56 / 60
本編
55
しおりを挟む
建物の外は恐らく日が落ち始めたのだろう。部屋は明かりが灯っているがどこか暗さがある。
部屋の中には香水と思われる花の香りが広がっている。しかし、そんなことよりユージンが気になっているのは下半身。普段履いたことの無いスカートが違和感を与えてくる。なんとも言えないむず痒さとスースーとした謎の通気性がユージンを苛立たせていた。
鏡を見れば普段見たことの無い化粧を施し、カツラをかぶった長い髪の自分がいた。ただ、ユージンを男だと知らない者が今のユージンを見れば育ちの良い美少女に見えていただろう。
「おい」
「やっぱユー坊は顔立ちが整ってるからなあんま違和感ないな。」
「え?なにこれ、何がしたいの?」
ガディの背後からひょこっとハンセンが顔を出してうんうんと頷いた。
「上出来じゃな。」
「おい、クソジジイ一人で納得すんな。なんだこれ。」
「だから先程言ったじゃろう?わしを含めてお前達ゴールド冒険者全員は公式に面が破れとる。」
だから、性別を変えて全くの別人を作り出してそれを囮に犯人を誘き出す。というなんとも安易な作戦だった。
「それに若い女の方が狙いやすいからな、次のターゲットをユー坊に変えて来るかも。」
「さっきから気になってたけどガディ、なにそのユー坊って。まあ、別に良いけどさ。」
「そんな喋り方ではすぐにバレてしまうぞ!ほれ、もっと乙女らしくせんか!」
「この変態おじさまは殺されたいのかしら?」
「それにしても俺、結構タイプかも。」
「は?」
「うん、結構わしも」
「は!?」
その時、部屋の扉をノックする音が響いてマリアを含めた女性陣が入室してきた。
そこからは最早戦場のようだった、マリアはユージンの姿を見る度目を丸くして野獣のようなオーラを発し、じりじりとユージンに近づいていった。
「か、かわ、可愛い!!なにこの生き物!私、持って帰る!」
隣に立っているカーリーとセリカもマリア同様に目が見たことない程血走っていた。
呪文の様になにかを呟いて寄ってくる様子はユージンに確実に恐怖を植え付けていた。
「なんなんスか?!男の癖にこんなに可愛くなってるじゃないッスか!妬みッス!嫉みッス!羨ましいッス!!」
「一日貸してくれないかしら!お金なら払うわ!」
「お前ら一旦ストップしろ!」
しかし、ユージンの言うことなど最早この場の者達には神の声の様に聞き取れる者はおらず、ユージンの恐怖だけが膨らんでいくばかりだった。
◆◇◆
グリモアより南の街、「サウスカトナ」街には街頭が灯り、夜を迎えていた。街頭と言っても魔法の明かりなので炎に比べたら断然明るいのは一目瞭然だ。街の雰囲気は日本の首都、東京の夜の街に似て様々な店が並び、看板に光を照らし、自分の店を大きく宣伝していた。街には酔った男や呼び込みの女やらが声を張り上げ、これから祭りでもあるかのような騒ぎだ。そんな街の中に他の酒場と何ら変わらないひとつの酒場があった、店の雰囲気は相変わらず盛り上がってはいるが一人の男が身体の大きな男に腕に固技をされて店の外に連れ出されている。この男の名はジーニス、仕事をしておらず親と共に住み、親の金で酒を飲んでいたが、とうとう呆れた親はジーニスに金を渡さなくなり、ついに一文無しになった。体型は少々小太り、茶髪で横を刈り上げワックスで固めたかのように上に髪が伸びていた。固技をかけられているジーニスは店の方を必死で振り返って店の店主に叫んだ。
「おい!俺は常連だろ?!こんな追い払うようなことしていいのかよ?!」
ジーニスは固技をかけている男の顔を見ながら「痛ぇんだよ!こっちは客だぞ!」と叫んで腕を振りほどいた。
それを見た店主はやっとジーニスの方を見て腰に手を当て口を開いた。
「お前みたいな一文無しの常連なんかいらねぇよ!さっさと今までの分のツケを返しな!」
店主は手であっちに行けというジェスチャーを見せてさっさと仕事に戻る。そしてまた、ジーニスの腕を巨大な腕が掴む。
「なら、ならせめて1本だけ酒をくれ!」
「話にならないな。おい、さっさとこいつを出せ、お帰りだとよ。」
腕を掴んでいた男はジーニスを店から少し離れた所へ出すとジーニスの背中を押して膝をつかせた。
ジーニスは店の中に入っていく店主と男を睨んで叫んだ。
「今に見てろ!お前達の方から店に来てくれと頼むようになるぞ!」
店主は鼻をふんっと鳴らし、店の中に入っていった。
ジーニスは今更親の所へ帰っても無駄だと判断し、狭いごみ溜めの様な小道で野宿をすることにし、明日からの行動を頭の中で色々と試行錯誤する。
「(やっぱり、食っていくには盗みしかないか...)」
何度も頭の中で最良の道を妄想してみるがもうこれしかなかった。
ふと、小道から大通りへ続く道を見てみる。
「どんな奴だったら簡単にスレるかな」
大通りには様々な人物が通る、酔って吐き出す者、客引きの女、カップル等。
その中でなんとなくジーニスの目に付いたのは三人の男だった、最初は「複数人相手じゃ不味いよな」等と考えてボーと見ていたが段々三人の会話が聞こえてきた。
「おい、聞いたかよ。新しいローマ皇王様ってどうやら女らしいぞ」
「あー、聞いた聞いた。」
「やっぱこの時期に即位って事は魔王軍か?」
「どうだろうな」
「そういや、即位と同時期に2代目勇者様も現れたらしいぞ」
「あー、それ聞いたことあるぞ、確かこの前のガリア軍とローマ軍の衝突を一人で止めたのもその勇者様って噂だぜ。」
「でも勇者様なんて本当に存在するのかね?」
「どうだろうな?」
「...これだ!」
叫んだジーニスははね起きて勇者の情報を集めるため、暗闇が続く小道を走っていった。
三人の男は声がした方を眺めてジーニスの背中が消えていくのを見ていた。
「なんだ?あれ」
「さあ?」
部屋の中には香水と思われる花の香りが広がっている。しかし、そんなことよりユージンが気になっているのは下半身。普段履いたことの無いスカートが違和感を与えてくる。なんとも言えないむず痒さとスースーとした謎の通気性がユージンを苛立たせていた。
鏡を見れば普段見たことの無い化粧を施し、カツラをかぶった長い髪の自分がいた。ただ、ユージンを男だと知らない者が今のユージンを見れば育ちの良い美少女に見えていただろう。
「おい」
「やっぱユー坊は顔立ちが整ってるからなあんま違和感ないな。」
「え?なにこれ、何がしたいの?」
ガディの背後からひょこっとハンセンが顔を出してうんうんと頷いた。
「上出来じゃな。」
「おい、クソジジイ一人で納得すんな。なんだこれ。」
「だから先程言ったじゃろう?わしを含めてお前達ゴールド冒険者全員は公式に面が破れとる。」
だから、性別を変えて全くの別人を作り出してそれを囮に犯人を誘き出す。というなんとも安易な作戦だった。
「それに若い女の方が狙いやすいからな、次のターゲットをユー坊に変えて来るかも。」
「さっきから気になってたけどガディ、なにそのユー坊って。まあ、別に良いけどさ。」
「そんな喋り方ではすぐにバレてしまうぞ!ほれ、もっと乙女らしくせんか!」
「この変態おじさまは殺されたいのかしら?」
「それにしても俺、結構タイプかも。」
「は?」
「うん、結構わしも」
「は!?」
その時、部屋の扉をノックする音が響いてマリアを含めた女性陣が入室してきた。
そこからは最早戦場のようだった、マリアはユージンの姿を見る度目を丸くして野獣のようなオーラを発し、じりじりとユージンに近づいていった。
「か、かわ、可愛い!!なにこの生き物!私、持って帰る!」
隣に立っているカーリーとセリカもマリア同様に目が見たことない程血走っていた。
呪文の様になにかを呟いて寄ってくる様子はユージンに確実に恐怖を植え付けていた。
「なんなんスか?!男の癖にこんなに可愛くなってるじゃないッスか!妬みッス!嫉みッス!羨ましいッス!!」
「一日貸してくれないかしら!お金なら払うわ!」
「お前ら一旦ストップしろ!」
しかし、ユージンの言うことなど最早この場の者達には神の声の様に聞き取れる者はおらず、ユージンの恐怖だけが膨らんでいくばかりだった。
◆◇◆
グリモアより南の街、「サウスカトナ」街には街頭が灯り、夜を迎えていた。街頭と言っても魔法の明かりなので炎に比べたら断然明るいのは一目瞭然だ。街の雰囲気は日本の首都、東京の夜の街に似て様々な店が並び、看板に光を照らし、自分の店を大きく宣伝していた。街には酔った男や呼び込みの女やらが声を張り上げ、これから祭りでもあるかのような騒ぎだ。そんな街の中に他の酒場と何ら変わらないひとつの酒場があった、店の雰囲気は相変わらず盛り上がってはいるが一人の男が身体の大きな男に腕に固技をされて店の外に連れ出されている。この男の名はジーニス、仕事をしておらず親と共に住み、親の金で酒を飲んでいたが、とうとう呆れた親はジーニスに金を渡さなくなり、ついに一文無しになった。体型は少々小太り、茶髪で横を刈り上げワックスで固めたかのように上に髪が伸びていた。固技をかけられているジーニスは店の方を必死で振り返って店の店主に叫んだ。
「おい!俺は常連だろ?!こんな追い払うようなことしていいのかよ?!」
ジーニスは固技をかけている男の顔を見ながら「痛ぇんだよ!こっちは客だぞ!」と叫んで腕を振りほどいた。
それを見た店主はやっとジーニスの方を見て腰に手を当て口を開いた。
「お前みたいな一文無しの常連なんかいらねぇよ!さっさと今までの分のツケを返しな!」
店主は手であっちに行けというジェスチャーを見せてさっさと仕事に戻る。そしてまた、ジーニスの腕を巨大な腕が掴む。
「なら、ならせめて1本だけ酒をくれ!」
「話にならないな。おい、さっさとこいつを出せ、お帰りだとよ。」
腕を掴んでいた男はジーニスを店から少し離れた所へ出すとジーニスの背中を押して膝をつかせた。
ジーニスは店の中に入っていく店主と男を睨んで叫んだ。
「今に見てろ!お前達の方から店に来てくれと頼むようになるぞ!」
店主は鼻をふんっと鳴らし、店の中に入っていった。
ジーニスは今更親の所へ帰っても無駄だと判断し、狭いごみ溜めの様な小道で野宿をすることにし、明日からの行動を頭の中で色々と試行錯誤する。
「(やっぱり、食っていくには盗みしかないか...)」
何度も頭の中で最良の道を妄想してみるがもうこれしかなかった。
ふと、小道から大通りへ続く道を見てみる。
「どんな奴だったら簡単にスレるかな」
大通りには様々な人物が通る、酔って吐き出す者、客引きの女、カップル等。
その中でなんとなくジーニスの目に付いたのは三人の男だった、最初は「複数人相手じゃ不味いよな」等と考えてボーと見ていたが段々三人の会話が聞こえてきた。
「おい、聞いたかよ。新しいローマ皇王様ってどうやら女らしいぞ」
「あー、聞いた聞いた。」
「やっぱこの時期に即位って事は魔王軍か?」
「どうだろうな」
「そういや、即位と同時期に2代目勇者様も現れたらしいぞ」
「あー、それ聞いたことあるぞ、確かこの前のガリア軍とローマ軍の衝突を一人で止めたのもその勇者様って噂だぜ。」
「でも勇者様なんて本当に存在するのかね?」
「どうだろうな?」
「...これだ!」
叫んだジーニスははね起きて勇者の情報を集めるため、暗闇が続く小道を走っていった。
三人の男は声がした方を眺めてジーニスの背中が消えていくのを見ていた。
「なんだ?あれ」
「さあ?」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?
marupon_dou
ファンタジー
時は現代。世には悪の秘密結社"フェイスダウン"が夜の闇に潜み人々を襲っていた。
人造人間"フェイス"戦闘員を擁し、人間が持つ感情エナジーを奪う彼らと戦うのは――
その"フェイス"戦闘員だった!
精霊の力を宿した、不屈の戦士《ヒーロー》・アルカー。
彼と肩を並べ戦う、正義に目覚めた悪の戦闘員《ヒーロー》、ノー・フェイス!
人々を守り、フェイスダウンに狙われた少女を守る戦闘員の物語が今、始まる――。
※最初の五話は挿絵がつきますが、以後は不定期(ときたま)になります。
※第一部は毎日連載します。
※90~00年代のライトノベルの作風を目指して執筆中です。
※イメージの源流は特撮ヒーローですが、パロディ・オマージュ作品ではありませんので
パロディ・オマージュ・お約束などは非常に薄めです。
※第一章~第二章は以下のサイトでも公開しております。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883360465
エブリスタ:http://estar.jp/_novel_view?w=24664562
Pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8269721
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる