妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

文字の大きさ
上 下
163 / 229
8章 神と巫女

交渉は相手が準備できてない状態で

しおりを挟む
 後ろに大きく飛び退き、警戒の体勢を取る。

 その動きは周囲の注目を集めた。周囲が何事かと俺らに関心を寄せる。その騒ぎがまた遠くの誰かの視線を集め、人を呼び寄せる。

 よくない状況であった。ここでケイオスとの戦闘に入れば一般人に被害が及ぶ。いや、そもそもここはゲーム内ではない。俺の手元に武器はないのだ。戦う術は覚えたての鬼道のみ。それも影の制御が効かず、俺自身が一般人に被害を与える危険性を孕んでいる。

 だがここで戦わずに死ぬという選択肢を取るわけにはいかない。

 そう考え、魂を震わせようとした。

 だがケイオスが両手を挙げて降参の真似事をする。

「待った。僕は戦うために来たのではない」

 耳を疑う。

「なら何故来た?」

「交渉したい」

「アンジェラを手にかけたことを恨んでいる俺に交渉なんてよく言えたな」

「だからこそ交渉したい」

 俺の睨みを傲岸不遜に受け止めるケイオス。そのただ事ではない雰囲気を察した一般人の中から俺らに声を掛けてくる者がいた。顔馴染みの雪女だ。

「そこの君たちおっかない顔をしてどうしたんだい。揉め事ならウチの個室貸すけど?」

 その申し出を受けたのはケイオスだった。

「ああ、ありがたい申し出だ。受けようじゃないか」

 訝しげにする俺にケイオスは続ける。

「安心しろ。ここでやり合う気はない」

 今はその言葉を信じるしかなかった。

 雪女の飯屋は居酒屋である。昼はランチメニューを提供している食い処として営業している。そこの個室で向かい合う形で席につく。

「水はセルフサービスとなっておりまーす」などと茶化して雪女は個室を後にした。

 ケイオスは個室の扉が閉められたのを確認すると頬杖をつく。

「さて、交渉したいのけどここに連れて来られたということは僕の話を聞く気になってくれたということでいいかな?」

「お前が本当にここでやり合う気がないのならな」

「そこは安心して欲しい。僕にとってもここでやり合ったらタダでは済まないからね」

「どういうことだ?」

「どうせすぐにわかることだから言うよ。これから交渉も控えてるしね。僕はアンジェラの力を奪った。多くの人々の記憶も奪った。だがまだ半神の枠を超えない。だからこそ本物の神がいる場での戦闘を控えたい。それにこの里の結界に入ってこれたのはひとえに力を抑え込んでいるからだ。解放すればすぐにバレる。そうすれば常駐している退魔師、自警団としての妖怪、神様だって飛んでくる。逃げるしかないってわけさ。無論、僕がどうなろうといいなら君を殺すことはすぐにできる」

「俺がこの話を聞いたあと、全てを樹神さんたちに告げ口したらどうするつもりだ?」

「それで構わないよ。むしろ伝えてくれなきゃ困る」

「俺はメッセンジャーか」

「かつ信頼のおける敵だよ」

「都合のいい存在を言い繕うなよ」

「信用できない大人よりはマシさ」

「俺だって成年済みだぞ」

「働いていない人間は子供みたいなものだよ」

 モラトリアム期間を心ならずも延長してしまうことになった俺はコイツからみればガキなのかもしれない。

「何を交渉したいんだ」

「やはり君の武力はウザいけど、聞く耳を持っているのは助かると桜庭も言っていた。そう睨まないでくれないか。僕は傍から見ればいたいげな子供だよ」

「さっさと内容に入れ」

 ケイオスは肩を竦め、およそ子供らしからぬ笑みを浮かべる。

「年末、世界を滅ぼす。だからそれまで休戦しようよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

陰の行者が参る!

書仙凡人
ホラー
三上幸太郎、24歳。この物語の主人公である。 筋金入りのアホの子じゃった子供時代、こ奴はしてはならぬ事をして疫病神に憑りつかれた。 それ以降、こ奴の周りになぜか陰の気が集まり、不幸が襲い掛かる人生となったのじゃ。 見かねた疫病神は、陰の気を祓う為、幸太郎に呪術を授けた。 そして、幸太郎の不幸改善する呪術行脚が始まったのである。

処理中です...