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8章 神と巫女

演者がいない控室

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 そういった事情から今の国際情勢は、緊急事態宣言のできない緊急事態ということだ。

 まったくもってタチが悪い。

 ならばいっそ世界中に「この世にはまだまだ神秘が残されているんだよ」とでも言ってオカルトが実在することを言ってしまえばいい。無論これは素人考えであり、西野さんに「オカルトは神様ですら予測できない方向に進化変化を遂げるからコントロールするために広められないの。単なる怪談でしかなかったナニカが本当に生まれたりするから」と釘を差された。

「もし今電脳世界にもオカルトの波が来ているとバレたらどうなりますかね?」

「えー? 今は固定概念あるから大丈夫だけど五年後ぐらいには若い子を中心に電脳世界でオカルティックギャングなるものが誕生したりするんでないかな」

「大人の誰も対処できないギャングってヤバいですね」

「ははは、その時は頼んだよ」

 そんなあり得ない未来を話して緊張をほぐす。

 そしてライブ開演の時間になる。

 この一ヶ月、あの三人はほとんどプライベートの時間を持てていなかった。ほとんどをレッスンか配信、残りは食事か睡眠時間に宛てられていた。元から似たような生活だった汐見は難なくこなし、妹も配信者としての自覚があって有名人の仲間入りできたテンションで乗り切っていた。大変だったのは工藤さんである。一か月前は一般人。配信なんて一度もしたことがない。それがアイドルになって、アイドルのはずが女王様扱いされて、もうどうにでもなれという躁状態で視聴者を豚呼ばわりして、こんなはずじゃなかったと夜な夜な鬱になる。これに自分の時間が持てないうストレスフルなスケジュールで何回も限界ギリギリに陥っていた。周囲のフォローと元ヤンの根性でどうにかライブ当日を迎えることができた。いやほんと樹神さんの胸倉を掴みかかって泣き喚いた場面に出くわしたときはどうすればいいかわからなかった。

 本当、よくぞ今日を迎えることができたと思う。主に工藤さんが。

 ドーム内の控室でライブ会場の電脳を映したディスプレイを見る。

 会場内は暗転し、観客のペンライトだけが美しく会場を彩っていた。

「ついに始まるね」

 腰に帯刀した北御門が話しかけてくる。電脳世界に移動したら無防備になる俺の護衛だ。

「ケイオスは来ると思うか?」

「里の中に入ってきたのと同じ手法なら会場の中に忍び込むまではできると思う。ただその後、電脳世界でコトを為した後に現実世界の会場に現れてから逃げる暇なんて与えられない。まともな神経してれば来ないと思う」

「里の中に入ってきたのにまともな神経か?」

「逃げ出せる算段がついているならまだまともかな。完全に頭がおかしくなってない証拠だよ。ただまあ、ここで決着をつけたい人達には悪いけど何も起きないことが僕にとっては望ましいかな。誰も怪我するのは見たくないし」

「その割に武闘派だよな」

「そういう生まれだからとしか言えないかなぁ」

「生まれなら仕方ないなぁ」

「そうだね。そういえば三刀さんは親御さんの誤解が解けたって聞いたよ。ケイオスとの戦いが終わったら実家帰ったりするの?」

「そのまま縁を切るだろうな。学費の心配もなくなったし」

「うん、それがいいかもね」

 同意を返す北御門に意外を覚える。

「仲直りした方がいいとでも言うかと思った」

「切れた方が良い縁ってのは在るから」

 開演を告げる音楽が始まる。

「時間だな。それじゃ行ってくる」

 ヘッドマウントディスプレイをつける。

 暗闇の中で北御門が告げる。

「もし“アレ”を使うことになっても意識を強く持ってね」

「何も起きないことを期待しててくれ」

「……ご武運を」

 片手を振り、一時の別れを告げた。

 そして、身体は音で震える世界に旅立った。
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