上 下
155 / 229
8章 神と巫女

健康的な生活を送りましょうという医者と同じ

しおりを挟む
 あとで西野さんに資料の引き渡しと釈明することにして「資料引き渡す前に影の件について話しましょうか」と話を変えた。

 樹神さんは「せやな」と同意を示し、床に広げた資料の中から真ん中ぐらいに置いてあるものを拾い上げる。その途中、貴重だと思われる資料を踏んだり、下躓いたりしていた。北御門はその度、青い顔をする。監督責任というやつが北御門にはあるのだろう。神様を監督するのはこれいかに。外部監査みたいなものだろうか。一蓮托生らしいからお前も一緒に怒られよう。そうしよう。

 樹神さんが資料に目を通す。

「ええと、ふむふむ」

 そう言ってから首を傾げる。

「邪馬台国の女王って何人かおるん?」

 それに答えたのは北御門。

「二代目まではいたとわかっていますがそれが何か?」

「ああ、いやな、ウチてっきり邪馬台国の女王って一人だけやと思ってたから有名な卑弥呼が影に苦しんでたと思うてたんやけど、そうやなかったみたい。一応卑弥呼自身も開闢の鬼道の使い手ではあったらしいんやけどか影とは無縁やったって」

「では苦しんでたのは二代目の方でしょうか?」

「そーいうことになるな」

「二代目というと、たしか邪馬台国を滅ぼしたと言われる方ですね。その方が影に悩まされていたと?」

「そう書いてあるわ。トヨちゃん……って読むんかなこれ。まートヨちゃんは能力の高さからウチの師匠のお眼鏡にも適って卑弥呼の後釜になったそうやけど、初代の壁が高すぎたそうや。卑弥呼に従っておけばなんにも問題ない時代から、たまにポカをしては責められる日々にストレスが溜まって、トヨちゃんの力が暴走して邪馬台国滅亡ってこと書いてあるわ」

 黙ってしまった北御門に代わり俺が手を挙げる。

「……それ、邪馬台国滅亡の謎も解けてしまったのでは」

 ハッとした表情をされた。

「もうこれは逆に歴史的な資料を大事に保管しとったウチを褒めてくれてもええんちゃうかな」

 俺は再び貴重だと思われる資料を踏んだり下躓いて戻ってきた樹神さんが荒らした資料を整える。

「開き直るかどうかは一旦置いといて、影が暴走する術について何か記載なかったですか?」

「ああ、うん。これ自体は当時の様子を描いたもんやけど、今更であるが我は今こう思う~的な感じで、開闢の鬼道の発現方法の見直しと制御方法の鍛錬の仕方、たまに後悔の念が綴られてたわ」

 樹神さんがその後続けてそれぞれ教えてくれた。

 発現方法の見直しとは、魂の外郭に小さなあなを空けることをやめるべきだということであった。その孔から漏れ出る力を利用するのが開闢の鬼道である。本来人が持つ魂の総量は微弱であり、そこから漏れ出たものを利用したところで大した結果にならない。ごくまれに魂の総量が多い者がおり、その者を一瞬にして万能の強者に仕立て上げることができるのが開闢の鬼道の真髄であるということだった。

 人が霊感、超能力といった力に目覚めるには、偶発的な外的要因を除けば、生まれながらにして感覚を持っているか、長期に渡る修行をするしかないという。開闢の鬼道は邪道にあたる。無論、何か不具合があるからこその邪道であり、理由なくして邪道なり得ない。

 邪道とは心に抱える不調が表出してしまうということだ。

 これが俺にとっての影である。

 二代目女王のトヨはまた別の形であったらしい。

 万能の力とは方向性すら定まらないものであった。

 だからこそこの開闢の鬼道は廃れていった、廃れさせたと記載されていた。

 そして続くのは、もし何か偶発的に開闢の鬼道に目覚めた者がいた場合の制御方法についてだ。

「心穏やかに日々を過ごすこと」

 樹神さんがそう読みあげて、目が笑っていない笑顔を作る。

「そんなんできてたら元から問題になってないわ! ボケ!」

 そう叫んで資料を床に叩きつけようとしたところを北御門に止められていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...