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10章 巻き込まれた兄の話
理不尽はどこにでも
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世界は理不尽でできている。
決戦当日。戦場となるゲーム内にある出撃準備室でそう思った。
先日、理不尽に死ぬことを求められる世界で未だ生き延びている。
先日、人知れず里を出ることになった。
文字通り世界は、ケイオスが俺を殺して満足することを祈っていた。さながら荒ぶる神に生贄を差し出すが如く。日本近海には各国の軍が押し寄せ、睨み合いをしている。国内にも特殊部隊が入り込んで俺を確保しようと動いていた。確保したあとはそのままケイオスに引き渡すか、各国から譲歩を引き出すための政争の具にするか、思惑は様々だ。
あの里でさえ安心安全とはいかなくなった。
あの里は妖怪の間では有名な観光地である。ゆえに外国の妖怪が入り込みやすい土地だった。日本に住む者の中にさえ引き渡す派は少なくない状況で、他国の者に接近を許しやすい土地に居続けるわけにはいかなくなった。
ゆえに北海道にある日本最大の自衛隊駐屯地まで向かうことになった。
出迎えは結界を超えて少し行ったところ。
それまでは堂島さんが運転する車に工藤さんと北御門を乗せて移動することになっていた。
結界内はスムーズな進行であった。車内で「里の中で仲良くなった人に別れの挨拶をしなくても大丈夫だった?」と北御門の質問で盛り上がったりしていた。主に雪女に挨拶をすべきだという点で盛り上がった。俺がそういう仲じゃないと突っぱねても工藤さんが「相手の方はそうは見えなかった」と話題をご丁寧に元の場所に置いてくる。共通の友人である一反木綿が雪女に恋心を抱いていると知っている身だと、反応に困る話題であった。
この世界がラブコメならばこれから三角関係を軸にした事件でも起きるのだろうが、生憎そんな平和な世界じゃないから困る。
ただこの世界の血生臭い方が性に合っているというのもいかがなものだろうか。
そんなことを思った矢先のことであった。
破裂音がした。
車は横滑りし、木にぶつかり止まる。
何が起こったのかわからず、呆然とする俺。工藤さんと北御門も同様。
ただ一人、堂島さんだけが焦りの色を出していた。
エンジンが唸りをあげる。だが歩みは遅い。
パンクでもしたからだろうか。
道路脇の森から大量の何かが現れる。彼らは一様に全身を覆うパワードスーツを身に着けていた。迷彩であつらえたそれらはそれぞれ火器装備を身に着け、その砲身は全てこちらに向けられていた。
そのうちの一人が運転席の窓を叩き、出てくるようにハンドサインを送る。
「……自衛隊ではなさそうだな。皆、抵抗はしないでくれ」
堂島さんがそう俺らに告げて扉を開ける。
両手を挙げ、無抵抗を示すも彼らは地面に組み伏せる。
「抵抗はしない。手荒な真似はしないでくれ」
そう堂島さんは告げるも組み伏せた者は合成音で「不可思議な力を使うんだろう? 油断はできない」と砲身を突き付ける。
「お前たちも降りろ」
指示に従って俺達も降車する。
工藤さんは怯え震えていた。
北御門はどうにか脱出できないかと周囲に目を配る。
「お前が三刀総司だな?」
いくつかの銃身が俺に向けられる。
「そうだ。お前らの目的は俺だろ。だから他の奴等は解放してくれないか」
「テレビで中継されていた通りの豪胆さだな。襲われようとしているのに眉一つ動かさず落ち着いていただけある」
「褒められついでにお前らは誰で、目的はなにか教えてくれないか?」
「あまり調子に乗るなよ」
バイザー越しに睨まれていそうだった。
別のパワードスーツが俺と話していた奴を「隊長」と呼んだ。
「時間がありません。いかがしましょうか」
「わかった。目標は確保した。これより脱出する。他の奴は通信機器を取り上げたうえ、そこら辺の木に縛り付けておけ」
俺は後ろ手に縛られ、一人のパワードスーツの肩に担がれ、森の奥に入っていった。
決戦当日。戦場となるゲーム内にある出撃準備室でそう思った。
先日、理不尽に死ぬことを求められる世界で未だ生き延びている。
先日、人知れず里を出ることになった。
文字通り世界は、ケイオスが俺を殺して満足することを祈っていた。さながら荒ぶる神に生贄を差し出すが如く。日本近海には各国の軍が押し寄せ、睨み合いをしている。国内にも特殊部隊が入り込んで俺を確保しようと動いていた。確保したあとはそのままケイオスに引き渡すか、各国から譲歩を引き出すための政争の具にするか、思惑は様々だ。
あの里でさえ安心安全とはいかなくなった。
あの里は妖怪の間では有名な観光地である。ゆえに外国の妖怪が入り込みやすい土地だった。日本に住む者の中にさえ引き渡す派は少なくない状況で、他国の者に接近を許しやすい土地に居続けるわけにはいかなくなった。
ゆえに北海道にある日本最大の自衛隊駐屯地まで向かうことになった。
出迎えは結界を超えて少し行ったところ。
それまでは堂島さんが運転する車に工藤さんと北御門を乗せて移動することになっていた。
結界内はスムーズな進行であった。車内で「里の中で仲良くなった人に別れの挨拶をしなくても大丈夫だった?」と北御門の質問で盛り上がったりしていた。主に雪女に挨拶をすべきだという点で盛り上がった。俺がそういう仲じゃないと突っぱねても工藤さんが「相手の方はそうは見えなかった」と話題をご丁寧に元の場所に置いてくる。共通の友人である一反木綿が雪女に恋心を抱いていると知っている身だと、反応に困る話題であった。
この世界がラブコメならばこれから三角関係を軸にした事件でも起きるのだろうが、生憎そんな平和な世界じゃないから困る。
ただこの世界の血生臭い方が性に合っているというのもいかがなものだろうか。
そんなことを思った矢先のことであった。
破裂音がした。
車は横滑りし、木にぶつかり止まる。
何が起こったのかわからず、呆然とする俺。工藤さんと北御門も同様。
ただ一人、堂島さんだけが焦りの色を出していた。
エンジンが唸りをあげる。だが歩みは遅い。
パンクでもしたからだろうか。
道路脇の森から大量の何かが現れる。彼らは一様に全身を覆うパワードスーツを身に着けていた。迷彩であつらえたそれらはそれぞれ火器装備を身に着け、その砲身は全てこちらに向けられていた。
そのうちの一人が運転席の窓を叩き、出てくるようにハンドサインを送る。
「……自衛隊ではなさそうだな。皆、抵抗はしないでくれ」
堂島さんがそう俺らに告げて扉を開ける。
両手を挙げ、無抵抗を示すも彼らは地面に組み伏せる。
「抵抗はしない。手荒な真似はしないでくれ」
そう堂島さんは告げるも組み伏せた者は合成音で「不可思議な力を使うんだろう? 油断はできない」と砲身を突き付ける。
「お前たちも降りろ」
指示に従って俺達も降車する。
工藤さんは怯え震えていた。
北御門はどうにか脱出できないかと周囲に目を配る。
「お前が三刀総司だな?」
いくつかの銃身が俺に向けられる。
「そうだ。お前らの目的は俺だろ。だから他の奴等は解放してくれないか」
「テレビで中継されていた通りの豪胆さだな。襲われようとしているのに眉一つ動かさず落ち着いていただけある」
「褒められついでにお前らは誰で、目的はなにか教えてくれないか?」
「あまり調子に乗るなよ」
バイザー越しに睨まれていそうだった。
別のパワードスーツが俺と話していた奴を「隊長」と呼んだ。
「時間がありません。いかがしましょうか」
「わかった。目標は確保した。これより脱出する。他の奴は通信機器を取り上げたうえ、そこら辺の木に縛り付けておけ」
俺は後ろ手に縛られ、一人のパワードスーツの肩に担がれ、森の奥に入っていった。
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