162 / 229
8章 神と巫女
大人の常套手段
しおりを挟む
衝撃の事実をサラッと伝えられた。しかも俺に伝えるのが当然といった雰囲気で。
「どうしてそれを俺に?」
「ボスだからでしょ」
「いつ俺がボスになったんですか」
西野さんは「冗談ですよ」と白い歯を見せる。
最近はもはやその手の冗談が冗談にならなくなっているからやめてほしいところである。
「ボスなのは冗談ですが、共有義務はありますよ。だって現場レベルのトップじゃないですか」
事実上のボス宣言。
「ボスだろそれは」
ツッコミにいられなかった。
西野さんはそのツッコミを待っていましたとばかりにニンマリした。
「樹神さんは支援とかはしても作戦自体に関わらないですし、私や堂島なんかは関係各所の利害調整担当みたいなことメインですよね。北御門さんとかは護衛みたいなものですから、やっぱり現場で動く三刀さんには伝えておいた方がいいっていうのが総意ですね」
それはそれとして返答はする社会人の鑑であった。
「妹とか汐見に本当のことを伝えなくていいのですか」
「ユニット組む組まないでいつまでも悩まれてちゃ困ります。いつどうなるかわからないからできるだけ早く神としての力を高めて欲しいっていうのが宮内庁の見解ですね」
言わんとしていることはわかる。もし今、ケイオスが暴れ始めたら止められるのは俺しかいない。しかも本当に止められるかはわからない。ならば少しでも可能性を上げたいのが本音だろう。
「俺がバラすかもしれないと考えなかったのですか」
「バラしても問題ないですね。大事なのは次のステージに進むことですから。憎まれ役ぐらい買って出ますよ」
「あのう、今回憎まれたの私だけなんですけどぉ」
ポンポコリンがため息を吐く。
「ごめんごめん。できれば職を失うのは勘弁だから助かったよ」
「これを機に仲直りできればいいんですけどぉ」
「まーコラボしてた時は仲良くやってたみたいだし、時間が解決してくれるでしょう。大人と違って」
「期待するしかないですねぇ」
大人の世知辛さが垣間見えた気がした。
「西野さん、他に何か嚙んでることとかないですよね」
「人を悪巧みしかしないみたいに言わないで」
「もしくはゲロ吐いてるイメージしかないです」
「それも言わないでおいて」
話は以上だった。
部屋に戻っても工藤さんのデビューに向けた相談をしていて、俺では力にならなそうだからそのまま外に出た。
旅館の外を散歩する。そこまで広くはない温泉街。毎日ここで過ごしていれば多少なりとも顔馴染みができる。飯屋の看板娘なめっぽう明るい雪女、皮肉屋な一反木綿などは挨拶するぐらいの仲にはなった。人間社会に馴染めない俺であったが、どういうわけか妖怪社会にはとても馴染めていた。俺の知名度が高く、あの討伐作戦の真相が知れ渡っているからという側面があるからかもしれないが。
そんな温泉街を歩くと誰かが声をかけてくることはある。
顔馴染みかもしれないし、初対面かもしれない。
後ろから服の裾を引っ張られる。
「少し話そうじゃないか」
子供の声に振り返る。
そして目を疑った。
「もし僕がここで殺す気だったら今頃君は死んでいるよ」
ケイオスが子憎たらしい少年の姿でそこにいた。
「どうしてそれを俺に?」
「ボスだからでしょ」
「いつ俺がボスになったんですか」
西野さんは「冗談ですよ」と白い歯を見せる。
最近はもはやその手の冗談が冗談にならなくなっているからやめてほしいところである。
「ボスなのは冗談ですが、共有義務はありますよ。だって現場レベルのトップじゃないですか」
事実上のボス宣言。
「ボスだろそれは」
ツッコミにいられなかった。
西野さんはそのツッコミを待っていましたとばかりにニンマリした。
「樹神さんは支援とかはしても作戦自体に関わらないですし、私や堂島なんかは関係各所の利害調整担当みたいなことメインですよね。北御門さんとかは護衛みたいなものですから、やっぱり現場で動く三刀さんには伝えておいた方がいいっていうのが総意ですね」
それはそれとして返答はする社会人の鑑であった。
「妹とか汐見に本当のことを伝えなくていいのですか」
「ユニット組む組まないでいつまでも悩まれてちゃ困ります。いつどうなるかわからないからできるだけ早く神としての力を高めて欲しいっていうのが宮内庁の見解ですね」
言わんとしていることはわかる。もし今、ケイオスが暴れ始めたら止められるのは俺しかいない。しかも本当に止められるかはわからない。ならば少しでも可能性を上げたいのが本音だろう。
「俺がバラすかもしれないと考えなかったのですか」
「バラしても問題ないですね。大事なのは次のステージに進むことですから。憎まれ役ぐらい買って出ますよ」
「あのう、今回憎まれたの私だけなんですけどぉ」
ポンポコリンがため息を吐く。
「ごめんごめん。できれば職を失うのは勘弁だから助かったよ」
「これを機に仲直りできればいいんですけどぉ」
「まーコラボしてた時は仲良くやってたみたいだし、時間が解決してくれるでしょう。大人と違って」
「期待するしかないですねぇ」
大人の世知辛さが垣間見えた気がした。
「西野さん、他に何か嚙んでることとかないですよね」
「人を悪巧みしかしないみたいに言わないで」
「もしくはゲロ吐いてるイメージしかないです」
「それも言わないでおいて」
話は以上だった。
部屋に戻っても工藤さんのデビューに向けた相談をしていて、俺では力にならなそうだからそのまま外に出た。
旅館の外を散歩する。そこまで広くはない温泉街。毎日ここで過ごしていれば多少なりとも顔馴染みができる。飯屋の看板娘なめっぽう明るい雪女、皮肉屋な一反木綿などは挨拶するぐらいの仲にはなった。人間社会に馴染めない俺であったが、どういうわけか妖怪社会にはとても馴染めていた。俺の知名度が高く、あの討伐作戦の真相が知れ渡っているからという側面があるからかもしれないが。
そんな温泉街を歩くと誰かが声をかけてくることはある。
顔馴染みかもしれないし、初対面かもしれない。
後ろから服の裾を引っ張られる。
「少し話そうじゃないか」
子供の声に振り返る。
そして目を疑った。
「もし僕がここで殺す気だったら今頃君は死んでいるよ」
ケイオスが子憎たらしい少年の姿でそこにいた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか?
慶光
ファンタジー
ローラはいつも婚約者のホルムズから、妹のレイラと比較されて来た。婚約してからずっとだ。
頭にきたローラは、そんなに妹のことが好きなら、そちらと婚約したらどうかと彼に告げる。
画してローラは自由の身になった。
ただし……ホルムズと妹レイラとの婚約が上手くいくわけはなかったのだが……。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる