6 / 9
『夢』1
しおりを挟むイトリ村……大森林に囲まれた穏やかな村で周囲は大森林に囲まれておりそこから切り出される木材を利用し家具や日常雑貨などを作りその収益で細々と生活をしていた……一般的な平民向けに作られたその家具と雑貨は丁寧な作りと精巧なデザインによって一部の貴族や裕福層に異常なまでの人気を博し本来の価格の数倍以上で取引されることもあり一部の商人の間では『お値段異常・イトリ』の名で取引されているのであった。
それ以外は特に特筆すべき点もなく、長閑な農村そのものであった。
アビゲイルはその村で母親と妹と3人で暮らしていた。
父は僕たちが幼い頃に紛争によって命を落としていた。
母は気立てもよく村の人気者だったが多くの誘いを断り再婚せずに僕たちを育ててくれている。
僕は主に妹のアシュリーと田畑を耕し家畜の世話をしていた。
時には狩りによって日々の糧を得ていた。
子供はそんなに多くはなかったがそれでも歳の近い子供たちで野原を駆け回ったりそれなりに楽しく暮らしていた。
あの日までは
「アビゲイル!起きなさい」
真夜中、母に揺り起こされて僕は目を覚ました。
「アシュリーを起こして!急いで!」
いつもの母とは違う雰囲気に妹を起こすと母に続いて外に出た出た。
遠くで赤い炎の揺らめきが見えた。
母は訳も話さず2人を連れて家の裏手から村の中央の広場に向かっている様だった。
あの温厚な母がこんな険しい表情するなんて……振り返ると火の手は四方から上がっていた。
「お母さん…どうしたの?どこに行くの?」
「それよりも急ぎなさい!今は逃げる方が先よ!」
一体何から逃げていると言うのか……アシュリーが不安そうにこっちを見ていた……僕は強くその手を握り返すと母の後を急ぐのだった。
辿り着いた先は村の中央広場だった……中心には井戸がありその周りに村人達が集まっているがかなり混乱しているようだ。
「ここにいなさい」
そう言って母は大人たちが言い争っている場に参加して話し合っていた。
村の南側から数人の村人が大声で叫びながらこちらに走って来た……
その後から馬に乗った騎士が数名こちらに向かってやってくると抜刀し村人に対して剣を振り下ろした。
周囲から悲鳴があがる。
「やはり皇帝の差し金か!」
村長が騎士の姿を見るとそう叫んだ。
そして杖を掲げ詠唱を始めた……詠唱?
村長の眼前に小さな炎の塊が生まれそれが騎士に向け放たれた。
騎士は炎に包まれ落馬すると地面でにのたうち回った。
「!?やはりスペルキャスター!呪文を唱えさせるな」
その声に反応して、さらに多くの騎士が流れ込んでくると村長や周囲の村人に向かって襲いかかった。
「聖なる祈りよ!我らを守れ!守護防壁」
母が呪文を詠唱すると僕たちの周囲に巨大な白い幕が展開された…物理防御の魔力の壁により敵の騎士達はこちらに近寄ることができないでいた。
「いい?2人とも…今からこの井戸の中に降りるのよ!一番下には横穴があって……」
そこまで言うと頭上から轟音が轟き、強固なシールドが破られていた。
「馬鹿な!竜騎兵だと!?」
上空から巨大なドラゴンを操る騎士が現れそのブレスの攻撃によりあたりは阿鼻叫喚に包まれている。
近くの民家が爆発と共に弾け飛んだ。
「!!お兄ちゃ……!」
アシュリーが飛びつき僕を押し倒した……その上を夥しい破片が舞い散った……アシュリーが庇ってくれなかったら今頃……そのアシュリーが身動きしないことに気が付いた。
見ればアシュリーの背中には赤い染みがジワリと滲んでいた。
「!!アシュリー!」
村長の放った攻撃魔法がドラゴンの顔面を捉えた。
ドラゴンは苦悶の雄叫びを上げ地面へと激しくその巨体を打ち付けた……村長達のいた場所に……
「アビゲイル!早くこっちに!」
アシュリーを抱えて母の所に駆け寄った。
そこに1人の兵士が駆け寄り袈裟斬りにその剣を振り下ろした……
「アビゲイル!!」
母が僕を突き飛ばす形になりアシュリーと二人で地面に転んだ
兵士はすぐに追撃の構えを取り再び剣を振り下ろした。
「あぐぅ!」
母は僕達の間に入り込みその背に受けた衝撃に顔を歪ませると僕たちを抱えたまま薄暗い井戸の底へと転落するのだった。
井戸に転落する中 最後に見た光景は暴れるドラゴンに破壊される井戸と村人のものか騎士のものかわからない断末魔の叫びだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?
marupon_dou
ファンタジー
時は現代。世には悪の秘密結社"フェイスダウン"が夜の闇に潜み人々を襲っていた。
人造人間"フェイス"戦闘員を擁し、人間が持つ感情エナジーを奪う彼らと戦うのは――
その"フェイス"戦闘員だった!
精霊の力を宿した、不屈の戦士《ヒーロー》・アルカー。
彼と肩を並べ戦う、正義に目覚めた悪の戦闘員《ヒーロー》、ノー・フェイス!
人々を守り、フェイスダウンに狙われた少女を守る戦闘員の物語が今、始まる――。
※最初の五話は挿絵がつきますが、以後は不定期(ときたま)になります。
※第一部は毎日連載します。
※90~00年代のライトノベルの作風を目指して執筆中です。
※イメージの源流は特撮ヒーローですが、パロディ・オマージュ作品ではありませんので
パロディ・オマージュ・お約束などは非常に薄めです。
※第一章~第二章は以下のサイトでも公開しております。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883360465
エブリスタ:http://estar.jp/_novel_view?w=24664562
Pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8269721
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる