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9章 半年間の間にあったこと
舞香の場合
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私は三刀舞香。
今をときめき、明日に煌めく天才美少女ネットアイドルである。そして、神である。
神とはなんぞと問われれば、答えてあげたいところであるが私にもさっぱりである。なんか偉いものであるぐらいしかわからない。ちんぷんかんぷんである。
そんな私が神だなんて何かの悪い冗談か手の込んだドッキリでしかないと思う。世界中を巻き込んだ事件の渦中にいる手前、それを口外しない良識はあるけどもそう思ってしまう。
というか私が神なんて「どうしてこうなった?」と苦笑いを浮かべるしかない。
そもそも記憶を失って途方に暮れていた去年はこうなるなんて思いもしなかった。
当時、私は記憶の殆どを失っていた。残っていたのは元より少なかった社会常識と必要最低限度の自己認識、それと敬愛かつ最愛なにーちゃんの記憶だけ。にーちゃんのことを忘れなかったことで愛が本物だと一人胸を張ったが、それはそれとして電脳世界で一人途方に暮れるしかなかった。
ログアウトしようにも謎エラーで元の場所に送り返されるわ、誰かに連絡をしようと連絡先を見ても誰がどういう関係性なのかすらわからない。その中でにーちゃんだけ連絡先をわかっていたがこの状況をなんて説明すればいいのか分からなかった。
他に同じような現象が発生してないか調べたり、自分の名前や年齢をもとに自身について調べたりして、どういう状況に置かれているのかは理解していた。死後数ヶ月経過していたことも理解した。
だからこそ妹を名乗る不審者とにーちゃんに思われてしまうと思うと連絡するのに躊躇してしまった。
ま、一週間ぐらいで音を上げてしまったけども。
されど一週間である。
肉体がなくなってしまったせいか各種根源的欲求も消え去ってしまった。寝なくても平気な身体になってしまったのである。
つまり実質倍の時間、寂しさに震えながら耐えていたのである。にーちゃんと違ってきっと友達の多かったであろう私が音を上げるのも仕方なかった。
それからにーちゃんの受難は始まった。
受難の数々を思えば神になるのに相応しいのは私ではなくてにーちゃんの方だろう。にーちゃんの周囲の人もにーちゃんが頼りになるのが判明してからはにーちゃんによく相談を持ちかけていた。面倒事を押し付けているともいう。
血の繋がりのない妹のためによくやっているなと思う。
その癖、私のことを心の底からなんとも思っていないのに何故やるのか不思議である。
私にあそこまで興味を持たない人間はにーちゃんだけであった。
私は天才だと散々嘯いてみたけれど、半分は本当。
勉強はできないけれど運動神経とか反射神経みたいな頭を使わないことは昔から得意だった。他人からすると魅力的に映る謎のカリスマ性もあったらしく、周囲に人が絶えたこともなければ、どんな人間でもイエスマンにしてしまえていた。
いつも誰かしら私を甘やかしてくれた。
それを友情や愛情だと思いこんでいた。
唯一、思い通りに動いてくれなかったのがにーちゃんだった。
いうて酷い扱いを受けたわけではない。ただただ距離感の遠い普通の兄妹であったというだけのことだ。もっともそれが私こそが世界の中心だと思い上がっていた私にとっては青天の霹靂であった。当時の私はちょっとぶりっ子すれば誰であろうと言うことを聞くと思っていた。まごうことなきクソガキであった。
一つだけ当時の私を擁護するならば、子供ながらに死んだ目をしているにーちゃんを怯えて当然だ。高校でだいぶ丸くなったものの、小中のにーちゃんは一人だけ仁義なき戦いに臨む風格があった。子供なのに劇画チックな雰囲気を持つ子供であった。
にーちゃんに絆されたキッカケはアレ。
小学生の時に二人で遊びに出掛けたことだと思う。
どうして二人で出かけることになったのか。それはどうも記憶に靄がかかって思い出せないが、遊んだ記憶は残っている。最初は「にーちゃんと二人で出かけるなんて気まずい!」なんて心中で大騒ぎしていたが、出かけてみれば案外ちゃんとコミュニケーションが取れるし、驚くぐらい愉快な性格してるし、優しいしでソッコー絆された。
我ながらちょろい女である。
でも好きになったのはその少し後で交通事故に遭ってからのことであった。
気付いたら車が凄い勢いで迫ってきており、そちらに注意が向いて足も止まり、轢かれる運命しか見えなかった。私も私で「できれば綺麗な顔で死にたいなぁ」なんて諦めていた。
けれどにーちゃんが助けてくれた。
押されて見えたその顔は必死そのもので、迂闊にも「カッコイイ」なんて思ってしまった。胸キュンしてしまった。惚れてしまったのだ。
そして、にーちゃんは私の身代わりになって轢かれた。
うん、まあ、私は骨を折って、にーちゃんは轢かれたのにほぼ無傷という結果は未だにおかしいと思うけど。
その後、入院した私は何故か手に入れた中古のヘッドマウントディスプレイで電脳世界に入り浸っていた。後ににーちゃんのものだと知る訳だが、手に入れてすぐには気付かなかった。
前の持主のデータが残っていたのをいいことに、どんか趣味趣向をしていたのか調査してやろうと好奇心が赴くままに履歴に残っていた電脳世界を片っ端から追っていった。
履歴には綺麗な風景の世界が多かった。観光地を模した世界、ファンタジーのような世界、私には少し早かった歓楽街の世界など、色々あった。
その中で気になったのは、他の電脳世界は一度行ったらそれっきりなのに、とある一つの電脳世界にだけは足繁く通っていたことだった。
この時にはこれがにーちゃんの履歴であると気付いていた。だからこの謎は調査しなければならないと使命感と好奇心が共謀して調査を開始した。
その結果、にーちゃんが足繁く通っていた期間は売出し中のネットアイドル達が毎日イベントをやっていた期間と重なっていた。つまり、にーちゃんは隠れアイドルオタクであることが判明した。
その事実をキッカケに、ネットアイドルになると決意した。
そうとなれば誰を参考にするか決めなければならない。
つまりは兄の推しと同系統にしようと考えた。
だがこれについては正直、推測だった。そのイベントには多くのアイドルがいたため、誰が好みなのか分からなかったのだ。滅茶苦茶困った。だからそのイベントに参加していた一番人気な新人アイドルと同じ系統であるゴスロリ系を踏襲した。幸い、私の趣味とも合致したのは助かった。二番人気の痴女系お姉さんバラドルをやる勇気はなかったから一番人気に逃げた。ただ決めるまで「男ってこういうのが好きなんだよね……」と覚悟を決めるギリギリまで悩んだ。無駄に覚悟を決めないで良かった。
今では何故かゴスロリ系アイドルではなく神様と呼ばれるようになったのは不満だ。そりゃまあ天才ゆえ、神様の力的なものを感覚で使えてしまえたが、神様である以前にアイドルなのだ。信者は欲しいが、宗教的なものではなく、ファンとして欲しいのだ。
それに! それじゃにーちゃんの推しなシオミンに勝てないではないか! いつかギャフンと言わせてやる! そのうちファン投票で上回ってやるんだから!
ま、いつもは年度末に行われるそれも来年は行われるかわからない。
あのクソガキが世界を滅ぼすと宣言したからだ。
多くのアイドルが活動を休止。一部の人生をアイドルに捧げた修羅勢だけが活動をしているだけとなった。ヒマワリは信仰心を集めるために活動を継続しているが、業界自体が元気をなくせばその煽りは受ける。
たぶん残りの半年間、私は業界を盛り上げるために修羅勢の人達とコラボしたり、にーちゃんの手伝いをしたり、シオミンに楯突いたりして過ごすことになると思う。
ああ、半年後どうなっているんだろう。
何事もなく事件が解決して、みんな笑顔で元の生活に戻る――なんていかないんだろうなぁ。
少なくともにーちゃんは予想外の方向に巻き込まれる謎の確信がある。
なんでもやる覚悟がある人間だから。
そういう人のところには面倒事を抱えた人間が集まるものなのだ。
でもアパートに乗り込まれても逃げないような事態は避けたい。でも私の“声”も届かない唯一の人だから。私じゃきっと助けられない。
だから私は問題の解決は誰かに任せて、解決したそれを良い方向に持っていくことに尽力するのだ。
まずは今回のライブで全く活躍できなかったにーちゃんを貶めたいアンチの対策から始めよう!
全てはにーちゃんに褒められるために!
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神とはなんぞと問われれば、答えてあげたいところであるが私にもさっぱりである。なんか偉いものであるぐらいしかわからない。ちんぷんかんぷんである。
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というか私が神なんて「どうしてこうなった?」と苦笑いを浮かべるしかない。
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当時、私は記憶の殆どを失っていた。残っていたのは元より少なかった社会常識と必要最低限度の自己認識、それと敬愛かつ最愛なにーちゃんの記憶だけ。にーちゃんのことを忘れなかったことで愛が本物だと一人胸を張ったが、それはそれとして電脳世界で一人途方に暮れるしかなかった。
ログアウトしようにも謎エラーで元の場所に送り返されるわ、誰かに連絡をしようと連絡先を見ても誰がどういう関係性なのかすらわからない。その中でにーちゃんだけ連絡先をわかっていたがこの状況をなんて説明すればいいのか分からなかった。
他に同じような現象が発生してないか調べたり、自分の名前や年齢をもとに自身について調べたりして、どういう状況に置かれているのかは理解していた。死後数ヶ月経過していたことも理解した。
だからこそ妹を名乗る不審者とにーちゃんに思われてしまうと思うと連絡するのに躊躇してしまった。
ま、一週間ぐらいで音を上げてしまったけども。
されど一週間である。
肉体がなくなってしまったせいか各種根源的欲求も消え去ってしまった。寝なくても平気な身体になってしまったのである。
つまり実質倍の時間、寂しさに震えながら耐えていたのである。にーちゃんと違ってきっと友達の多かったであろう私が音を上げるのも仕方なかった。
それからにーちゃんの受難は始まった。
受難の数々を思えば神になるのに相応しいのは私ではなくてにーちゃんの方だろう。にーちゃんの周囲の人もにーちゃんが頼りになるのが判明してからはにーちゃんによく相談を持ちかけていた。面倒事を押し付けているともいう。
血の繋がりのない妹のためによくやっているなと思う。
その癖、私のことを心の底からなんとも思っていないのに何故やるのか不思議である。
私にあそこまで興味を持たない人間はにーちゃんだけであった。
私は天才だと散々嘯いてみたけれど、半分は本当。
勉強はできないけれど運動神経とか反射神経みたいな頭を使わないことは昔から得意だった。他人からすると魅力的に映る謎のカリスマ性もあったらしく、周囲に人が絶えたこともなければ、どんな人間でもイエスマンにしてしまえていた。
いつも誰かしら私を甘やかしてくれた。
それを友情や愛情だと思いこんでいた。
唯一、思い通りに動いてくれなかったのがにーちゃんだった。
いうて酷い扱いを受けたわけではない。ただただ距離感の遠い普通の兄妹であったというだけのことだ。もっともそれが私こそが世界の中心だと思い上がっていた私にとっては青天の霹靂であった。当時の私はちょっとぶりっ子すれば誰であろうと言うことを聞くと思っていた。まごうことなきクソガキであった。
一つだけ当時の私を擁護するならば、子供ながらに死んだ目をしているにーちゃんを怯えて当然だ。高校でだいぶ丸くなったものの、小中のにーちゃんは一人だけ仁義なき戦いに臨む風格があった。子供なのに劇画チックな雰囲気を持つ子供であった。
にーちゃんに絆されたキッカケはアレ。
小学生の時に二人で遊びに出掛けたことだと思う。
どうして二人で出かけることになったのか。それはどうも記憶に靄がかかって思い出せないが、遊んだ記憶は残っている。最初は「にーちゃんと二人で出かけるなんて気まずい!」なんて心中で大騒ぎしていたが、出かけてみれば案外ちゃんとコミュニケーションが取れるし、驚くぐらい愉快な性格してるし、優しいしでソッコー絆された。
我ながらちょろい女である。
でも好きになったのはその少し後で交通事故に遭ってからのことであった。
気付いたら車が凄い勢いで迫ってきており、そちらに注意が向いて足も止まり、轢かれる運命しか見えなかった。私も私で「できれば綺麗な顔で死にたいなぁ」なんて諦めていた。
けれどにーちゃんが助けてくれた。
押されて見えたその顔は必死そのもので、迂闊にも「カッコイイ」なんて思ってしまった。胸キュンしてしまった。惚れてしまったのだ。
そして、にーちゃんは私の身代わりになって轢かれた。
うん、まあ、私は骨を折って、にーちゃんは轢かれたのにほぼ無傷という結果は未だにおかしいと思うけど。
その後、入院した私は何故か手に入れた中古のヘッドマウントディスプレイで電脳世界に入り浸っていた。後ににーちゃんのものだと知る訳だが、手に入れてすぐには気付かなかった。
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その中で気になったのは、他の電脳世界は一度行ったらそれっきりなのに、とある一つの電脳世界にだけは足繁く通っていたことだった。
この時にはこれがにーちゃんの履歴であると気付いていた。だからこの謎は調査しなければならないと使命感と好奇心が共謀して調査を開始した。
その結果、にーちゃんが足繁く通っていた期間は売出し中のネットアイドル達が毎日イベントをやっていた期間と重なっていた。つまり、にーちゃんは隠れアイドルオタクであることが判明した。
その事実をキッカケに、ネットアイドルになると決意した。
そうとなれば誰を参考にするか決めなければならない。
つまりは兄の推しと同系統にしようと考えた。
だがこれについては正直、推測だった。そのイベントには多くのアイドルがいたため、誰が好みなのか分からなかったのだ。滅茶苦茶困った。だからそのイベントに参加していた一番人気な新人アイドルと同じ系統であるゴスロリ系を踏襲した。幸い、私の趣味とも合致したのは助かった。二番人気の痴女系お姉さんバラドルをやる勇気はなかったから一番人気に逃げた。ただ決めるまで「男ってこういうのが好きなんだよね……」と覚悟を決めるギリギリまで悩んだ。無駄に覚悟を決めないで良かった。
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それに! それじゃにーちゃんの推しなシオミンに勝てないではないか! いつかギャフンと言わせてやる! そのうちファン投票で上回ってやるんだから!
ま、いつもは年度末に行われるそれも来年は行われるかわからない。
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たぶん残りの半年間、私は業界を盛り上げるために修羅勢の人達とコラボしたり、にーちゃんの手伝いをしたり、シオミンに楯突いたりして過ごすことになると思う。
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少なくともにーちゃんは予想外の方向に巻き込まれる謎の確信がある。
なんでもやる覚悟がある人間だから。
そういう人のところには面倒事を抱えた人間が集まるものなのだ。
でもアパートに乗り込まれても逃げないような事態は避けたい。でも私の“声”も届かない唯一の人だから。私じゃきっと助けられない。
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