175 / 229
8章 神と巫女
樹神さんは形から入ってみる派
しおりを挟む
三人娘がユニットとして地固まったのを見届けてから数日が経過した昼過ぎのこと。
俺は旅館の一室を新たに借り、そこでひたすら目を瞑っていた。背後には樹神さんが立ち、警策を握りしめている。いわゆる座禅というものにふけっているわけであるが、どうしてこうなったかというと一時間ほど遡る。
例のごとく、樹神さんは突然俺の部屋にやってきて「修行の時間や!」と言い放った。北御門と行っている修行の時間よりも早かったが、気まぐれだろうと気にせず、修行場へ向かうために荷物をまとめ始める。すると樹神さんは「あ、別室でやるから今日は手ぶらでええよ」と言って、俺の首根っこを捕まえて別室に連れて行かれた。
移動した先は旅館の別室。俺が寝泊まりしている部屋の広さと比べると月とスッポン。ビジネスホテルのシングル程度しかない客室だと主張できる最低限の部屋であった。
そこで樹神さん指示のもと、テーブルなどを部屋の隅に押しやり、座布団一枚を敷く。
「そんじゃ座禅始めよか」
説明もなしにそう言われて、はいそうですかなどと従えるわけもなく説明を求めた。
「昔の子は師匠の言うことには疑わずに返事するもんやったけど時代やなぁ」
「樹神さんが言うとジェネレーションギャップのレベルが違います。来孫ぐらい離れてる世代のことでしょう、それは」
「来孫で済むかぁ?」
「時代に乗り遅れてるってレベルじゃないですよ、それ」
「お、言ったな」
部屋の隅に置いてあった警策で頬をぐりぐりとこねくり回される。
そこから座禅の意図が語られる。
お年寄りらしい長ったらしい講釈はあったものの、目的としては影の制御とのことだった。樹神さんの師匠であった神様が残した文献にあった「心穏やかに日々を過ごすこと」という文言を最大限好意的解釈をした結果、辿り着いたのが座禅であった。無我の境地に至り、心を平穏にすることで影の暴走を鎮めようという企みであった。
とはいえ座禅などしたことがない今どきの学生がそんなことをできるわけがなく、目を瞑ってそれっぽく見せることしかできない。瞼の奥では思索に耽っていた。
ようは妄想を巡らせたり、最近あったことを思い返していた。桃色妄想はすぐに見抜かれ警策の餌食になったが、日々あったことに関しては身を隠すことができた。
その中でも一番長く考えていたこととしては工藤さんもといシスターカレンのデビューであった。
対外的には汐見と同じ事務所からデビューという体裁を取った。デビュー告知の時点でソロデビューということもあり、事務所肝入りのアイドルではないかと噂された。実態は看板だけ貸してもらっただけの無所属なのだが、視聴者はそんなことわかりっこない。
期待度が上がった中で迎えた初配信。
予め決めたキャラクター性で自己紹介を難無く進めていく。可もなく不可もなし、アクシデントもなしに進めることができた。だが上がりきった期待度からすると、少しばかり退屈な配信であった。
元より初心者の彼女にそれを求めるのは酷であるが、初動で一定数以上のファンを確保したいと妹と汐見は言っていた。今後盛り上がるための種火を確保したいとのことだ。
大体三十分ぐらいの配信を予定していたが、半分もしないぐらいで視聴者数が落ち始めた。自己紹介のための配信ということもあり、妹や汐見は助けに入れない。入るための名目が立たない。
この逆境を彼女だけの力で乗り越えなければならなかった。
そして彼女は乗り越えた。
転機はアバターの作成者について触れたことであった。
俺は旅館の一室を新たに借り、そこでひたすら目を瞑っていた。背後には樹神さんが立ち、警策を握りしめている。いわゆる座禅というものにふけっているわけであるが、どうしてこうなったかというと一時間ほど遡る。
例のごとく、樹神さんは突然俺の部屋にやってきて「修行の時間や!」と言い放った。北御門と行っている修行の時間よりも早かったが、気まぐれだろうと気にせず、修行場へ向かうために荷物をまとめ始める。すると樹神さんは「あ、別室でやるから今日は手ぶらでええよ」と言って、俺の首根っこを捕まえて別室に連れて行かれた。
移動した先は旅館の別室。俺が寝泊まりしている部屋の広さと比べると月とスッポン。ビジネスホテルのシングル程度しかない客室だと主張できる最低限の部屋であった。
そこで樹神さん指示のもと、テーブルなどを部屋の隅に押しやり、座布団一枚を敷く。
「そんじゃ座禅始めよか」
説明もなしにそう言われて、はいそうですかなどと従えるわけもなく説明を求めた。
「昔の子は師匠の言うことには疑わずに返事するもんやったけど時代やなぁ」
「樹神さんが言うとジェネレーションギャップのレベルが違います。来孫ぐらい離れてる世代のことでしょう、それは」
「来孫で済むかぁ?」
「時代に乗り遅れてるってレベルじゃないですよ、それ」
「お、言ったな」
部屋の隅に置いてあった警策で頬をぐりぐりとこねくり回される。
そこから座禅の意図が語られる。
お年寄りらしい長ったらしい講釈はあったものの、目的としては影の制御とのことだった。樹神さんの師匠であった神様が残した文献にあった「心穏やかに日々を過ごすこと」という文言を最大限好意的解釈をした結果、辿り着いたのが座禅であった。無我の境地に至り、心を平穏にすることで影の暴走を鎮めようという企みであった。
とはいえ座禅などしたことがない今どきの学生がそんなことをできるわけがなく、目を瞑ってそれっぽく見せることしかできない。瞼の奥では思索に耽っていた。
ようは妄想を巡らせたり、最近あったことを思い返していた。桃色妄想はすぐに見抜かれ警策の餌食になったが、日々あったことに関しては身を隠すことができた。
その中でも一番長く考えていたこととしては工藤さんもといシスターカレンのデビューであった。
対外的には汐見と同じ事務所からデビューという体裁を取った。デビュー告知の時点でソロデビューということもあり、事務所肝入りのアイドルではないかと噂された。実態は看板だけ貸してもらっただけの無所属なのだが、視聴者はそんなことわかりっこない。
期待度が上がった中で迎えた初配信。
予め決めたキャラクター性で自己紹介を難無く進めていく。可もなく不可もなし、アクシデントもなしに進めることができた。だが上がりきった期待度からすると、少しばかり退屈な配信であった。
元より初心者の彼女にそれを求めるのは酷であるが、初動で一定数以上のファンを確保したいと妹と汐見は言っていた。今後盛り上がるための種火を確保したいとのことだ。
大体三十分ぐらいの配信を予定していたが、半分もしないぐらいで視聴者数が落ち始めた。自己紹介のための配信ということもあり、妹や汐見は助けに入れない。入るための名目が立たない。
この逆境を彼女だけの力で乗り越えなければならなかった。
そして彼女は乗り越えた。
転機はアバターの作成者について触れたことであった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

ゴブリンしか召喚出来なくても最強になる方法 ~無能とののしられて追放された宮廷召喚士、ボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティーで無双する~
石矢天
ファンタジー
「ラキス・トライク。貴様は今日限りでクビだ」
「ゴブリンしか召喚できない無能」
「平民あがりのクズ」
強大で希少なモンスターを召喚できるエリート貴族が集まる宮廷召喚士の中で、ゴブリンしか召喚できない平民出身のラキスはついに宮廷をクビになる。
ラキスはクビになったことは気にしていない。
宮廷で働けば楽な暮らしが出来ると聞いていたのに、政治だ派閥だといつも騒がしいばかりだったから良い機会だ。
だが無能だとかクズだとか言われたことは根に持っていた。
自分をクビにした宮廷召喚士長の企みを邪魔しようと思ったら、なぜか国の第二王女を暗殺計画から救ってしまった。
「ボクを助けた責任を取って」
「いくら払える?」
「……ではらう」
「なに?」
「対価はボクのカラダで払うって言ったんだ!!」
ただ楽な生活をして生きていたいラキスは、本人が望まないままボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティで無双し、なぜか国まで救ってしまうことになる。
本作品は三人称一元視点です。
「なろうRawi」でタイトルとあらすじを磨いてみました。
タイトル:S スコア9156
あらすじ:S スコア9175
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?
のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。
両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。
そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった…
本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;)
本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。
ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

現代転生 _その日世界は変わった_
胚芽米
ファンタジー
異世界。そこは魔法が発展し、数々の王国、ファンタジーな魔物達が存在していた。
ギルドに務め、魔王軍の配下や魔物達と戦ったり、薬草や資源の回収をする仕事【冒険者】であるガイムは、この世界、
そしてこのただ魔物達と戦う仕事に飽き飽き
していた。
いつも通り冒険者の仕事で薬草を取っていたとき、突然自身の体に彗星が衝突してしまい
化学や文明が発展している地球へと転生する。
何もかもが違う世界で困惑する中、やがてこの世界に転生したのは自分だけじゃないこと。
魔王もこの世界に転生していることを知る。
そして地球に転生した彼らは何をするのだろうか…

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。
しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。
そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。
このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。
しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。
妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。
それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。
それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。
彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。
だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。
そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる