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8章 神と巫女

最強の概念

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 その白く無機質な肢体は光沢を纏っていた。多くの記憶を喰らい、数多の犠牲者を出して作り上げたそれはまるで神として一段近づいたと喧伝しているようであった。

 ケイオスがゆったりとした動作でステージに目を向けた。それから客席に目を向ける。獲物の吟味。どの順番で喰おうか考える余裕。

 どうやらケイオスは好物を最初に戴くタイプらしい。

 白銀の剣を構え、ステージと向かい合う。

 その視線の先には妹がいた。

 ステージ裏にいた俺はステージ上に飛び出し、相対する。

 背にいる三人に「離れるな!」と叫んだ。

 ログアウトはできないことは確認済み。

 ならぱ三人を守ることに専念するのが俺の使命である。

 俺は一本の武器を無から手の内に生成した。

 それは乱刃の刃文を宿した一振であった。

 奴の体の光沢にも負けない煌めく刀身。それは見るもの全ての目を奪い、息を呑ませ、これを欲する意識に苛まれるほど苛烈な美であった。

 これは他のゲームにあるグラフィックと当たり判定で再現した単なる武器ではない。ポンポコリンの呪術的アプローチによって電脳世界に再現された妖刀である。

 名は妖刀村雨。

 南総里見八犬伝に登場する架空の刀。架空としなければいけなかった刀である。あまりの呪力から破壊されても概念が残り、封じられて現代まで残る。その封じれらたものは樹神さんの師匠が後生大事に倉庫にしまい込まれ、先日の邪馬台国騒動の時に出土した。

 ポンポコリンの手によって封じられた概念を電脳世界に移し、イントラネットという結界内で形を与えられた。

 アンジェラを呼び起こせなかった俺に託された最終手段。

 馬琴の作中では、振れば水が迸り、鮮血を洗い流す様から村雨と呼ばれた。

 邪を退け、妖を治める刀とも謳われる。

 だがそれは口伝で残った華々しい活躍を描いた一端でしかない。封じられるほどの概念はそんな生温いものではなかった。

 ケイオスを敵対者として見定め震える。

 神を殺せと俺に訴えかける。

 村雨とは八岐大蛇を殺した天羽々斬あめのはばきりと同種の神剣。神を殺すために作られた剣である。

「驚いた。まさかそんなものまで持ち出すなんてね」

 ケイオスの声がドーム内に響く。

 阿鼻叫喚だった観客も始めて耳にするエネミーの声に静けさを取り戻す。

「鬼になった刀と鬼の力を操る君。あといくつかピースが揃えば僕はここで死んでいただろうね」

 ケイオスは白銀の剣を横薙ぎで構える。

 ステージに向かって急降下する。

 刃がぶつかり合う。

 動きが止まる。

 鍔迫り合い。

 互いに一歩も引かない。

 ――魂を燃やせ。
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