妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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8章 神と巫女

樹神さんは形から入ってみる派

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 三人娘がユニットとして地固まったのを見届けてから数日が経過した昼過ぎのこと。

 俺は旅館の一室を新たに借り、そこでひたすら目を瞑っていた。背後には樹神さんが立ち、警策を握りしめている。いわゆる座禅というものにふけっているわけであるが、どうしてこうなったかというと一時間ほど遡る。

 例のごとく、樹神さんは突然俺の部屋にやってきて「修行の時間や!」と言い放った。北御門と行っている修行の時間よりも早かったが、気まぐれだろうと気にせず、修行場へ向かうために荷物をまとめ始める。すると樹神さんは「あ、別室でやるから今日は手ぶらでええよ」と言って、俺の首根っこを捕まえて別室に連れて行かれた。

 移動した先は旅館の別室。俺が寝泊まりしている部屋の広さと比べると月とスッポン。ビジネスホテルのシングル程度しかない客室だと主張できる最低限の部屋であった。

 そこで樹神さん指示のもと、テーブルなどを部屋の隅に押しやり、座布団一枚を敷く。

「そんじゃ座禅始めよか」

 説明もなしにそう言われて、はいそうですかなどと従えるわけもなく説明を求めた。

「昔の子は師匠の言うことには疑わずに返事するもんやったけど時代やなぁ」

「樹神さんが言うとジェネレーションギャップのレベルが違います。来孫ぐらい離れてる世代のことでしょう、それは」

「来孫で済むかぁ?」

「時代に乗り遅れてるってレベルじゃないですよ、それ」

「お、言ったな」

 部屋の隅に置いてあった警策で頬をぐりぐりとこねくり回される。

 そこから座禅の意図が語られる。

 お年寄りらしい長ったらしい講釈はあったものの、目的としては影の制御とのことだった。樹神さんの師匠であった神様が残した文献にあった「心穏やかに日々を過ごすこと」という文言を最大限好意的解釈をした結果、辿り着いたのが座禅であった。無我の境地に至り、心を平穏にすることで影の暴走を鎮めようという企みであった。

 とはいえ座禅などしたことがない今どきの学生がそんなことをできるわけがなく、目を瞑ってそれっぽく見せることしかできない。瞼の奥では思索に耽っていた。

 ようは妄想を巡らせたり、最近あったことを思い返していた。桃色妄想はすぐに見抜かれ警策の餌食になったが、日々あったことに関しては身を隠すことができた。

 その中でも一番長く考えていたこととしては工藤さんもといシスターカレンのデビューであった。

 対外的には汐見と同じ事務所からデビューという体裁を取った。デビュー告知の時点でソロデビューということもあり、事務所肝入りのアイドルではないかと噂された。実態は看板だけ貸してもらっただけの無所属なのだが、視聴者はそんなことわかりっこない。

 期待度が上がった中で迎えた初配信。

 予め決めたキャラクター性で自己紹介を難無く進めていく。可もなく不可もなし、アクシデントもなしに進めることができた。だが上がりきった期待度からすると、少しばかり退屈な配信であった。

 元より初心者の彼女にそれを求めるのは酷であるが、初動で一定数以上のファンを確保したいと妹と汐見は言っていた。今後盛り上がるための種火を確保したいとのことだ。

 大体三十分ぐらいの配信を予定していたが、半分もしないぐらいで視聴者数が落ち始めた。自己紹介のための配信ということもあり、妹や汐見は助けに入れない。入るための名目が立たない。

 この逆境を彼女だけの力で乗り越えなければならなかった。

 そして彼女は乗り越えた。

 転機はアバターの作成者について触れたことであった。
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