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8章 神と巫女
交渉は相手が準備できてない状態で
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後ろに大きく飛び退き、警戒の体勢を取る。
その動きは周囲の注目を集めた。周囲が何事かと俺らに関心を寄せる。その騒ぎがまた遠くの誰かの視線を集め、人を呼び寄せる。
よくない状況であった。ここでケイオスとの戦闘に入れば一般人に被害が及ぶ。いや、そもそもここはゲーム内ではない。俺の手元に武器はないのだ。戦う術は覚えたての鬼道のみ。それも影の制御が効かず、俺自身が一般人に被害を与える危険性を孕んでいる。
だがここで戦わずに死ぬという選択肢を取るわけにはいかない。
そう考え、魂を震わせようとした。
だがケイオスが両手を挙げて降参の真似事をする。
「待った。僕は戦うために来たのではない」
耳を疑う。
「なら何故来た?」
「交渉したい」
「アンジェラを手にかけたことを恨んでいる俺に交渉なんてよく言えたな」
「だからこそ交渉したい」
俺の睨みを傲岸不遜に受け止めるケイオス。そのただ事ではない雰囲気を察した一般人の中から俺らに声を掛けてくる者がいた。顔馴染みの雪女だ。
「そこの君たちおっかない顔をしてどうしたんだい。揉め事ならウチの個室貸すけど?」
その申し出を受けたのはケイオスだった。
「ああ、ありがたい申し出だ。受けようじゃないか」
訝しげにする俺にケイオスは続ける。
「安心しろ。ここでやり合う気はない」
今はその言葉を信じるしかなかった。
雪女の飯屋は居酒屋である。昼はランチメニューを提供している食い処として営業している。そこの個室で向かい合う形で席につく。
「水はセルフサービスとなっておりまーす」などと茶化して雪女は個室を後にした。
ケイオスは個室の扉が閉められたのを確認すると頬杖をつく。
「さて、交渉したいのけどここに連れて来られたということは僕の話を聞く気になってくれたということでいいかな?」
「お前が本当にここでやり合う気がないのならな」
「そこは安心して欲しい。僕にとってもここでやり合ったらタダでは済まないからね」
「どういうことだ?」
「どうせすぐにわかることだから言うよ。これから交渉も控えてるしね。僕はアンジェラの力を奪った。多くの人々の記憶も奪った。だがまだ半神の枠を超えない。だからこそ本物の神がいる場での戦闘を控えたい。それにこの里の結界に入ってこれたのはひとえに力を抑え込んでいるからだ。解放すればすぐにバレる。そうすれば常駐している退魔師、自警団としての妖怪、神様だって飛んでくる。逃げるしかないってわけさ。無論、僕がどうなろうといいなら君を殺すことはすぐにできる」
「俺がこの話を聞いたあと、全てを樹神さんたちに告げ口したらどうするつもりだ?」
「それで構わないよ。むしろ伝えてくれなきゃ困る」
「俺はメッセンジャーか」
「かつ信頼のおける敵だよ」
「都合のいい存在を言い繕うなよ」
「信用できない大人よりはマシさ」
「俺だって成年済みだぞ」
「働いていない人間は子供みたいなものだよ」
モラトリアム期間を心ならずも延長してしまうことになった俺はコイツからみればガキなのかもしれない。
「何を交渉したいんだ」
「やはり君の武力はウザいけど、聞く耳を持っているのは助かると桜庭も言っていた。そう睨まないでくれないか。僕は傍から見ればいたいげな子供だよ」
「さっさと内容に入れ」
ケイオスは肩を竦め、およそ子供らしからぬ笑みを浮かべる。
「年末、世界を滅ぼす。だからそれまで休戦しようよ」
その動きは周囲の注目を集めた。周囲が何事かと俺らに関心を寄せる。その騒ぎがまた遠くの誰かの視線を集め、人を呼び寄せる。
よくない状況であった。ここでケイオスとの戦闘に入れば一般人に被害が及ぶ。いや、そもそもここはゲーム内ではない。俺の手元に武器はないのだ。戦う術は覚えたての鬼道のみ。それも影の制御が効かず、俺自身が一般人に被害を与える危険性を孕んでいる。
だがここで戦わずに死ぬという選択肢を取るわけにはいかない。
そう考え、魂を震わせようとした。
だがケイオスが両手を挙げて降参の真似事をする。
「待った。僕は戦うために来たのではない」
耳を疑う。
「なら何故来た?」
「交渉したい」
「アンジェラを手にかけたことを恨んでいる俺に交渉なんてよく言えたな」
「だからこそ交渉したい」
俺の睨みを傲岸不遜に受け止めるケイオス。そのただ事ではない雰囲気を察した一般人の中から俺らに声を掛けてくる者がいた。顔馴染みの雪女だ。
「そこの君たちおっかない顔をしてどうしたんだい。揉め事ならウチの個室貸すけど?」
その申し出を受けたのはケイオスだった。
「ああ、ありがたい申し出だ。受けようじゃないか」
訝しげにする俺にケイオスは続ける。
「安心しろ。ここでやり合う気はない」
今はその言葉を信じるしかなかった。
雪女の飯屋は居酒屋である。昼はランチメニューを提供している食い処として営業している。そこの個室で向かい合う形で席につく。
「水はセルフサービスとなっておりまーす」などと茶化して雪女は個室を後にした。
ケイオスは個室の扉が閉められたのを確認すると頬杖をつく。
「さて、交渉したいのけどここに連れて来られたということは僕の話を聞く気になってくれたということでいいかな?」
「お前が本当にここでやり合う気がないのならな」
「そこは安心して欲しい。僕にとってもここでやり合ったらタダでは済まないからね」
「どういうことだ?」
「どうせすぐにわかることだから言うよ。これから交渉も控えてるしね。僕はアンジェラの力を奪った。多くの人々の記憶も奪った。だがまだ半神の枠を超えない。だからこそ本物の神がいる場での戦闘を控えたい。それにこの里の結界に入ってこれたのはひとえに力を抑え込んでいるからだ。解放すればすぐにバレる。そうすれば常駐している退魔師、自警団としての妖怪、神様だって飛んでくる。逃げるしかないってわけさ。無論、僕がどうなろうといいなら君を殺すことはすぐにできる」
「俺がこの話を聞いたあと、全てを樹神さんたちに告げ口したらどうするつもりだ?」
「それで構わないよ。むしろ伝えてくれなきゃ困る」
「俺はメッセンジャーか」
「かつ信頼のおける敵だよ」
「都合のいい存在を言い繕うなよ」
「信用できない大人よりはマシさ」
「俺だって成年済みだぞ」
「働いていない人間は子供みたいなものだよ」
モラトリアム期間を心ならずも延長してしまうことになった俺はコイツからみればガキなのかもしれない。
「何を交渉したいんだ」
「やはり君の武力はウザいけど、聞く耳を持っているのは助かると桜庭も言っていた。そう睨まないでくれないか。僕は傍から見ればいたいげな子供だよ」
「さっさと内容に入れ」
ケイオスは肩を竦め、およそ子供らしからぬ笑みを浮かべる。
「年末、世界を滅ぼす。だからそれまで休戦しようよ」
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