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8章 神と巫女

神も仏も

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 工藤さんのシスター化に伴う話し合い、邪馬台国の謎に迫る話し合い、ケイオスとの交渉、ケイオス対策について話し合い。

 今日一日話し合いしかしていない。数か月前には誰とも話さない日も珍しくなかったのに、著しい変化である。この変化を陽の者はきっとポジティブに捉えるだろう。「社会復帰したんだね」とでも言うやもしれん。だが待って欲しい。これは本当に社会復帰だといえるのだろうか。ただ単に上手いこと面倒ごとを押し付けられているだけなのではなかろうか。コミュニケーション能力に著しい障害が認められてしまい、事情もあって断れないから足元を見られているのかもしれない。

 こういう時は誰かに元気づけて欲しいのが人情であるが、我が女神であるシオミンは妹様の相手で忙しく、ならばシスターに愚痴でもこぼそうかと考えるがそれも妹様に取られてしまっている。もっとも工藤さんに元気づけて欲しいなんていえる仲ではない。だが桜庭への嫌がらせとして考えるならば上等なので機会さえあれば一念発起してでもやってやりたい。

 とにかく疲れた。

 頭も心も疲れ切った。

 ぼーっとしたい。

 もう誰とも話さないで部屋に引きこもりたい。

 声を一度も発しないまま一日を終えたい。

 ああ、癒されたい。

 この世には神も仏もいないのか。

 いや、いるのだが。それは俺が望んだ神様ではない。関西弁で喋り倒す神様を相手にしては心が落ち着かないし、我が女神であるシオミンは多忙。これから神様になろうっていうのが妹なのは本当に世も末だと思う。

 ああ、どこかに俺を癒してくれる人はいないものか。

 そんなことを考えてみたものの、そんな女性がいたら俺はその女性を拒絶すると思う。俺は俺の駄目なところを全て知っている。ゆえに俺を癒したいとかいう趣味の悪さに鳥肌が立つ。もし趣味がまともだと主張されるのであれば、金目当てか弱みを握りたいだけなのだろう。

 そう思って、自分は変わったなと感じてしまう。

 昔ならば、それこそ数か月前ならば「金も弱みも何もないぜ! ちくしょう!」と涙声で強がることもできた。今それを言えないということは、内心そういう立場でなくなったことを受け入れているのだろう。もうバイトをサボりまくる先輩アルバイターを桜庭と協力して、あの手この手で追い詰められるなんて馬鹿はもうできないのだろう。

 俺も大人になってしまったものだ。

 疲れ切った心では酒に逃げ込む元気も、女に走る余力すら残っておらずとにかく寝ようと思い、ベッドに横になる。汗も流さず寝入る。朝起きた時、最悪な気分だろうなぁと思いつつ、それもどうでもいいやと泥に沈む覚悟をする。

 意識の半分ほど泥に沈んだ時であった。

 ベッドの脇に置いた携帯からの通知音で意識を泥から引きずり出される。

 腹立たしさを押し殺し、画面を見ると工藤さんからのメッセージであった。

「マイカさんが大変なことになっているので助けてください」

 神も仏も殺してやろうかこんにゃろう。
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