でぶつくさ言いながら、しぶしぶキッチンに立った。
 波留の前で、来夢の悪口を振りまくような、悪趣味な男にはなりたくない。
 ただ冷蔵庫を開け、何か作れそうなものはないかと考えた。
「紫苑~。僕、グラタン食べたい」
「グラタンか」
 幸い鶏肉とブロッコリーがある。
 紫苑は手早く、グラタンの準備を始めた。

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