156 / 229
8章 神と巫女
一流
しおりを挟む
しばらくして落ち着いた樹神さんが胡坐で不貞腐れる。
「どないせっちゅーねん」
北御門が樹神さんをなだめる。
「会長、他に何か役に立ちそうな記載はなかった感じですか?」
「あるにはあったけど何事にも動じない心を作れとか抽象的なことしか書かれてないわ」
「一応、退魔師としての精神修行をつけてみましょうか」
「それしかないやろなぁ。なんやねん、無我の境地とか明鏡止水とかって。もっと分かりやすく書いとけ」
影の制御は簡単ではないだろうと思っていたし、アンジェラ曰くコントロールが下手くそな俺は並々ならぬ苦労が必要だとも考えていたが、些か求められるレベルが高すぎやしないだろうか。自分の胡乱な認識ではそこらへんのことができる人物は達人とか悟ったなどと評される程には凄いと思われるのだが。それを一介の怠惰な学生に求めるのはいかがなものか。もはや学生と呼べる身分かどうかも議論が必要さえある。
「北御門、とりあえずそれを教えてくれないか?」
「うん、任せて。でも本当に役に立つかは微妙なところだけどね」
「まあ、なにもやらないよりはマシだろう」
影の対応方針が決まったところで樹神さんに改めて尋ねる。
「トヨさんが暴走して、卑弥呼さんが暴走しなかった理由についてなにか記載ないですか?」
「んーないなぁ。何か気になることあるんか?」
「あの作戦の日、桜庭は完璧に力のコントロールができていました。センスが違うといえばそれまでですが、暴走する恐れはないのか気になりました」
「センスもあるやろうけど、たしかプロゲーマーなんやろ。一流の競技者は精神面のコントロールを知らず知らずのうちに鍛えられてるってこともあるから、すぐにできたんやろうなぁ。暴走についてはそこまでセンスがあるなら大丈夫やろとしか言えへん。自分を見失うぐらい取り乱す何かが起きなければ大丈夫やろ」
なんだかんだプロゲーマーの上澄みにいた奴さんは凄いのだなぁと感心する。
「てかそもそも論なるけどな、今アンちゃんが総司はんの心の中に居着いてるわけやろ。そうなるとまた別問題が絡んでる気もするけどなぁ」
「逆に同じように暴走したトヨさんにも何か巣喰っていたとかあるかもしれないですね」
「あー他所から連れてこられた子っぽいし、あるかもなぁ。せや、あの三人娘はどないなった? 上手いことアンちゃん目覚めさせれば解決できるかもやし、期待しとるんやけど」
「揉めに揉めてます」
「んーまー大事なお兄ちゃん盗られた形になるわけやから揉めるやろうなぁ」
「俺らそこまで仲のいい兄妹じゃないですよ」
ギョッとした顔をされた。樹神さん、北御門の両名に。
「三刀さん、あれで仲悪いは通らないと思うよ。本当に仲悪い兄妹って会話すらないし。僕の友達なんて廊下ですれ違う度に舌打ちされるとか言ってたから」
「せやな。普通に会話成立してて、兄に甘えてる妹なんて希少生物みたいなもんやから。保護せなアカンレベルで珍しいんやで」
世の中の兄妹というものは些か荒み過ぎではなかろうか。
「出会ってから数年はすれ違う度に怯えられましたけどね。ここ数年ですよ、俺に対する態度がデカくなったのは」
樹神さんは俺の手を引き、ソファに座らされた。樹神さんはその隣に腰掛けて足を組む。北御門に茶菓子を出すように指示を飛ばし、俺に向き直す。
「その話詳しく聞かせて」
肩に回されたその腕は力強く、絶対に逃がさないという意志が感じられた。
ただし、その目はキラキラしており、確実に好奇心のみで駆り出された行動であるのは明白であった。
「どないせっちゅーねん」
北御門が樹神さんをなだめる。
「会長、他に何か役に立ちそうな記載はなかった感じですか?」
「あるにはあったけど何事にも動じない心を作れとか抽象的なことしか書かれてないわ」
「一応、退魔師としての精神修行をつけてみましょうか」
「それしかないやろなぁ。なんやねん、無我の境地とか明鏡止水とかって。もっと分かりやすく書いとけ」
影の制御は簡単ではないだろうと思っていたし、アンジェラ曰くコントロールが下手くそな俺は並々ならぬ苦労が必要だとも考えていたが、些か求められるレベルが高すぎやしないだろうか。自分の胡乱な認識ではそこらへんのことができる人物は達人とか悟ったなどと評される程には凄いと思われるのだが。それを一介の怠惰な学生に求めるのはいかがなものか。もはや学生と呼べる身分かどうかも議論が必要さえある。
「北御門、とりあえずそれを教えてくれないか?」
「うん、任せて。でも本当に役に立つかは微妙なところだけどね」
「まあ、なにもやらないよりはマシだろう」
影の対応方針が決まったところで樹神さんに改めて尋ねる。
「トヨさんが暴走して、卑弥呼さんが暴走しなかった理由についてなにか記載ないですか?」
「んーないなぁ。何か気になることあるんか?」
「あの作戦の日、桜庭は完璧に力のコントロールができていました。センスが違うといえばそれまでですが、暴走する恐れはないのか気になりました」
「センスもあるやろうけど、たしかプロゲーマーなんやろ。一流の競技者は精神面のコントロールを知らず知らずのうちに鍛えられてるってこともあるから、すぐにできたんやろうなぁ。暴走についてはそこまでセンスがあるなら大丈夫やろとしか言えへん。自分を見失うぐらい取り乱す何かが起きなければ大丈夫やろ」
なんだかんだプロゲーマーの上澄みにいた奴さんは凄いのだなぁと感心する。
「てかそもそも論なるけどな、今アンちゃんが総司はんの心の中に居着いてるわけやろ。そうなるとまた別問題が絡んでる気もするけどなぁ」
「逆に同じように暴走したトヨさんにも何か巣喰っていたとかあるかもしれないですね」
「あー他所から連れてこられた子っぽいし、あるかもなぁ。せや、あの三人娘はどないなった? 上手いことアンちゃん目覚めさせれば解決できるかもやし、期待しとるんやけど」
「揉めに揉めてます」
「んーまー大事なお兄ちゃん盗られた形になるわけやから揉めるやろうなぁ」
「俺らそこまで仲のいい兄妹じゃないですよ」
ギョッとした顔をされた。樹神さん、北御門の両名に。
「三刀さん、あれで仲悪いは通らないと思うよ。本当に仲悪い兄妹って会話すらないし。僕の友達なんて廊下ですれ違う度に舌打ちされるとか言ってたから」
「せやな。普通に会話成立してて、兄に甘えてる妹なんて希少生物みたいなもんやから。保護せなアカンレベルで珍しいんやで」
世の中の兄妹というものは些か荒み過ぎではなかろうか。
「出会ってから数年はすれ違う度に怯えられましたけどね。ここ数年ですよ、俺に対する態度がデカくなったのは」
樹神さんは俺の手を引き、ソファに座らされた。樹神さんはその隣に腰掛けて足を組む。北御門に茶菓子を出すように指示を飛ばし、俺に向き直す。
「その話詳しく聞かせて」
肩に回されたその腕は力強く、絶対に逃がさないという意志が感じられた。
ただし、その目はキラキラしており、確実に好奇心のみで駆り出された行動であるのは明白であった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる