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8章 神と巫女
快方できるのは一人まで
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これで最後だと、イライラする自分を抑え込み、電脳世界へ赴く。プライベートスペースに辿り着いた意識を出迎えたのは酔っ払った妹と汐見と渋面な工藤さんであった。
彼女らは酒瓶という名の電子ドラッグを煽り、馬鹿みたいに騒いでいた。素面なシスターに絡み酒をして、阿呆な顔を晒して踊り狂っていた。
控えめに言って地獄である。
助けを求める工藤さんの視線を無視して現実に帰還しようとコンソールを操作していると、いつの間にか後ろに回り込んでいた妹が飛び掛かってくる。背中におぶさる形で体重を掛けてくる妹。前からは腰に抱きついて腹に顔を埋める汐見。ちなみにその下半身はだらしなく地面に引きずられていた。
「にーちゃああああん」
へらへらと笑う妹。その顔は電子ドラッグで多幸感に包まれた顔をしていた。
俺は電子ドラッグの酒瓶に囲まれ、シスターなのに生臭坊主の香りが漂う工藤さんに問う。
「どうしてこうなった?」
工藤さんは項垂れた。
「動画のネタで泥酔しながらゲームやるってのがあったんだけど、二人とも電子ドラッグを試したことがないからってことで試してたんです。本番で酷い酔っ払い方をして粗相しちゃ不味いですから。でもこんなことになるなんて……」
重し二人分に耐えて転がる酒瓶を手に取り、銘柄を確認する。それは広く大衆に販売されている大手メーカーのものであった。いわゆる全年齢対象のものであり、多少の多幸感を覚えさせる程度の代物である。成人未満の使用が禁じられているものや、裏で出回っているという末期患者向けの終末医療用ではなく一安心した。
「しかし、この二人いくらなんでも弱すぎやしないか」
多少の幸福感、せいぜいほろ酔いぐらいにしかならないものである。無理やりテンションを上げたとしても、理性を失うようなものではない。幼子ですらこうはならない。なのにこの二人は泥酔としかいえない状態になっていた。
「一応訊いておきますが、変なもの飲ませてないですよね?」
「はい、未成年でも大丈夫なものだけです」
「じゃあ、このザマは一体なんなんだ」
抱き着き連結した妹たちは、それこそ酒類と同等以上の酩酊感に陥っていた。新歓で酒に慣れない新入生が酔い潰れるようなことになっていた。俺は新歓には縁はないが、道路で騒ぎ、酔い潰れる奴等を何人も見てきたから間違いない。
「私は問題なかったから、身体があるかどうかが問題とかですかね」
そもそも神が酔うのかという疑問はある。ただ、八岐大蛇は酔っぱらうし、御神酒という酒の種類もあるから酔うものなのだろう。AIも呪術的アプローチから生まれたとポンポコリンも言っていたからきっと神に近いのだろう。そういうことにしておこう。今はこの酔っ払い達の快方をせねばならないだから。
工藤さんが俺にまとわりつく二人をどうにか引き離し、床に並べて寝させる。二人揃ってヘラヘラと口元も頭のネジも緩くなっていた。なのに、いやだから、普段より厄介であった。
「にーちゃんは私とシオミンのどちらをより愛しているのだっ!」
そうでなければこんなことは言いやがらない。
汐見も汐見で「汐見のファンは汐見を一番に愛しているというはずだぁー!」などと片腕を突き上げた。
こいつら二人とも酔うと絡み酒になるらしい。妹は普段から絡んでいるのだから、こういう時ぐらいはしおらしくなってくれればいいものを、どうしてさらにウザい方向へ転がるのか。どうせなら泣き上戸の一つでも見せてくれればこちらも「仕方ないなぁ」と気分よく言えるというのに。
「相手してられないから帰るぞ」
今度こそログアウトするためにコンソールを弄る。
「そうはしゃせない!」
妹が俺に両手を向けてムンムンと波動を送り出すジェスチャーを見せる。
馬鹿は無視だとログアウト処理を実行する。
だが何も起きない。何度ログアウト処理を行っても何も起きない。古くなって反応しない自動販売機のボタンを連打するように何度も実行するがうんともすんとも言わない。
「どーだ! マイカちゃんの力見たか!」
彼女らは酒瓶という名の電子ドラッグを煽り、馬鹿みたいに騒いでいた。素面なシスターに絡み酒をして、阿呆な顔を晒して踊り狂っていた。
控えめに言って地獄である。
助けを求める工藤さんの視線を無視して現実に帰還しようとコンソールを操作していると、いつの間にか後ろに回り込んでいた妹が飛び掛かってくる。背中におぶさる形で体重を掛けてくる妹。前からは腰に抱きついて腹に顔を埋める汐見。ちなみにその下半身はだらしなく地面に引きずられていた。
「にーちゃああああん」
へらへらと笑う妹。その顔は電子ドラッグで多幸感に包まれた顔をしていた。
俺は電子ドラッグの酒瓶に囲まれ、シスターなのに生臭坊主の香りが漂う工藤さんに問う。
「どうしてこうなった?」
工藤さんは項垂れた。
「動画のネタで泥酔しながらゲームやるってのがあったんだけど、二人とも電子ドラッグを試したことがないからってことで試してたんです。本番で酷い酔っ払い方をして粗相しちゃ不味いですから。でもこんなことになるなんて……」
重し二人分に耐えて転がる酒瓶を手に取り、銘柄を確認する。それは広く大衆に販売されている大手メーカーのものであった。いわゆる全年齢対象のものであり、多少の多幸感を覚えさせる程度の代物である。成人未満の使用が禁じられているものや、裏で出回っているという末期患者向けの終末医療用ではなく一安心した。
「しかし、この二人いくらなんでも弱すぎやしないか」
多少の幸福感、せいぜいほろ酔いぐらいにしかならないものである。無理やりテンションを上げたとしても、理性を失うようなものではない。幼子ですらこうはならない。なのにこの二人は泥酔としかいえない状態になっていた。
「一応訊いておきますが、変なもの飲ませてないですよね?」
「はい、未成年でも大丈夫なものだけです」
「じゃあ、このザマは一体なんなんだ」
抱き着き連結した妹たちは、それこそ酒類と同等以上の酩酊感に陥っていた。新歓で酒に慣れない新入生が酔い潰れるようなことになっていた。俺は新歓には縁はないが、道路で騒ぎ、酔い潰れる奴等を何人も見てきたから間違いない。
「私は問題なかったから、身体があるかどうかが問題とかですかね」
そもそも神が酔うのかという疑問はある。ただ、八岐大蛇は酔っぱらうし、御神酒という酒の種類もあるから酔うものなのだろう。AIも呪術的アプローチから生まれたとポンポコリンも言っていたからきっと神に近いのだろう。そういうことにしておこう。今はこの酔っ払い達の快方をせねばならないだから。
工藤さんが俺にまとわりつく二人をどうにか引き離し、床に並べて寝させる。二人揃ってヘラヘラと口元も頭のネジも緩くなっていた。なのに、いやだから、普段より厄介であった。
「にーちゃんは私とシオミンのどちらをより愛しているのだっ!」
そうでなければこんなことは言いやがらない。
汐見も汐見で「汐見のファンは汐見を一番に愛しているというはずだぁー!」などと片腕を突き上げた。
こいつら二人とも酔うと絡み酒になるらしい。妹は普段から絡んでいるのだから、こういう時ぐらいはしおらしくなってくれればいいものを、どうしてさらにウザい方向へ転がるのか。どうせなら泣き上戸の一つでも見せてくれればこちらも「仕方ないなぁ」と気分よく言えるというのに。
「相手してられないから帰るぞ」
今度こそログアウトするためにコンソールを弄る。
「そうはしゃせない!」
妹が俺に両手を向けてムンムンと波動を送り出すジェスチャーを見せる。
馬鹿は無視だとログアウト処理を実行する。
だが何も起きない。何度ログアウト処理を行っても何も起きない。古くなって反応しない自動販売機のボタンを連打するように何度も実行するがうんともすんとも言わない。
「どーだ! マイカちゃんの力見たか!」
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