妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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10章 巻き込まれた兄の話

遠距離恋愛は続かない

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「この前のライブ見たぞ。妹に守られるとか情けねえな」

 桜庭はほくそ笑んだ。

 挨拶代わりの煽り。ならばこちらも応じない訳にはいかない。

「そんなんだから工藤さんに愛想尽かされるんだぞ」

 根も葉もない真っ赤なそれは桜庭の急所であった。余裕ぶった顔が鳴りを潜め、声を震わせて「あ、あ、愛想つかされてねーし! 証拠あんのか! 証拠は!」とチンピラか小学生男子の悪態で強ぶった。

「ねーよ、嘘に決まってんだろ」

 あえてすぐにバラす。

「お前、ぶっ飛ばすぞ」

 怒り心頭な桜場。そこに冷水をぶっかける。

「でも他の男の影がないわけではない」

「……嘘だろ?」と信じられないとも、嘘であって欲しいともとれる顔で訊いてくる。

 笑うの必死に堪え、無慈悲に宣告した。

「本当だ」

 ちなみにその男の影とは北御門である。であるが、あの二人が恋愛関係なんてあり得ない。ただこの半年で仲良くはなったみたいだから嘘ではない。

 崩れ落ちる桜庭。

「配信じゃあそんな素振り見せなかったじゃあないか!」

 うあああ、などと握り拳で床をドンドンと叩きつけた。見ていて胸がすく光景だった。もっと悔しがれ。嘆き苦しめ。

「というかシスターカレンが工藤さんだとよく気付いたな」

 声や仕草は工藤さんのものとはいえ、ガワは全く違うソレから本人を特定するのは難しい。事前に何か聞かされているならばまだ理解はできるが、知らなければ「知り合いの声に似てるなぁ」で終わってしまう。

「愛の力だ」

 ドヤ顔を披露される。床に握り拳を叩きつけてからのそれは四つん這いでの披露は世界一格好悪く可哀相な姿に違いない。

「と言いたいところだけど」

 そう言ってから立ち上がる。

「あのガキが世界中で暴れ回ってる時期にデビューしたネットアイドルなんて数えるぐらいしかいないし、大手からデビューしたのはシスターカレンだけだ。何かあると思ってたから注意してたってのはある。それはそれとして聞き覚えのある声と仕草、それとキレ具合で麗子だとわかったのも事実だ」

 それでもよく分かったなと関心した。

「元ヤンシスターのキャラ付けってのは彼氏から見てどうだ?」

「くっそ可愛い。今すぐにでも抱き締めたい。頬擦りしたい。口吸いしたい」

「お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 馬鹿みたいな会話で毒気が抜かれてしまった。毒気があったからといってこの場で何かできるわけではないのだが。

 嘆息し、近況を尋ねた。

 桜庭はこの半年、ずっとこの洋館で過ごしているらしい。ネットもあれば、筋トレ器具も置かれ、最新のゲーム機も完備。飯はレトルト中心なのは欠点ではあるが、元より大学生ゆえの不健康な食生活だったので、むしろ改善の傾向にあるという。勉強もしないでゲーム三昧の日々に「もう元の生活に戻れなさそう」と自慢げに言うぐらいには満喫してきるようだった。

 どこまでが本当か怪しいが。

 ケイオスのことも尋ねようとしたが、腹の虫が泣き出した。

「先に飯にするか。横須賀海自カレーと北海道タラバガニカレーどっち食いたい? あ、どっちもレトルトな」

 この生活を満喫していることだけは噓偽りなさそうであった。
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