妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

文字の大きさ
上 下
198 / 229
9章 半年間の間にあったこと

舞香の場合

しおりを挟む
 私は三刀舞香。

 今をときめき、明日に煌めく天才美少女ネットアイドルである。そして、神である。

 神とはなんぞと問われれば、答えてあげたいところであるが私にもさっぱりである。なんか偉いものであるぐらいしかわからない。ちんぷんかんぷんである。

 そんな私が神だなんて何かの悪い冗談か手の込んだドッキリでしかないと思う。世界中を巻き込んだ事件の渦中にいる手前、それを口外しない良識はあるけどもそう思ってしまう。

 というか私が神なんて「どうしてこうなった?」と苦笑いを浮かべるしかない。

 そもそも記憶を失って途方に暮れていた去年はこうなるなんて思いもしなかった。

 当時、私は記憶の殆どを失っていた。残っていたのは元より少なかった社会常識と必要最低限度の自己認識、それと敬愛かつ最愛なにーちゃんの記憶だけ。にーちゃんのことを忘れなかったことで愛が本物だと一人胸を張ったが、それはそれとして電脳世界で一人途方に暮れるしかなかった。

 ログアウトしようにも謎エラーで元の場所に送り返されるわ、誰かに連絡をしようと連絡先を見ても誰がどういう関係性なのかすらわからない。その中でにーちゃんだけ連絡先をわかっていたがこの状況をなんて説明すればいいのか分からなかった。

 他に同じような現象が発生してないか調べたり、自分の名前や年齢をもとに自身について調べたりして、どういう状況に置かれているのかは理解していた。死後数ヶ月経過していたことも理解した。

 だからこそ妹を名乗る不審者とにーちゃんに思われてしまうと思うと連絡するのに躊躇してしまった。

 ま、一週間ぐらいで音を上げてしまったけども。

 されど一週間である。

 肉体がなくなってしまったせいか各種根源的欲求も消え去ってしまった。寝なくても平気な身体になってしまったのである。

 つまり実質倍の時間、寂しさに震えながら耐えていたのである。にーちゃんと違ってきっと友達の多かったであろう私が音を上げるのも仕方なかった。

 それからにーちゃんの受難は始まった。

 受難の数々を思えば神になるのに相応しいのは私ではなくてにーちゃんの方だろう。にーちゃんの周囲の人もにーちゃんが頼りになるのが判明してからはにーちゃんによく相談を持ちかけていた。面倒事を押し付けているともいう。

 血の繋がりのない妹のためによくやっているなと思う。

 その癖、私のことを心の底からなんとも思っていないのに何故やるのか不思議である。

 私にあそこまで興味を持たない人間はにーちゃんだけであった。

 私は天才だと散々嘯いてみたけれど、半分は本当。

 勉強はできないけれど運動神経とか反射神経みたいな頭を使わないことは昔から得意だった。他人からすると魅力的に映る謎のカリスマ性もあったらしく、周囲に人が絶えたこともなければ、どんな人間でもイエスマンにしてしまえていた。

 いつも誰かしら私を甘やかしてくれた。

 それを友情や愛情だと思いこんでいた。

 唯一、思い通りに動いてくれなかったのがにーちゃんだった。

 いうて酷い扱いを受けたわけではない。ただただ距離感の遠い普通の兄妹であったというだけのことだ。もっともそれが私こそが世界の中心だと思い上がっていた私にとっては青天の霹靂であった。当時の私はちょっとぶりっ子すれば誰であろうと言うことを聞くと思っていた。まごうことなきクソガキであった。

 一つだけ当時の私を擁護するならば、子供ながらに死んだ目をしているにーちゃんを怯えて当然だ。高校でだいぶ丸くなったものの、小中のにーちゃんは一人だけ仁義なき戦いに臨む風格があった。子供なのに劇画チックな雰囲気を持つ子供であった。

 にーちゃんに絆されたキッカケはアレ。

 小学生の時に二人で遊びに出掛けたことだと思う。

 どうして二人で出かけることになったのか。それはどうも記憶に靄がかかって思い出せないが、遊んだ記憶は残っている。最初は「にーちゃんと二人で出かけるなんて気まずい!」なんて心中で大騒ぎしていたが、出かけてみれば案外ちゃんとコミュニケーションが取れるし、驚くぐらい愉快な性格してるし、優しいしでソッコー絆された。

 我ながらちょろい女である。

 でも好きになったのはその少し後で交通事故に遭ってからのことであった。

 気付いたら車が凄い勢いで迫ってきており、そちらに注意が向いて足も止まり、轢かれる運命しか見えなかった。私も私で「できれば綺麗な顔で死にたいなぁ」なんて諦めていた。

 けれどにーちゃんが助けてくれた。

 押されて見えたその顔は必死そのもので、迂闊にも「カッコイイ」なんて思ってしまった。胸キュンしてしまった。惚れてしまったのだ。

 そして、にーちゃんは私の身代わりになって轢かれた。

 うん、まあ、私は骨を折って、にーちゃんは轢かれたのにほぼ無傷という結果は未だにおかしいと思うけど。

 その後、入院した私は何故か手に入れた中古のヘッドマウントディスプレイで電脳世界に入り浸っていた。後ににーちゃんのものだと知る訳だが、手に入れてすぐには気付かなかった。

 前の持主のデータが残っていたのをいいことに、どんか趣味趣向をしていたのか調査してやろうと好奇心が赴くままに履歴に残っていた電脳世界を片っ端から追っていった。

 履歴には綺麗な風景の世界が多かった。観光地を模した世界、ファンタジーのような世界、私には少し早かった歓楽街の世界など、色々あった。

 その中で気になったのは、他の電脳世界は一度行ったらそれっきりなのに、とある一つの電脳世界にだけは足繁く通っていたことだった。

 この時にはこれがにーちゃんの履歴であると気付いていた。だからこの謎は調査しなければならないと使命感と好奇心が共謀して調査を開始した。

 その結果、にーちゃんが足繁く通っていた期間は売出し中のネットアイドル達が毎日イベントをやっていた期間と重なっていた。つまり、にーちゃんは隠れアイドルオタクであることが判明した。

 その事実をキッカケに、ネットアイドルになると決意した。

 そうとなれば誰を参考にするか決めなければならない。

 つまりは兄の推しと同系統にしようと考えた。

 だがこれについては正直、推測だった。そのイベントには多くのアイドルがいたため、誰が好みなのか分からなかったのだ。滅茶苦茶困った。だからそのイベントに参加していた一番人気な新人アイドルと同じ系統であるゴスロリ系を踏襲した。幸い、私の趣味とも合致したのは助かった。二番人気の痴女系お姉さんバラドルをやる勇気はなかったから一番人気に逃げた。ただ決めるまで「男ってこういうのが好きなんだよね……」と覚悟を決めるギリギリまで悩んだ。無駄に覚悟を決めないで良かった。

 今では何故かゴスロリ系アイドルではなく神様と呼ばれるようになったのは不満だ。そりゃまあ天才ゆえ、神様の力的なものを感覚で使えてしまえたが、神様である以前にアイドルなのだ。信者は欲しいが、宗教的なものではなく、ファンとして欲しいのだ。

 それに! それじゃにーちゃんの推しなシオミンに勝てないではないか! いつかギャフンと言わせてやる! そのうちファン投票で上回ってやるんだから!

 ま、いつもは年度末に行われるそれも来年は行われるかわからない。

 あのクソガキが世界を滅ぼすと宣言したからだ。

 多くのアイドルが活動を休止。一部の人生をアイドルに捧げた修羅勢だけが活動をしているだけとなった。ヒマワリは信仰心を集めるために活動を継続しているが、業界自体が元気をなくせばその煽りは受ける。

 たぶん残りの半年間、私は業界を盛り上げるために修羅勢の人達とコラボしたり、にーちゃんの手伝いをしたり、シオミンに楯突いたりして過ごすことになると思う。

 ああ、半年後どうなっているんだろう。

 何事もなく事件が解決して、みんな笑顔で元の生活に戻る――なんていかないんだろうなぁ。

 少なくともにーちゃんは予想外の方向に巻き込まれる謎の確信がある。

 なんでもやる覚悟がある人間だから。

 そういう人のところには面倒事を抱えた人間が集まるものなのだ。

 でもアパートに乗り込まれても逃げないような事態は避けたい。でも私の“声”も届かない唯一の人だから。私じゃきっと助けられない。

 だから私は問題の解決は誰かに任せて、解決したそれを良い方向に持っていくことに尽力するのだ。

 まずは今回のライブで全く活躍できなかったにーちゃんを貶めたいアンチの対策から始めよう!

 全てはにーちゃんに褒められるために!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪女ですがなにか~追放悪妃は廃太子を道連れに後宮生活を謳歌する~

松田 詩依
ファンタジー
規則で雁字搦めの後宮で、全てを無視し自由奔放に生きる悪女がいた! 第一皇太子妃・蘭華(らんか)は後宮の規律を破った罰として追放され、死罪を宣告された。 だけど彼女はくじけなかった! 「それはつまり離縁ってことですよね! 貴方のような無能と結婚せずに済むなら大歓迎!」 そうしてウキウキ気分で地下牢に投獄された彼女は、そこで龍煌(りゅうこう)という青年と出会う。 彼はこの国の第二王子。だが、その身は呪われいるせいで忌み嫌われ、追放された廃太子であった。 「お噂の殿下と会えて光栄です! ねえ、貴方。私の夫にならない?」 ここでも蘭華は超ポジティブだった。 自由奔放な悪女が、廃太子を道連れに後宮での第二の人生謳歌します! 知らず知らずに後宮の問題を解決していく、後宮世直し中華ファンタジー開幕!? 「悪女ですが、なにか?」 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・出来事とはいっさい関係がありません。ご了承ください。 ※カクヨム・なろうにも掲載しております

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。 しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。 そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。 このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。 しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。 妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。 それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。 それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。 彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。 だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。 そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

ゴブリンしか召喚出来なくても最強になる方法 ~無能とののしられて追放された宮廷召喚士、ボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティーで無双する~

石矢天
ファンタジー
「ラキス・トライク。貴様は今日限りでクビだ」 「ゴブリンしか召喚できない無能」 「平民あがりのクズ」  強大で希少なモンスターを召喚できるエリート貴族が集まる宮廷召喚士の中で、ゴブリンしか召喚できない平民出身のラキスはついに宮廷をクビになる。  ラキスはクビになったことは気にしていない。  宮廷で働けば楽な暮らしが出来ると聞いていたのに、政治だ派閥だといつも騒がしいばかりだったから良い機会だ。  だが無能だとかクズだとか言われたことは根に持っていた。  自分をクビにした宮廷召喚士長の企みを邪魔しようと思ったら、なぜか国の第二王女を暗殺計画から救ってしまった。 「ボクを助けた責任を取って」 「いくら払える?」 「……ではらう」 「なに?」 「対価はボクのカラダで払うって言ったんだ!!」  ただ楽な生活をして生きていたいラキスは、本人が望まないままボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティで無双し、なぜか国まで救ってしまうことになる。 本作品は三人称一元視点です。 「なろうRawi」でタイトルとあらすじを磨いてみました。 タイトル:S スコア9156 あらすじ:S スコア9175

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

処理中です...