妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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8章 神と巫女

少年に美を求めるのは古くからあったとな

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 そんなことを考えていたら肩に痛みが走った。

「雑念が見えますなぁ」

 警策を持った樹神さんがニンマリと笑う。雑念を払うためではなく、雑念を見つけたい欲に駆られた一撃だった。

「何考えてたん?」

 警策をバッターのように構えてタイミングを取りながら尋ねられる。さながら気分は強打者なのだろう。

「一夜にして電脳世界の女王様になった方について思いを馳せてました」

「なんや警策やなくてムチの方がお好みかい」

「打たれる度に煩悩が増えていきそうですね」

 警策が空を鋭い切った。

「最初はどうなるもんかと思ったけど、落ち着いてよかったなぁ。修道女の嬢ちゃんが懺悔なさいつった時は痺れたわ」

「神様がよその信者っぽい服装の人にそんなこと言っていいんですか?」

「今どき戒律厳しい宗教なんて流行らんて。そもそも天樹会のモットーはできるだけ神様に頼るな、やから」

「酷い神様もいたもんだ」

「いやー美少年のビーチクチラリズムに悶え苦しんでたよこしまの塊みたいな神さんに比べればウチなんて聖人やで」

「この世は地獄か」

「ちゃう。今となっては天上が地獄や」

 天上に昇らない理由には、そういう神様達と会いたくないなどといった理由があるのではなかろうか。

「それはともかくとして、修道女の嬢ちゃんのデビューも済んだし、ユニット結成も雨降って地固まるでどうにかなったし、あとはライブだけやな」

「ライブの件はどうなりそうですか?」

「完璧な対策はやらないことなのは変わらへんけど、やるなら身分証明を確実にやることになりそうやな。リアルで客を一つの会場に人を集めつつ、表向きは顔と証明書、チケット三つの確認、裏側で力の有無を確認することになりそうやな」

「それだけやっても駄目なんですか?」

「本気で隠されたらどうしようもできひん。電脳周りでは相手の方が何枚も上手やしな」

「アンジェラがいればなんとかなったかもしれないのに申し訳ないです」

 ここ最近は妹や汐見、工藤さんらと話すことが多かった。アンジェラを目覚めさせる当て馬という目的でユニットを組んでもらった経緯だったが、そちらは芳しくなかった。

「気に病む必要なんかあらへんって。元からへそ曲がりな嬢ちゃん引っ張り出すなんて一筋縄じゃいかへんって分かってたから。一応こっちにもあのタヌキの嬢ちゃんが意気揚々と秘密兵器作るって意気込んでたからなんとか対抗策がない訳やないしな」

「秘密兵器?」

「ウチの倉庫に古今東西色んなもんあったの知っとるやろ?」

「邪馬台国の謎すらあったやつですね」

「せやせや。そこに封印してあった妖刀使ってなんか作るいうとったで」

 警策をもう一振り。メジャーリーガーばりの大空へ向けた大スイング。

「それより今は君の妹の方が気になるんやけど」

「また何かやらかしましたか?」

「ログアウトできなくしたって報告受けたんやけどホント?」

「電子ドラッグって酔っ払った果てにやったことですがたしかにやってましたね。アンジェラもやっていたことですし、神様として成長してるってことですかね」

「あーうん、それは間違いないんやけど、そうなるとまた分からんことが出るのよ」

 バッティングフォームに飽きたのか、漫画で出てきそうな奇天烈な剣の構えに変える。

「扇動が電脳世界の神様が使う力なんかって疑問出てたやん。ログアウトできなくしたっつーことか、やっぱ電脳世界の神様ってことで間違いないのは確定。んじゃ扇動って何やねんって話になるな考えられるのは他の神の力が混ざったか、電脳世界の神様に含まれるもんか、純粋な本人の資質か、のいずれかやな。純粋な本人の資質やったら生まれる時代と場所間違えたらジャンヌ・ダルクとか呼ばれてたんちゃう?」

「最後火炙りじゃないですか」

「扇動家の最期なんてそんなもんやで。だからそうはならないようにお兄ちゃんは頑張らないかんな?」

 警策で頬をペチペチされた。

 ため息を一つついてから座禅を再開する。

 五時間ほど続け、無我の境地には至れなかった。こんな簡単に至れたらこの世は仏陀だらけで争いなんぞ起きやしないから当然なのだが。

 だが影を抑える術は身に付いた。

 きっかけは集中力が切れかけた時のことであった。
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