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7章 偶像崇拝
アイドル恋愛自由化
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桜庭が去り、再び静寂が訪れたストリートで汐見に尋ねた。
「今後のことを相談したいんだがどこかいい場所あったりしないか?」
「だったらあそこがいいかも」
とにかくログアウトしてと促され、意味も分からず促されるままログアウトする。
旅館の部屋に戻った俺。起き上がった俺にポンポコリンは「どうでしたか?」と尋ねる。
「わだかまりは溶けた……かな。ユニットを組むかどうかは訊けてない」
「仲良しになれたならよかったですぅ」
「ただ他に一つ問題が発生した。桜庭が現れた」
桜庭という名が出たことで場の空気が引き締まる。特に公安から出張っている堂島さん、宮内庁から寄越されている西野さんの顔付きが大きく変わった。それから俺はあの場であったことを皆に説明した。
説明後、堂島さんは怪訝な顔をする。
「今更同僚のことを気にしても仕方ないだろうに」
それに西野さんは呆れた顔をする。
「根っからの犯罪者とか悪意に染まった人を相手にしすぎです。普通の人間はそこまで割り切れませんよ」
「……かもしれんな」
アイツに良心の呵責があるとも思えんが、と言いかけて止めた。こっちには工藤さんがいる。まだ工藤さんの存在は公になっていないが、なにかの拍子に漏れた際、チームメンバーの不満が工藤さんに向かわないようコントロールしたいのかもしれない。
そう考えたら一応の筋は通る。
世界を敵にしてでも勝ち取りたい愛というのは、本当に愛と呼ぶのだろうかなどとも思ったりした。独占欲と表現した方が近い気がする。
「三刀さん、この要請に応えますか?」と西野さん。
あの作戦の最中、桜庭の指示に従い俺を襲ってきた連中であるが、作戦前の和気藹々とした雰囲気から察するに悪い連中ではないのだろう。中には桜庭が疑わしいと判断し、俺を手助けしてくれた奴らもいた。初対面で妹をくれなんて言い出す馬鹿野郎だったが、根は悪い奴ではないのだろう。人目に晒す枝葉は腐っていそうであるが。
「お願いします」
「では電脳科学庁に連絡を入れてきます」
そう言って離席する西野さん。
話がひと段落したのを見計らったようにポンポコリンの携帯から声が聞こえた。
「さらしなー」
突然聞こえた声に皆が固まる。親の声より聞いた声で俺は察した。それから俺の予想通り、ポンポコリンの携帯の画面に映った汐見を見せられる。
「はじめましての方はよろしく! そうじゃない方は久しぶり! 汐見柚子です!」
有名なネットアイドルの挨拶にその場にいたほとんどは「おお」と感嘆の声をあげる。あげなかったのは俺とポンポコリン、そして妹だけだった。
妹が俺にせがみ、携帯同士の画面を向かい合うようにする。
「マイマイ、久しぶり!」
笑顔で接する汐見。そこにあったのはアイドル汐見柚子の輝く姿だった。
「なにしに来たわけ?」
そんな汐見に妹はムッとした顔で訊いた。態度も悪ければ口調もとげとげしい。同じネットアイドルを自称する存在とは思えなかった。
汐見は少し考える素振りを見せる。
「マイマイのファンだから会いにきたの」
「個人的なファンとの接触はしないことにしてるの。だからご引き取りをお願いしまーす」
汐見が犬歯を覗かせる。
「汐見はね、そこらへん緩くしていこうと思うの」
「……だから? 勝手にしたらよくない?」
「うん、だから汐見のファンなお兄さんと親しくなっちゃうね」
ギャーギャー騒ぎ出す妹を無視して「総司さん、アイドルとしても一個人としても仲良くしてね」とウインクしてくれた。
嬉しい。とても嬉しい。感涙しそうになる。
半面、やっかいなことになったなと冷静な自分がいた。
妹は汐見を完全に敵と見なしたし、ポンポコリンは「娘に手を出したんですかぁ!?」と肩を掴んで離さないし、他の連中も修羅場に巻き込まれたくないと傍観を決め込んでいた。結局、汐見とユニットを組んで活動してもらうことどころではなくなってしまった。
でも汐見の笑顔が見れたならそれだけで万事オーケーだ。
「今後のことを相談したいんだがどこかいい場所あったりしないか?」
「だったらあそこがいいかも」
とにかくログアウトしてと促され、意味も分からず促されるままログアウトする。
旅館の部屋に戻った俺。起き上がった俺にポンポコリンは「どうでしたか?」と尋ねる。
「わだかまりは溶けた……かな。ユニットを組むかどうかは訊けてない」
「仲良しになれたならよかったですぅ」
「ただ他に一つ問題が発生した。桜庭が現れた」
桜庭という名が出たことで場の空気が引き締まる。特に公安から出張っている堂島さん、宮内庁から寄越されている西野さんの顔付きが大きく変わった。それから俺はあの場であったことを皆に説明した。
説明後、堂島さんは怪訝な顔をする。
「今更同僚のことを気にしても仕方ないだろうに」
それに西野さんは呆れた顔をする。
「根っからの犯罪者とか悪意に染まった人を相手にしすぎです。普通の人間はそこまで割り切れませんよ」
「……かもしれんな」
アイツに良心の呵責があるとも思えんが、と言いかけて止めた。こっちには工藤さんがいる。まだ工藤さんの存在は公になっていないが、なにかの拍子に漏れた際、チームメンバーの不満が工藤さんに向かわないようコントロールしたいのかもしれない。
そう考えたら一応の筋は通る。
世界を敵にしてでも勝ち取りたい愛というのは、本当に愛と呼ぶのだろうかなどとも思ったりした。独占欲と表現した方が近い気がする。
「三刀さん、この要請に応えますか?」と西野さん。
あの作戦の最中、桜庭の指示に従い俺を襲ってきた連中であるが、作戦前の和気藹々とした雰囲気から察するに悪い連中ではないのだろう。中には桜庭が疑わしいと判断し、俺を手助けしてくれた奴らもいた。初対面で妹をくれなんて言い出す馬鹿野郎だったが、根は悪い奴ではないのだろう。人目に晒す枝葉は腐っていそうであるが。
「お願いします」
「では電脳科学庁に連絡を入れてきます」
そう言って離席する西野さん。
話がひと段落したのを見計らったようにポンポコリンの携帯から声が聞こえた。
「さらしなー」
突然聞こえた声に皆が固まる。親の声より聞いた声で俺は察した。それから俺の予想通り、ポンポコリンの携帯の画面に映った汐見を見せられる。
「はじめましての方はよろしく! そうじゃない方は久しぶり! 汐見柚子です!」
有名なネットアイドルの挨拶にその場にいたほとんどは「おお」と感嘆の声をあげる。あげなかったのは俺とポンポコリン、そして妹だけだった。
妹が俺にせがみ、携帯同士の画面を向かい合うようにする。
「マイマイ、久しぶり!」
笑顔で接する汐見。そこにあったのはアイドル汐見柚子の輝く姿だった。
「なにしに来たわけ?」
そんな汐見に妹はムッとした顔で訊いた。態度も悪ければ口調もとげとげしい。同じネットアイドルを自称する存在とは思えなかった。
汐見は少し考える素振りを見せる。
「マイマイのファンだから会いにきたの」
「個人的なファンとの接触はしないことにしてるの。だからご引き取りをお願いしまーす」
汐見が犬歯を覗かせる。
「汐見はね、そこらへん緩くしていこうと思うの」
「……だから? 勝手にしたらよくない?」
「うん、だから汐見のファンなお兄さんと親しくなっちゃうね」
ギャーギャー騒ぎ出す妹を無視して「総司さん、アイドルとしても一個人としても仲良くしてね」とウインクしてくれた。
嬉しい。とても嬉しい。感涙しそうになる。
半面、やっかいなことになったなと冷静な自分がいた。
妹は汐見を完全に敵と見なしたし、ポンポコリンは「娘に手を出したんですかぁ!?」と肩を掴んで離さないし、他の連中も修羅場に巻き込まれたくないと傍観を決め込んでいた。結局、汐見とユニットを組んで活動してもらうことどころではなくなってしまった。
でも汐見の笑顔が見れたならそれだけで万事オーケーだ。
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https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
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