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本編

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建物の外は恐らく日が落ち始めたのだろう。部屋は明かりが灯っているがどこか暗さがある。
部屋の中には香水と思われる花の香りが広がっている。しかし、そんなことよりユージンが気になっているのは下半身。普段履いたことの無いスカートが違和感を与えてくる。なんとも言えないむず痒さとスースーとした謎の通気性がユージンを苛立たせていた。
鏡を見れば普段見たことの無い化粧を施し、カツラをかぶった長い髪の自分がいた。ただ、ユージンを男だと知らない者が今のユージンを見れば育ちの良い美少女に見えていただろう。

「おい」
「やっぱユー坊は顔立ちが整ってるからなあんま違和感ないな。」
「え?なにこれ、何がしたいの?」

ガディの背後からひょこっとハンセンが顔を出してうんうんと頷いた。

「上出来じゃな。」
「おい、クソジジイ一人で納得すんな。なんだこれ。」
「だから先程言ったじゃろう?わしを含めてお前達ゴールド冒険者全員は公式に面が破れとる。」

だから、性別を変えて全くの別人を作り出してそれを囮に犯人を誘き出す。というなんとも安易な作戦だった。

「それに若い女の方が狙いやすいからな、次のターゲットをユー坊に変えて来るかも。」
「さっきから気になってたけどガディ、なにそのユー坊って。まあ、別に良いけどさ。」
「そんな喋り方ではすぐにバレてしまうぞ!ほれ、もっと乙女らしくせんか!」
「この変態おじさまは殺されたいのかしら?」
「それにしても俺、結構タイプかも。」
「は?」
「うん、結構わしも」
「は!?」

その時、部屋の扉をノックする音が響いてマリアを含めた女性陣が入室してきた。
そこからは最早戦場のようだった、マリアはユージンの姿を見る度目を丸くして野獣のようなオーラを発し、じりじりとユージンに近づいていった。

「か、かわ、可愛い!!なにこの生き物!私、持って帰る!」

隣に立っているカーリーとセリカもマリア同様に目が見たことない程血走っていた。
呪文の様になにかを呟いて寄ってくる様子はユージンに確実に恐怖を植え付けていた。

「なんなんスか?!男の癖にこんなに可愛くなってるじゃないッスか!妬みッス!嫉みッス!羨ましいッス!!」
「一日貸してくれないかしら!お金なら払うわ!」
「お前ら一旦ストップしろ!」

しかし、ユージンの言うことなど最早この場の者達には神の声の様に聞き取れる者はおらず、ユージンの恐怖だけが膨らんでいくばかりだった。

◆◇◆

グリモアより南の街、「サウスカトナ」街には街頭が灯り、夜を迎えていた。街頭と言っても魔法の明かりなので炎に比べたら断然明るいのは一目瞭然だ。街の雰囲気は日本の首都、東京の夜の街に似て様々な店が並び、看板に光を照らし、自分の店を大きく宣伝していた。街には酔った男や呼び込みの女やらが声を張り上げ、これから祭りでもあるかのような騒ぎだ。そんな街の中に他の酒場と何ら変わらないひとつの酒場があった、店の雰囲気は相変わらず盛り上がってはいるが一人の男が身体の大きな男に腕に固技をされて店の外に連れ出されている。この男の名はジーニス、仕事をしておらず親と共に住み、親の金で酒を飲んでいたが、とうとう呆れた親はジーニスに金を渡さなくなり、ついに一文無しになった。体型は少々小太り、茶髪で横を刈り上げワックスで固めたかのように上に髪が伸びていた。固技をかけられているジーニスは店の方を必死で振り返って店の店主に叫んだ。

「おい!俺は常連だろ?!こんな追い払うようなことしていいのかよ?!」

ジーニスは固技をかけている男の顔を見ながら「痛ぇんだよ!こっちは客だぞ!」と叫んで腕を振りほどいた。
それを見た店主はやっとジーニスの方を見て腰に手を当て口を開いた。

「お前みたいな一文無しの常連なんかいらねぇよ!さっさと今までの分のツケを返しな!」

店主は手であっちに行けというジェスチャーを見せてさっさと仕事に戻る。そしてまた、ジーニスの腕を巨大な腕が掴む。

「なら、ならせめて1本だけ酒をくれ!」
「話にならないな。おい、さっさとこいつを出せ、お帰りだとよ。」

腕を掴んでいた男はジーニスを店から少し離れた所へ出すとジーニスの背中を押して膝をつかせた。
ジーニスは店の中に入っていく店主と男を睨んで叫んだ。

「今に見てろ!お前達の方から店に来てくれと頼むようになるぞ!」

店主は鼻をふんっと鳴らし、店の中に入っていった。


ジーニスは今更親の所へ帰っても無駄だと判断し、狭いごみ溜めの様な小道で野宿をすることにし、明日からの行動を頭の中で色々と試行錯誤する。

「(やっぱり、食っていくには盗みしかないか...)」

何度も頭の中で最良の道を妄想してみるがもうこれしかなかった。
ふと、小道から大通りへ続く道を見てみる。

「どんな奴だったら簡単にスレるかな」

大通りには様々な人物が通る、酔って吐き出す者、客引きの女、カップル等。
その中でなんとなくジーニスの目に付いたのは三人の男だった、最初は「複数人相手じゃ不味いよな」等と考えてボーと見ていたが段々三人の会話が聞こえてきた。

「おい、聞いたかよ。新しいローマ皇王様ってどうやら女らしいぞ」
「あー、聞いた聞いた。」
「やっぱこの時期に即位って事は魔王軍か?」
「どうだろうな」
「そういや、即位と同時期に2代目勇者様も現れたらしいぞ」
「あー、それ聞いたことあるぞ、確かこの前のガリア軍とローマ軍の衝突を一人で止めたのもその勇者様って噂だぜ。」
「でも勇者様なんて本当に存在するのかね?」
「どうだろうな?」

「...これだ!」

叫んだジーニスははね起きて勇者の情報を集めるため、暗闇が続く小道を走っていった。
三人の男は声がした方を眺めてジーニスの背中が消えていくのを見ていた。

「なんだ?あれ」
「さあ?」
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