妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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8章 神と巫女

一人になりたいタイプ

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 時の流れは早いもので気付けばライブ当日を迎えた。

 汐見の復帰やユニット結成の発表。どういうことだ、とかリークされた情報は正しかったんだ、と世間を騒がせたが、事務所の戦略だったのだろうというちょっとした陰謀論で落ち着いた。

 活動休止宣言したばかりのトップアイドルと新進気鋭の元ヤンシスター、国民的お騒がせ系アイドル。これがユニットを組むなんて、事務所の策略でもなければあり得ないと皆が考えたのだ。俺だって当事者でなければそう思っただろう。

 策略通り、サプライズ感のある発表となりネットニュースを始めとした各メディアも報じた。俺の妹ということで強気で叩いていたテレビのニュースも大手芸能事務所がバックについたと判断したらしく妹がユニットを組むのを好意的に報じていた。これに世間の皆さんは異口同音に呆れを評していた。

 こんな形で話題になったユニット結成。

 なればライブに参加してみたいと思うのは自然である。

 エネミー対策のために七面倒なリアルでの本人確認方式を取ったが、ドーム会場は満席御礼の運びとなった。ドーム会場にいる万単位の観客がヘッドマウントディスプレイをつけて、意識を電脳世界に飛ばす。なかなか気持ち悪い光景だろう。出来の悪いディストピア映画のワンシーンにありそうだ。

 エネミー対策といえばなんでも通るのは過去にあった伝染病対策や少子化対策という名目で増税が許される時代とよく似ているのかもしれない。当時は透明なフェイスカバーがマスク代わりとしていたらしい。昔の人は馬鹿だったのだろうか。

 馬鹿といえば妹であるが、朝から緊張してプライベートスペースでずっと振り付けの確認をしたり、台本を見直したり、らしくもなく緊張していた。

 電脳世界の路上ライブで数人程度しか立ち止まらない経験はしていた。汐見とのコラボで百いくかいかないかの目に晒されるのは汐見もいたから大丈夫であった。だが万単位のファンを前にするのは今までとは違う雰囲気だと馬鹿でも理解できたらしい。

 一方、万単位を相手にするのが初めてどころかライブすら初めてな工藤さんは落ち着いていた。あまりにも初心者なので汐見にお任せする気満々なところが余裕を持てるのかもしれない。もっとも本人は「あれだけ元ヤン元ヤン言われたら緊張するのも馬鹿馬鹿しくて」と遠い目でやさぐれていた。

 また、汐見であるが朝から姿を見かけていない。

 妹も工藤さんもどこに行ったかわからないという。連絡をしても繋がらない。一応、メッセージに無事だという連絡は入っているからケイオスに襲われたわけでもないらしい。

 リアルのライブ会場で結界の準備に勤しむポンポコリンに電話で聞いてみたが役に立たなかった。ただそこから繋がった汐見のマネージャーを努めている方によれば、ライブ前はいつも一人になる時間を設けているからその一環じゃないかという。

 何処にいるのかはマネージャーも教えてもらえていない。ただ前に訊いた時に「アイドルとしての出発点にいた」とはぐらかされたらしい。
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