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8章 神と巫女
根がヤンキー
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カレンさんはマイカがアバターの作成者だと口走ってしまった。今回は触れずに後々明かす予定だったらしいがテンパったカレンさんは自己紹介の場で口にしてしまった。先日の会見でマイカが妹を名乗る偽物ではないとお墨付きを貰ったが、それでも俺の妹であることには変わらない。
それはアンチが湧いてくる理由になり得る劇物であった。
コメントが流れ、荒れる。良いものを作ってるなぁ、という好意的なものもあった。だがアンチが大量に批判を、誹謗中傷を流す。埋め尽くす。
自己紹介の場はアンチが野次を飛ばす場へと変わった。
荒れた場は注目を浴び、話題を集め、野次馬たちが集まってくる。桜庭と妹と三人で大会を開いた時と同じ流れが起きていた。
だがカレンさんには助けてくれる人はいない。俺を助けてくれた桜庭も妹もそこにはいない。彼女は自身の力だけで乗り切らねばならない。
加えて後先考えず喧嘩を売るだけ売ってしまえた俺とは違い、ユニット発表、ライブが控えている。下手にことを荒立てることすらできない。
袋小路だ。
カレンさんはコメントを見て、押し黙った。
彼女は礼儀正しく、優しく、ほんわかした印象を持っていた。そんなたおやかな人が悪意の奔流に巻き込まれてしまっては何も考えられなくなるのも当然だ。妹にどうにか助けてられないか相談しようとしたところでカレンさんは口を開く。
「これの何が面白いの」
柔らかい。けれど確かな怒気を含んでいた。
「貴方達には人として良識はないのですか」
それ以上はいけない。
標的がカレンさんに移る。
「マイカさんが作ったからなんだというのですか。彼女が作ったものに何か罪があるのでしょうか。そもそも彼女の身の潔白は証明されたでしょう。むしろ大変な状況にも関わらず明るく努めて、気高いとは思わないのですか」
妹はエネミーに襲われ、意識だけが電脳世界に留まっていることになっている。だから、カレンさんの言い分は正しい。だが、認知が歪んでいる輩にそれは悪手だ。
燃料が投下されたことで、ボヤが炎上へと変貌する。
コメントは誹謗中傷で埋め尽くされる。
頭の悪い罵詈雑言、物知り顔で批判する言葉、身の安全を保証しない言葉、身元を特定しようとする言葉。それらが濁流の如くカレンさんを呑み込む。
心が折れ、配信を投げ出しても誰も文句を言うやつなんかいない。
それほどまでに苛烈であった。
だかそうはならなかった。
「みなさん、仰りたいのはそれだけですか?」
美しい佇まいだった。
「マイカさんとそのお兄さんを敵にして、正義に酔って、悦に入る。それだけのために迷惑を考えず暴れ、人を傷付けて満足ですか?」
誹謗中傷の言葉の波が、戸惑いで濁ったざわつきへと収まっていく。
「雰囲気で物事を決めつけ、悪だと断定する根拠も薄い。かといって自分が正義だと嘯き、反対するものは悪だと喧伝することに余韻はない。まだ畜生の方が情に厚く、理を以て行動するでしょう」
言葉だけでアンチに中指を立てた。
アンチが騒ぐ言葉とももに、気持ちのいい喧嘩の売り方に応援するコメントも増えだす。
ファンが生まれた瞬間であった。
「時間になってしまったので今日の配信は終えたいと思います。ただ、わたしが気に入らないというなら今後の配信でいくらでも付き合います。正面切って戦う気概がある人は手を挙げてください。それでは皆さま、本日はお付き合いいただきありがとうございました」
配信を切ろうとする直前「言い忘れていました。荒らした皆さまに言っておかなければいけませんね」と言葉を割り込ませる。
氷点下の眼差しをした。
「懺悔なさい」
こうしてカレンさんは初配信を終えた。
プッツンシスターとして鮮烈なデビューを飾った。
どうしてこうなったと考え、思い出した。
カレンさん――工藤さんは記憶喪失前は深夜のドンキでたむろしてそうなヤンキーだったことを。
それはアンチが湧いてくる理由になり得る劇物であった。
コメントが流れ、荒れる。良いものを作ってるなぁ、という好意的なものもあった。だがアンチが大量に批判を、誹謗中傷を流す。埋め尽くす。
自己紹介の場はアンチが野次を飛ばす場へと変わった。
荒れた場は注目を浴び、話題を集め、野次馬たちが集まってくる。桜庭と妹と三人で大会を開いた時と同じ流れが起きていた。
だがカレンさんには助けてくれる人はいない。俺を助けてくれた桜庭も妹もそこにはいない。彼女は自身の力だけで乗り切らねばならない。
加えて後先考えず喧嘩を売るだけ売ってしまえた俺とは違い、ユニット発表、ライブが控えている。下手にことを荒立てることすらできない。
袋小路だ。
カレンさんはコメントを見て、押し黙った。
彼女は礼儀正しく、優しく、ほんわかした印象を持っていた。そんなたおやかな人が悪意の奔流に巻き込まれてしまっては何も考えられなくなるのも当然だ。妹にどうにか助けてられないか相談しようとしたところでカレンさんは口を開く。
「これの何が面白いの」
柔らかい。けれど確かな怒気を含んでいた。
「貴方達には人として良識はないのですか」
それ以上はいけない。
標的がカレンさんに移る。
「マイカさんが作ったからなんだというのですか。彼女が作ったものに何か罪があるのでしょうか。そもそも彼女の身の潔白は証明されたでしょう。むしろ大変な状況にも関わらず明るく努めて、気高いとは思わないのですか」
妹はエネミーに襲われ、意識だけが電脳世界に留まっていることになっている。だから、カレンさんの言い分は正しい。だが、認知が歪んでいる輩にそれは悪手だ。
燃料が投下されたことで、ボヤが炎上へと変貌する。
コメントは誹謗中傷で埋め尽くされる。
頭の悪い罵詈雑言、物知り顔で批判する言葉、身の安全を保証しない言葉、身元を特定しようとする言葉。それらが濁流の如くカレンさんを呑み込む。
心が折れ、配信を投げ出しても誰も文句を言うやつなんかいない。
それほどまでに苛烈であった。
だかそうはならなかった。
「みなさん、仰りたいのはそれだけですか?」
美しい佇まいだった。
「マイカさんとそのお兄さんを敵にして、正義に酔って、悦に入る。それだけのために迷惑を考えず暴れ、人を傷付けて満足ですか?」
誹謗中傷の言葉の波が、戸惑いで濁ったざわつきへと収まっていく。
「雰囲気で物事を決めつけ、悪だと断定する根拠も薄い。かといって自分が正義だと嘯き、反対するものは悪だと喧伝することに余韻はない。まだ畜生の方が情に厚く、理を以て行動するでしょう」
言葉だけでアンチに中指を立てた。
アンチが騒ぐ言葉とももに、気持ちのいい喧嘩の売り方に応援するコメントも増えだす。
ファンが生まれた瞬間であった。
「時間になってしまったので今日の配信は終えたいと思います。ただ、わたしが気に入らないというなら今後の配信でいくらでも付き合います。正面切って戦う気概がある人は手を挙げてください。それでは皆さま、本日はお付き合いいただきありがとうございました」
配信を切ろうとする直前「言い忘れていました。荒らした皆さまに言っておかなければいけませんね」と言葉を割り込ませる。
氷点下の眼差しをした。
「懺悔なさい」
こうしてカレンさんは初配信を終えた。
プッツンシスターとして鮮烈なデビューを飾った。
どうしてこうなったと考え、思い出した。
カレンさん――工藤さんは記憶喪失前は深夜のドンキでたむろしてそうなヤンキーだったことを。
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