妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

文字の大きさ
上 下
170 / 229
8章 神と巫女

快方できるのは一人まで

しおりを挟む
 これで最後だと、イライラする自分を抑え込み、電脳世界へ赴く。プライベートスペースに辿り着いた意識を出迎えたのは酔っ払った妹と汐見と渋面な工藤さんであった。

 彼女らは酒瓶という名の電子ドラッグを煽り、馬鹿みたいに騒いでいた。素面なシスターに絡み酒をして、阿呆な顔を晒して踊り狂っていた。

 控えめに言って地獄である。

 助けを求める工藤さんの視線を無視して現実に帰還しようとコンソールを操作していると、いつの間にか後ろに回り込んでいた妹が飛び掛かってくる。背中におぶさる形で体重を掛けてくる妹。前からは腰に抱きついて腹に顔を埋める汐見。ちなみにその下半身はだらしなく地面に引きずられていた。

「にーちゃああああん」

 へらへらと笑う妹。その顔は電子ドラッグで多幸感に包まれた顔をしていた。

 俺は電子ドラッグの酒瓶に囲まれ、シスターなのに生臭坊主の香りが漂う工藤さんに問う。

「どうしてこうなった?」

 工藤さんは項垂れた。

「動画のネタで泥酔しながらゲームやるってのがあったんだけど、二人とも電子ドラッグを試したことがないからってことで試してたんです。本番で酷い酔っ払い方をして粗相しちゃ不味いですから。でもこんなことになるなんて……」

 重し二人分に耐えて転がる酒瓶を手に取り、銘柄を確認する。それは広く大衆に販売されている大手メーカーのものであった。いわゆる全年齢対象のものであり、多少の多幸感を覚えさせる程度の代物である。成人未満の使用が禁じられているものや、裏で出回っているという末期患者向けの終末医療用ではなく一安心した。

「しかし、この二人いくらなんでも弱すぎやしないか」

 多少の幸福感、せいぜいほろ酔いぐらいにしかならないものである。無理やりテンションを上げたとしても、理性を失うようなものではない。幼子ですらこうはならない。なのにこの二人は泥酔としかいえない状態になっていた。

「一応訊いておきますが、変なもの飲ませてないですよね?」

「はい、未成年でも大丈夫なものだけです」

「じゃあ、このザマは一体なんなんだ」

 抱き着き連結した妹たちは、それこそ酒類と同等以上の酩酊感に陥っていた。新歓で酒に慣れない新入生が酔い潰れるようなことになっていた。俺は新歓には縁はないが、道路で騒ぎ、酔い潰れる奴等を何人も見てきたから間違いない。

「私は問題なかったから、身体があるかどうかが問題とかですかね」

 そもそも神が酔うのかという疑問はある。ただ、八岐大蛇は酔っぱらうし、御神酒という酒の種類もあるから酔うものなのだろう。AIも呪術的アプローチから生まれたとポンポコリンも言っていたからきっと神に近いのだろう。そういうことにしておこう。今はこの酔っ払い達の快方をせねばならないだから。

 工藤さんが俺にまとわりつく二人をどうにか引き離し、床に並べて寝させる。二人揃ってヘラヘラと口元も頭のネジも緩くなっていた。なのに、いやだから、普段より厄介であった。

「にーちゃんは私とシオミンのどちらをより愛しているのだっ!」

 そうでなければこんなことは言いやがらない。

 汐見も汐見で「汐見のファンは汐見を一番に愛しているというはずだぁー!」などと片腕を突き上げた。

 こいつら二人とも酔うと絡み酒になるらしい。妹は普段から絡んでいるのだから、こういう時ぐらいはしおらしくなってくれればいいものを、どうしてさらにウザい方向へ転がるのか。どうせなら泣き上戸の一つでも見せてくれればこちらも「仕方ないなぁ」と気分よく言えるというのに。

「相手してられないから帰るぞ」

 今度こそログアウトするためにコンソールを弄る。

「そうはしゃせない!」

 妹が俺に両手を向けてムンムンと波動を送り出すジェスチャーを見せる。

 馬鹿は無視だとログアウト処理を実行する。

 だが何も起きない。何度ログアウト処理を行っても何も起きない。古くなって反応しない自動販売機のボタンを連打するように何度も実行するがうんともすんとも言わない。

「どーだ! マイカちゃんの力見たか!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...