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8章 神と巫女

優しすぎて引き際を見失ったともいう

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 半年後の宣戦布告についてはケイオスがとあることを明言しため、世界的に一つの論調に纏まっていた。

「総司の身柄を渡せば神の座は舞香に譲り渡す」

 とんでもない爆弾を落としやがった。

 舞香とケイオス。

 片方は頭の悪いアイドルで、片方は記憶を奪って回る悪鬼羅刹の類。どちらが神に相応しいかどうかはともかくとして、人畜無害さで言えば妹に軍配が挙がる。

 ゆえに世間は、大衆は、世界は俺を生贄にしろという論調だった。将来、神になる妹から恨みを買うことよりも今現在ある危機を乗り越えたいらしい。主に命の価値が低い国からの賛同が多かったらしい。そうは言いつつ人権国家と謳われる国々からも消極的参戦する声はあった。

 我が命の価値は、以前から低い低いと考えていたがついに底値がついたようだ。いや、世界から望まれて死ぬことを考えれば空前絶後の高値なのかもしれない。

 いやはや、こんな世界は間違っていると嘯いていたら、世界から見放されるとは。後世の歴史の教科書にはなんと書かれるのか楽しみである。

「人身御供とか言うんだっけな、こういうの」

 そう肩を竦めたら「樹神さんを始めに他の神様たちも怒り狂って大変なことになってるから安心して」と北御門は表情を柔らかくした。

「他の神様については詳しく知らないが怒ってるのか?」

「うん。ようやく生贄なんて悪しき風習がなくなったのに、また復活させる気かって」

「生贄って意味なかったのか?」

「昔に比べればかな。呪術的な意味合いであれば儀式の一環としては意味あるけど、今残ってる神様達はそういうのやらなかったから。むしろ、そういう神様達だから今でも残ってくれてるんだよ」

 そんなことを話していると、そういう神様の一人である樹神さんが部屋に入ってきた。いつもの颯爽と肩で風を切るカッコよさはどこへやら。自慢の長髪はぼさぼさ、服はヨレヨレ、口には栄養ドリンクの瓶が咥えられていた。数日間の徹夜の果て、心が病んで栄養ドリンクをおしゃぶり代わりにして心を落ち着かせている限界サラリーマンの風貌を呈していた。

「会長、お疲れ様です」

 北御門が立ち上がって頭を下げる。

「あーおはよーさん。そっちも無事目覚めたようでなによりやわ」

 樹神さんはよろよろとした足取りでソファに腰掛け、そのまま横に倒れ込む。

「しんどいわー他の神どもが陰キャ過ぎてメディア対応全部ウチとかマジでキッツイわぁ」

 優しい神々ではあるが、人前が得意かどうかはまた別問題であるらしい。

「いい歳してオドオドしてくさってほんまに。ウチより何百歳年上やと思っとんねん。なーにがじゅーちゃんは物怖じしないからや。こちとら慣れるために訓練しとったんやぞ」

 神様なのに呪詛を振りまく樹神さんに今度は北御門が肩をすくめた。

「会長には皆さん感謝しておいでです。メディア対応する会長が日本に在住しているおかげで我が国も三刀さんの受け渡し反対に強く出れているんです」

「その割に国内でも受け渡せって声が多いのマジで謎なんやけど」

「三刀さんはアンチも多いですから仕方ないです」

「そいつらに神罰落としたろか!」

 どこまでいっても迷惑をかけるのが我がアンチの特徴らしい。

「あ、目ぇ覚めたんなら言わんとな」

 樹神さんは脱力し、ソファから半身が落ちても気にせず俺に視線を寄越した。

「君、人間辞め始めてるで」

 間違いなくその姿勢で言うようなことではないだろう。
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