143 / 229
7章 偶像崇拝
アイドル恋愛自由化
しおりを挟む
桜庭が去り、再び静寂が訪れたストリートで汐見に尋ねた。
「今後のことを相談したいんだがどこかいい場所あったりしないか?」
「だったらあそこがいいかも」
とにかくログアウトしてと促され、意味も分からず促されるままログアウトする。
旅館の部屋に戻った俺。起き上がった俺にポンポコリンは「どうでしたか?」と尋ねる。
「わだかまりは溶けた……かな。ユニットを組むかどうかは訊けてない」
「仲良しになれたならよかったですぅ」
「ただ他に一つ問題が発生した。桜庭が現れた」
桜庭という名が出たことで場の空気が引き締まる。特に公安から出張っている堂島さん、宮内庁から寄越されている西野さんの顔付きが大きく変わった。それから俺はあの場であったことを皆に説明した。
説明後、堂島さんは怪訝な顔をする。
「今更同僚のことを気にしても仕方ないだろうに」
それに西野さんは呆れた顔をする。
「根っからの犯罪者とか悪意に染まった人を相手にしすぎです。普通の人間はそこまで割り切れませんよ」
「……かもしれんな」
アイツに良心の呵責があるとも思えんが、と言いかけて止めた。こっちには工藤さんがいる。まだ工藤さんの存在は公になっていないが、なにかの拍子に漏れた際、チームメンバーの不満が工藤さんに向かわないようコントロールしたいのかもしれない。
そう考えたら一応の筋は通る。
世界を敵にしてでも勝ち取りたい愛というのは、本当に愛と呼ぶのだろうかなどとも思ったりした。独占欲と表現した方が近い気がする。
「三刀さん、この要請に応えますか?」と西野さん。
あの作戦の最中、桜庭の指示に従い俺を襲ってきた連中であるが、作戦前の和気藹々とした雰囲気から察するに悪い連中ではないのだろう。中には桜庭が疑わしいと判断し、俺を手助けしてくれた奴らもいた。初対面で妹をくれなんて言い出す馬鹿野郎だったが、根は悪い奴ではないのだろう。人目に晒す枝葉は腐っていそうであるが。
「お願いします」
「では電脳科学庁に連絡を入れてきます」
そう言って離席する西野さん。
話がひと段落したのを見計らったようにポンポコリンの携帯から声が聞こえた。
「さらしなー」
突然聞こえた声に皆が固まる。親の声より聞いた声で俺は察した。それから俺の予想通り、ポンポコリンの携帯の画面に映った汐見を見せられる。
「はじめましての方はよろしく! そうじゃない方は久しぶり! 汐見柚子です!」
有名なネットアイドルの挨拶にその場にいたほとんどは「おお」と感嘆の声をあげる。あげなかったのは俺とポンポコリン、そして妹だけだった。
妹が俺にせがみ、携帯同士の画面を向かい合うようにする。
「マイマイ、久しぶり!」
笑顔で接する汐見。そこにあったのはアイドル汐見柚子の輝く姿だった。
「なにしに来たわけ?」
そんな汐見に妹はムッとした顔で訊いた。態度も悪ければ口調もとげとげしい。同じネットアイドルを自称する存在とは思えなかった。
汐見は少し考える素振りを見せる。
「マイマイのファンだから会いにきたの」
「個人的なファンとの接触はしないことにしてるの。だからご引き取りをお願いしまーす」
汐見が犬歯を覗かせる。
「汐見はね、そこらへん緩くしていこうと思うの」
「……だから? 勝手にしたらよくない?」
「うん、だから汐見のファンなお兄さんと親しくなっちゃうね」
ギャーギャー騒ぎ出す妹を無視して「総司さん、アイドルとしても一個人としても仲良くしてね」とウインクしてくれた。
嬉しい。とても嬉しい。感涙しそうになる。
半面、やっかいなことになったなと冷静な自分がいた。
妹は汐見を完全に敵と見なしたし、ポンポコリンは「娘に手を出したんですかぁ!?」と肩を掴んで離さないし、他の連中も修羅場に巻き込まれたくないと傍観を決め込んでいた。結局、汐見とユニットを組んで活動してもらうことどころではなくなってしまった。
でも汐見の笑顔が見れたならそれだけで万事オーケーだ。
「今後のことを相談したいんだがどこかいい場所あったりしないか?」
「だったらあそこがいいかも」
とにかくログアウトしてと促され、意味も分からず促されるままログアウトする。
旅館の部屋に戻った俺。起き上がった俺にポンポコリンは「どうでしたか?」と尋ねる。
「わだかまりは溶けた……かな。ユニットを組むかどうかは訊けてない」
「仲良しになれたならよかったですぅ」
「ただ他に一つ問題が発生した。桜庭が現れた」
桜庭という名が出たことで場の空気が引き締まる。特に公安から出張っている堂島さん、宮内庁から寄越されている西野さんの顔付きが大きく変わった。それから俺はあの場であったことを皆に説明した。
説明後、堂島さんは怪訝な顔をする。
「今更同僚のことを気にしても仕方ないだろうに」
それに西野さんは呆れた顔をする。
「根っからの犯罪者とか悪意に染まった人を相手にしすぎです。普通の人間はそこまで割り切れませんよ」
「……かもしれんな」
アイツに良心の呵責があるとも思えんが、と言いかけて止めた。こっちには工藤さんがいる。まだ工藤さんの存在は公になっていないが、なにかの拍子に漏れた際、チームメンバーの不満が工藤さんに向かわないようコントロールしたいのかもしれない。
そう考えたら一応の筋は通る。
世界を敵にしてでも勝ち取りたい愛というのは、本当に愛と呼ぶのだろうかなどとも思ったりした。独占欲と表現した方が近い気がする。
「三刀さん、この要請に応えますか?」と西野さん。
あの作戦の最中、桜庭の指示に従い俺を襲ってきた連中であるが、作戦前の和気藹々とした雰囲気から察するに悪い連中ではないのだろう。中には桜庭が疑わしいと判断し、俺を手助けしてくれた奴らもいた。初対面で妹をくれなんて言い出す馬鹿野郎だったが、根は悪い奴ではないのだろう。人目に晒す枝葉は腐っていそうであるが。
「お願いします」
「では電脳科学庁に連絡を入れてきます」
そう言って離席する西野さん。
話がひと段落したのを見計らったようにポンポコリンの携帯から声が聞こえた。
「さらしなー」
突然聞こえた声に皆が固まる。親の声より聞いた声で俺は察した。それから俺の予想通り、ポンポコリンの携帯の画面に映った汐見を見せられる。
「はじめましての方はよろしく! そうじゃない方は久しぶり! 汐見柚子です!」
有名なネットアイドルの挨拶にその場にいたほとんどは「おお」と感嘆の声をあげる。あげなかったのは俺とポンポコリン、そして妹だけだった。
妹が俺にせがみ、携帯同士の画面を向かい合うようにする。
「マイマイ、久しぶり!」
笑顔で接する汐見。そこにあったのはアイドル汐見柚子の輝く姿だった。
「なにしに来たわけ?」
そんな汐見に妹はムッとした顔で訊いた。態度も悪ければ口調もとげとげしい。同じネットアイドルを自称する存在とは思えなかった。
汐見は少し考える素振りを見せる。
「マイマイのファンだから会いにきたの」
「個人的なファンとの接触はしないことにしてるの。だからご引き取りをお願いしまーす」
汐見が犬歯を覗かせる。
「汐見はね、そこらへん緩くしていこうと思うの」
「……だから? 勝手にしたらよくない?」
「うん、だから汐見のファンなお兄さんと親しくなっちゃうね」
ギャーギャー騒ぎ出す妹を無視して「総司さん、アイドルとしても一個人としても仲良くしてね」とウインクしてくれた。
嬉しい。とても嬉しい。感涙しそうになる。
半面、やっかいなことになったなと冷静な自分がいた。
妹は汐見を完全に敵と見なしたし、ポンポコリンは「娘に手を出したんですかぁ!?」と肩を掴んで離さないし、他の連中も修羅場に巻き込まれたくないと傍観を決め込んでいた。結局、汐見とユニットを組んで活動してもらうことどころではなくなってしまった。
でも汐見の笑顔が見れたならそれだけで万事オーケーだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる