208 / 229
10章 巻き込まれた兄の話
馴れ合い
しおりを挟む
体感三十分ほど経過した頃だろうか。森の中にヘリポートらしきものが現れた。アスファルトを突き破った根性逞しき雑草たちに覆われ、ヘリポートを示す円と白文字は微かにしか残っていない。最後に勝つのは雑草魂だと言わんばかりの繁殖具合であった。
そんな場所が何故ヘリポートだと思ったのかといえば、ど真ん中にヘリが停まっていたからだ。
「これに乗ってもらう」
俺を担いでいたパワードスーツは俺を下ろし、腕を掴む。
「こんな場所、自衛隊にも見つからずによく用意できたな」
「大昔に民間へ払い下げられ、放置されたものだ。記録から抹消されたからここを知る者はほとんどいない」
ヘリに乗り込む。
「見たとこ五人乗りみたいだけど他の奴らはどうするんだ?」
それに答えないまま定員一杯まで乗り込んだ後、残りの殆どを置き去りにしてヘリは飛び立った。
飛び立ってすぐ密閉式ヘッドホンを手渡され、下を見るように促される。指示に従い、下を見ると残ったパワードスーツの全員が事切れたようにその場に倒れていた。
「殺したのか?」
問いかけた。
「殺していない。元よりこの中に人はいない」
「……ロボットか」
「俗な言い方だとそうなる」
「お前もどこかで遠隔操作してるのか?」
「そろそろバラしてもいいか」
わざとらしくノイズ音が走る。
「やあ、僕の声なら誰がこれを操作しているのか鈍感な君でも気付くだろう」
その声は小憎たらしい小僧が脳裏に浮かぶものであった。
「ケイオスか。俺は別に逃げるつもりはなかったぞ。それとも俺と戦うのが怖くなって現実で武力に訴えかけたのか?」
安い挑発がてら探りを入れる。
「ふん、この期に及んで見苦しい真似はしないよ。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。あのまま自衛隊に保護されていたら、人権派を気取るテロリストに引き渡されていた」
「……何を言ってる」
「自衛隊も一枚岩じゃないってことさ。君みたいな若者が無駄に命を散らす必要はないって人情派がいた。それを唆す悪い大人もいた。それだけのことさ」
「助けたつもりか?」
「恩に着せるつもりはないよ。決戦で雌雄を決める。邪魔は入らせない」
「ならいい。優しくされると殺す決意が鈍る」
「良いことを聞いた。なら捕虜として丁重な扱いをしようかな」
「おいおい、今や俺は国家元首レベルの要人だろう。ファーストクラスのもてなしを期待してるからな」
「僕だとわかった途端に調子に乗るな」
ヘリは進む。
既にあの山々は視界の彼方まで離れた。
「あんな人と変わらない動きをするロボットなんてどこで手に入れたんだよ」
パワードスーツから小憎たらしい小僧の声で返ってくる。
「日本近海にちょうど最新式装備を揃えた船が集まってるじゃないか。その中から少しばかり拝借しただけさ。もっともあの装備が見つかったら、何処の国由来のものかわかるはずだから世界は紛糾するだろうね。水面下で君を返せと要求して、見に覚えのない要求に反論するか、そのままイニシアチブを取ろうとするか見ものだ。もっとも話が纏まる瀬戸際で僕の仕業だとバラすつもりだけどね」
それはもう楽しげに語っていた。
神に近づいた余裕からか、以前の必死さがなくなった代わり、性悪さが増したような気がした。
そんな場所が何故ヘリポートだと思ったのかといえば、ど真ん中にヘリが停まっていたからだ。
「これに乗ってもらう」
俺を担いでいたパワードスーツは俺を下ろし、腕を掴む。
「こんな場所、自衛隊にも見つからずによく用意できたな」
「大昔に民間へ払い下げられ、放置されたものだ。記録から抹消されたからここを知る者はほとんどいない」
ヘリに乗り込む。
「見たとこ五人乗りみたいだけど他の奴らはどうするんだ?」
それに答えないまま定員一杯まで乗り込んだ後、残りの殆どを置き去りにしてヘリは飛び立った。
飛び立ってすぐ密閉式ヘッドホンを手渡され、下を見るように促される。指示に従い、下を見ると残ったパワードスーツの全員が事切れたようにその場に倒れていた。
「殺したのか?」
問いかけた。
「殺していない。元よりこの中に人はいない」
「……ロボットか」
「俗な言い方だとそうなる」
「お前もどこかで遠隔操作してるのか?」
「そろそろバラしてもいいか」
わざとらしくノイズ音が走る。
「やあ、僕の声なら誰がこれを操作しているのか鈍感な君でも気付くだろう」
その声は小憎たらしい小僧が脳裏に浮かぶものであった。
「ケイオスか。俺は別に逃げるつもりはなかったぞ。それとも俺と戦うのが怖くなって現実で武力に訴えかけたのか?」
安い挑発がてら探りを入れる。
「ふん、この期に及んで見苦しい真似はしないよ。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。あのまま自衛隊に保護されていたら、人権派を気取るテロリストに引き渡されていた」
「……何を言ってる」
「自衛隊も一枚岩じゃないってことさ。君みたいな若者が無駄に命を散らす必要はないって人情派がいた。それを唆す悪い大人もいた。それだけのことさ」
「助けたつもりか?」
「恩に着せるつもりはないよ。決戦で雌雄を決める。邪魔は入らせない」
「ならいい。優しくされると殺す決意が鈍る」
「良いことを聞いた。なら捕虜として丁重な扱いをしようかな」
「おいおい、今や俺は国家元首レベルの要人だろう。ファーストクラスのもてなしを期待してるからな」
「僕だとわかった途端に調子に乗るな」
ヘリは進む。
既にあの山々は視界の彼方まで離れた。
「あんな人と変わらない動きをするロボットなんてどこで手に入れたんだよ」
パワードスーツから小憎たらしい小僧の声で返ってくる。
「日本近海にちょうど最新式装備を揃えた船が集まってるじゃないか。その中から少しばかり拝借しただけさ。もっともあの装備が見つかったら、何処の国由来のものかわかるはずだから世界は紛糾するだろうね。水面下で君を返せと要求して、見に覚えのない要求に反論するか、そのままイニシアチブを取ろうとするか見ものだ。もっとも話が纏まる瀬戸際で僕の仕業だとバラすつもりだけどね」
それはもう楽しげに語っていた。
神に近づいた余裕からか、以前の必死さがなくなった代わり、性悪さが増したような気がした。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる