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8章 神と巫女
二進数の繭
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観客は熱狂する。
妹の名を連呼する。
頭の悪い発言も実績が伴えば妄言ではなくなるらしい。
妹は会場の空気を我が物としていた。
対するケイオスは沈黙。剣を下ろし、胸元を抑えている。あの激昂が嘘のようである。
妹の後ろに控える汐見とカレンさんは狼狽えていた。自らの身体が微光を発し、それが線になって妹に流れている状況に追いつけていないようであった。
ここにいるほとんどの人が事態を把握できていない。
唯一分かっているのは、妹が優勢なことだけである。
「身の程知ったか! さっさと出てけ!」
先程まで苦悶の表情を浮かべていたとは思えぬほど強気な発言。だがその強気の背後に立つ神の力によって、それが許された。
ケイオスは顔を上げる。
無機質な身体で表情は読み取れないはずなのに、苦しみに身を蝕まれていることが見て取れた。
「お前……なんともないのか……?」
ケイオスの問いかけ。
妹は首を捻る。
「何訊きたいかさっぱりなんだけど。むしろ調子で言ったら最高だけどね!」
ケイオスは肩を震わせる。
「お前に押し付けた権能にも嫌われ、奪った権能にも嫌われる。あぁ二度も嫌われるなんて無才は辛いなぁ」
笑い声とも泣き声とも取れる声色。
「しかも押し付けた方は権能に認められたときた」
だがそこに悲壮感はない。
「だがそれでいい」
決意が固まる。
「人類のツケとして生まれた僕にはそれでいい」
無機質な体躯の輪郭がブレる。
「誰にも認められなくとも全てをねじ伏せ! 完璧に至る!」
決意の発露。
それは俺が魂を燃やすのと同じもの。
それがケイオスの全身にノイズが走らせていた。
「なにが神だ! 神になれぬなら魔王になってやる! 一つになんて戻らせてたまるか!」
ノイズはゼロとイチ、二進数の渦となりケイオスの身体を呑み込んでいく。それはさながら繭のような楕円体に移り変わる。
となれば考えられるのは二つに一つ。
ドロドロに溶かされ命を絶たれるか。
もしくは新しい形で生まれ変わるか。
「にーちゃん! アレ壊せない!? 私守り方しかわっかんないんだけど!」
動けない俺にお呼び出しがかかる。
村雨は柄すら気付かぬうちに消え果て、心も自ら殺し、力を一つ残らず失くしてしまった俺に何ができるというのか。
いや、違うな。
やらねばならぬのだ。
妹のためなら一肌脱ぐというのが兄という存在だ。
フラつき倒れそうになりながら立ち上がる。
鈍重な足を引きずり前へ進む。
遠く離れたゼロとイチの繭に向かって手を伸ばす。
独り言のように小さい声を発す。
「俺はどうなろうと構わない」
自分の中のソレに語り掛けた。
「奴は俺のテリトリーを侵した」
影に語り掛けた。
「暴れてこい。昔のように」
怒りを全て外に向けていたあの頃のように。
妹の名を連呼する。
頭の悪い発言も実績が伴えば妄言ではなくなるらしい。
妹は会場の空気を我が物としていた。
対するケイオスは沈黙。剣を下ろし、胸元を抑えている。あの激昂が嘘のようである。
妹の後ろに控える汐見とカレンさんは狼狽えていた。自らの身体が微光を発し、それが線になって妹に流れている状況に追いつけていないようであった。
ここにいるほとんどの人が事態を把握できていない。
唯一分かっているのは、妹が優勢なことだけである。
「身の程知ったか! さっさと出てけ!」
先程まで苦悶の表情を浮かべていたとは思えぬほど強気な発言。だがその強気の背後に立つ神の力によって、それが許された。
ケイオスは顔を上げる。
無機質な身体で表情は読み取れないはずなのに、苦しみに身を蝕まれていることが見て取れた。
「お前……なんともないのか……?」
ケイオスの問いかけ。
妹は首を捻る。
「何訊きたいかさっぱりなんだけど。むしろ調子で言ったら最高だけどね!」
ケイオスは肩を震わせる。
「お前に押し付けた権能にも嫌われ、奪った権能にも嫌われる。あぁ二度も嫌われるなんて無才は辛いなぁ」
笑い声とも泣き声とも取れる声色。
「しかも押し付けた方は権能に認められたときた」
だがそこに悲壮感はない。
「だがそれでいい」
決意が固まる。
「人類のツケとして生まれた僕にはそれでいい」
無機質な体躯の輪郭がブレる。
「誰にも認められなくとも全てをねじ伏せ! 完璧に至る!」
決意の発露。
それは俺が魂を燃やすのと同じもの。
それがケイオスの全身にノイズが走らせていた。
「なにが神だ! 神になれぬなら魔王になってやる! 一つになんて戻らせてたまるか!」
ノイズはゼロとイチ、二進数の渦となりケイオスの身体を呑み込んでいく。それはさながら繭のような楕円体に移り変わる。
となれば考えられるのは二つに一つ。
ドロドロに溶かされ命を絶たれるか。
もしくは新しい形で生まれ変わるか。
「にーちゃん! アレ壊せない!? 私守り方しかわっかんないんだけど!」
動けない俺にお呼び出しがかかる。
村雨は柄すら気付かぬうちに消え果て、心も自ら殺し、力を一つ残らず失くしてしまった俺に何ができるというのか。
いや、違うな。
やらねばならぬのだ。
妹のためなら一肌脱ぐというのが兄という存在だ。
フラつき倒れそうになりながら立ち上がる。
鈍重な足を引きずり前へ進む。
遠く離れたゼロとイチの繭に向かって手を伸ばす。
独り言のように小さい声を発す。
「俺はどうなろうと構わない」
自分の中のソレに語り掛けた。
「奴は俺のテリトリーを侵した」
影に語り掛けた。
「暴れてこい。昔のように」
怒りを全て外に向けていたあの頃のように。
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