妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

文字の大きさ
上 下
200 / 229
9章 半年間の間にあったこと

汐見の場合

しおりを挟む
 二ヶ月。

 あの騒動から二ヶ月が経った。

 世界的に見ればまだまだ混乱の極みだけど、汐見の周りは落ち着きを取り戻しつつあった。おかげで久しぶりに趣味として始めたブルースフィアにログインできている。

 アバターは男が寄り付かない気の強そうな海外セレブをモチーフとしたものを使っているため、普段では考えられないほど視線を感じない。高そうな見た目であるため視線はそれなりに集めはするけど、声までは掛けられないので気楽なものだ。ファン一号にはそのせいでブランド女と心の中で呼ばれていたと知った時は解せなかったが。

「一緒に遊ぶの久しぶりだねぇ」

 傍らでニコニコしているのは更科だ。タヌキの妖怪の癖に狐モチーフのアバターを使っている。以前、何故キツネなのかを訊いてみたら、キツネは男女問わず美形なのに対し、タヌキは三枚目か股間に巨大なイチモツを抱えてるのばっからしくて女性は選べないと可愛らしくプンスカしていた。ちなみにビッグデータ的にはイチモツアバターを購入しているのは女性の方が多いと出ている。

「僕までお邪魔しちゃって大丈夫でしたか?」

 その後方で所在なさげに視線をうろちょろさせるのはこの事件で知り合った北御門という退魔師さんだ。更科は私よりも昔に知り合っていたらしいが。なんでも更科が過去やらかした時に逮捕したのがこの退魔師さんで、事情聴取した際に意気投合したとか「おいおい」と突っ込みたくなるユルユルボーイだ。彼はゲーム側が用意している量産型の美丈夫アバターを使用していた。

 何故この三人でゲームをすることになったのかといえば不思議な縁としか言いようがない。

 本当はお兄さんと一緒にゲームしようと思っていたのだ。ここ最近……というよりずっと思い詰めたように修行に明け暮れている。それはもう鬼気迫るほど。まだまだ先が長い状態でのそれは続かない。

 長期間の計画を立てる上で大事なのは今日サボっても明日また頑張ろうの精神だ。

 AIが何言っているのだろうと自分でも思うし、お前努力したことないだろうと言われればそれまでだけど、色んなデータを集めた汐見だからこそ言えることがある。休まず限界まで努力できるのは短期間だけ。よくて数週間。数か月、数年単位の努力はもっと気を緩く持たないとできない。

 ゲームのデイリー報酬だってログインボーナスだけを毎日ずっと貰い続けるのは存外大変なのだから。泰然と構えるぐらいがちょうどいいのだ。

 だからお兄さんと午後からブルースフィアで遊ぼうと誘ってみたのだけど、午後は用事が入って無理だと断られてしまった。なんでも里にいる看板娘な雪女に以前迷惑をかけた賠償として買い物を手伝えと強要されているらしい。

 正直思った。

 まーた女ひっかけてる、って。

 本人にその気はないのがまたタチが悪い。

 というか汐見を前に、他の女の話をするのがおかしい。

 大昔に粗製乱造された鈍感系主人公じゃあるまいし、どうしてこう人の好意に気付けないのだろう。

 てか汐見のファンなら汐見だけを見ていて欲しい。

 そんなモヤモヤを抱えていたらそのやり取りを見ていた更科が「暇なら久しぶりに遊ぼぉ」と乗っかってきた。そんでブルースフィアに三人用ミニゲームが追加されたと知ると、仲が良いらしい退魔師さんを連れてきた。

 これは逆に汐見がお邪魔なのでは、と違うモヤモヤを抱えたのは言うまでもない。

 結局、三人で一通り遊んで今はブルースフィア内の見晴らしのいい丘の上で休憩していた。

「久しぶりにゲームなんてしたよ」

 そう言って顔を綻ばせるのは退魔師さん。

「退魔師さんは普段はゲームしないの?」

「この手のゲームはあんまりかな。普段は携帯端末でパズルゲームとかなら」

「ふうん。それっぽい」

「ゲームやらなさそうに見える?」

「アウトドア派に見えるから」

「アニメとかなら見るんだけどね。更科さんともそれで話が合ったし」

 事情聴取の場でアニメの話で盛り上がって怒られたらしい。

「それにしても次みんなで遊べるのいつになるんだろうね」

 退魔師さんは不意にそんなことを口にした。社会全体が緩やかに機能不全に陥り始めているのだからその不安は間違っていない。実質、全世界がテロリストに狙われている状況といえる。

「少人数で集まることならできるけどあたしを含めたヒマワリ三人にお兄さんも加わるとなると全てが解決した後の話かな」

「やっぱりそうなるよね」

「ところで更科に訊きたかったことがあるの」

 本体とは比べ物にならない流麗な風体がニンマリと人懐っこい笑顔を作る。

「なんですかぁ?」

「汐見がマイマイの巫女になったって話でしょ。汐見みたいな人工の存在がそういうのになれるものなの?」

 答えてしんぜよう、と立ち上がり、胸を張る。

 頭の悪い美人にしか見えない更科が言うには、心さえあればなんでもいいらしい。だから人工知能が巫女になってもおかしくないし、犬とか猫とか蛇とか亀とかがそういうものを担っていた神様もいた。流石にそれらは巫女とは呼ばず、神使というらしい。

「巫女になったAIなんて世界初だよぉ。巫女になってからなにか変わったこととかあったら教えてねぇ」

 マイマイと繋がった時、おそらく巫女として初めて力に触れた時、感じたことがあった。色んなデータを探してもピッタリそれを言い表す言葉は見つからない。ファジーさを許容するのであれば世界が広がる感覚を覚えた。

 うん、何を言っているのかわからない。

「よくわからない感覚はあったかな。もしかしたらあのケイオスと一緒かもね。アレも自分の力に振り回されてたみたいだし」

「あ、ケイオスで思い出したんだけどぉ、あのゼロイチで出来た身体何処かで見覚えあったなぁ。あ、そうだぁ。以前お仕事で対応した暴走車事件で対応した時に見たんだぁ!」

 ギョッとした。

 世界が欲する情報をこんなどうでもいいところで思い出すなんて。退魔師さんも退魔師さんで「あんなゼロイチの羅列でよく見分けがつくなぁ」なんて関心していないで。

「更科。それってどの程度事件に関係ありそう?」

 極めて冷静に努めて尋ねる。

 まさかAIたる私が自覚的に冷静に努めなければいけない日がくるとは思わなかった。

「ふふん、たぶんあんな特徴的な羅列は滅多にないからきっと根っ子の部分は一緒に違いないよぉ!」

 うん、ここにお兄さんがいなくて良かったと思った。お兄さんの心痛を減らすことができたのだから。

「二人とも。レクリエーションの時間はここまで。残念ながらお仕事の時間がきてしまったようね」

 とりあえず西野さんに連絡してみよう。先日、邪馬台国がどうこうで苦労していた彼女に連絡を入れるのは気が引けるが、この事件が解決したらきっと国は貴女に報いてくれるはず。多分きっとおそらくメイビー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち
SF
 敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。  この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。  パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!  ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

処理中です...