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10章 巻き込まれた兄の話

叩かれて伸びるタイプ

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 見慣れた天井が視界に広がった。

 もはや自宅と言っても差し支えがない程度に見慣れた木の色味がついた天井。

 旅館の天上であった。

 起き上がろうとするも身体が酷く重い。まるで鉛を全身に巻いているかのようだった。痛みも伴う身体をどうにか動かし、起き上がる。

 そこでようやく気付いたのだが、腕からチューブが生えていた。その先には液体の入った袋が吊るされている。点滴のだろうか。

 しばらく寝たきりだったのだろう。

 今何時だろうか。そんなことを思った。

 窓から差し込む光は明るいから夜ではない。

 皆は今どこにいるのだろうか。

 こういう時、創作物では目が覚めた患者を出迎えて涙のエンディングだろう。俺はやはりそういうのに向いていないらしい。いつもは誰かしら部屋にいるのにこういう時に限って誰もいやしない。

 立ち上がり、点滴が吊るされたスタンドを杖代わりにしてリビングへと向かう。やはり、そこには誰もいなかった。

 ただ音はした。

 点けっぱなしのテレビの音と誰かの物音。

 どこからだろうと耳を傾けてみると風呂場の方からだった。備え付けの露天風呂ではなく、室内の浴槽からであった。誰かが看病の隙を見て風呂に入っているのだろう。露天風呂だったなら誰が入っているか窓越しにすぐにわかるのだが、入っていないところを見るに、部屋に誰かが入ってくる可能性を考慮してのことだろう。

 野郎ならば扉を開けて目覚めたことを知らせてもいいのだが、困ったことに女性がいる可能性も否定できない。樹神さんだったなら裸を見られても気にしなさそうだが末代までネタにされそうである。もし工藤さんだったならば、ガチ泣きかガチギレのどちらか極端な方に振れそうでそれはそれで恐ろしい。

 リスクを考え、とりあえずソファに座って待つことにした。

 壁掛け時計は朝十時を示していた。

 テレビから流れていた天気予報で決戦から一週間が経過したことを知った。

 その間、俺は寝たきり状態であった。ケイオスと戦い、影を存分に使い、身体を乗っ取られ、桜庭に爆破された。

 むしろよく一週間で済んだものだと我が身の丈夫さに感心する。昔から身体だけは丈夫だったが今までで一二を争うぐらいの丈夫さエピソードだ。争うのは交通事故にあってもほぼ無傷だったことエピソードだ。

 一週間。

 きっと俺が心の中に引きこもっていた間に色々あったのだろうと思う。テレビで調べようにもニュース時からは少し離れているからかバラエティ寄りの番組か通販しか流れていない。携帯で調べようにも何故か手元に見当たらない。

 どこかで落としたのか誰かが預かっているのか。

 そもそもこの旅館にはどうやって帰ってきたのだろう。

 救助されたと考えるのが自然だろうが、桜庭も同じ洋館にいたはずだから一緒に回収されたのだろうか。

 堂島さんや工藤さんはあの後どれくらいしてから助け出されたのか。

 考え始めたら気になることは沢山あった。

 おいおいわかるだろう。

 そう考えた。何も考えたくないぐらいには身体が酷くだるかった。

 そんな折、風呂場の扉が開く音がした。

 野郎か女性か。濡れ髪やスッピンはあるだろうが、タオルぐらいは巻いていると想定していた。

 すっぽんぽんだった。

 しかも胸にささやかながら膨らみがあり、股間の異物がない。

 視線を上にずらし、目を疑う。

 妹だった。ネットアイドルとして名を馳せた銀髪赤目の可愛らしい顔つき。電脳世界から現実世界に上手いこと落とし込んだ姿がそこにあった。すっぽんぽんで。

 俺と妹の思考が止まる。まるで時が止まったかのように制止する。

 俺は状況が飲み込めず、妹は裸を見られたことか俺が起きていたことのどちらかで。

 時が動く。

 妹が近くにあった瓶を投げつけ、それが俺の額にクリーンヒット。

 いくら頑丈と言われている俺でもコンディション不良では耐えきれない。

 暗くなりゆく視界の中で見えたのは、やらかしたとばかりに駆け寄ってくる妹の姿であった。
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