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7章 偶像崇拝
信頼できる敵
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桜庭の雰囲気は柔らかかった。大会の時に感じた敵対する意志は伝わってこない。それどころか久しぶりに会った友人との会話を楽しみたいフシさえ感じられた。
「ここをお前には教えたことはない。何故ここを知っている?」
その問いに桜庭は肩を竦める。
「アイツに教えてもらった。俺の恋人が人質に取られているのだから、こっちも人質を取って構わないだろうって説得してな」
「ケイオスの狙いは汐見か?」
桜庭は面倒くさそうに頭を掻く。
「勘違いするな。アイツはそこのアイドルに興味はない。作り物の魂に輝きは宿らないとか言ってな」
「ならここにいるのはお前の意志ってことだな」
「まさか総司と出くわすことになるとは思わなかったけどな」
俺は汐見を隠すように前に出る。
それを見た桜庭は少し慌てたように手を前に出す。
「待て待て。俺はここでやり合うつもりはない」
「わざわざ現れておいてそんなこと言うのか」
「殺るつもりなら騙し討ちだ」
「敵となったお前を攻撃しない理由は俺にはならない」
「お前がそのつもりなら、俺はこの電脳の出入りを封鎖する。お前の推しも巻き込まれるぞ」
もし桜庭の言う通り、封鎖が可能ならば汐見は戦いに巻き込まれるだろう。巻き込まれないよう庇いながら戦うという選択肢もあるが、今の俺では難しい。影の暴走があるからだ。桜庭相手に手加減はできない。だが本気を出すということは影の暴走を度外視にしなければならない。そうなれば汐見の無事は保証できない。
舌打ち。それから桜庭を睨む。
「ならさっさと帰れ」
「まあ、待てよ。少し頼み事聞いてくれないか?」
「どの面下げて言ってんだ」
「このイケメンフェイスだろ」
「胡散臭いビジネスやってそうな面にしか見えねえよ」
「胡散臭いビジネスじゃ済まないことやったからこその頼み事なんだけど」
「……さっさと言え」
正直聞く義理などありやしないが、コイツも俺相手に下手に出る意味などない。だからこそ聞く理由成りえた。
「俺が馬鹿やったせいでチームメンバーもといプロゲーマーの一部が悪く言われてる。だからうまいことやって彼らをフォローしてやってくれないか」
「そんな心配するぐらいならしでかしてんじぇねえよ」
「俺にとっちゃ一番は恋人だ。そこは譲れない。ただまあ気にするぐらいはするさ」
「俺のメリットは?」
「今後そこのアイドルは狙わない。他に何かいるか?」
「妹を狙うな」
「それはあの化物に頼んでくれ」
「まあいい。大して期待はしてない」
「意外だな。シスコンだからもっと粘るかと思ってたぞ」
「お前がこれを呑まないなら、こっちも考えがあるってだけだ」
具体的には工藤さんをアイドルにして、一緒に活動させる。妹に何かある時は工藤さんにも被害が及ぶ形式になる。最初は信仰を集めることが目的だったのに、いつの間にか桜庭に対する最強の盾になってしまった。見方を変えれば肉壁ともいえる非人道的な何かであるが、最初の目的は違ったのでセーフとしたい。ケイオスにとっては工藤さんの安否などどうでもいいのだろうが、そちらは桜庭がどうにかしてくれるだろう。
いやはや信頼できる敵というのはなんとも便利なものだろう。
「……?」
桜庭はこちらの意図がわからないようで拳で唇を軽く叩いていた。
俺は桜庭に言う。
「要求は呑む。話は以上だ。他に何もなければ帰れ」
桜庭はいたずらっ子のような子憎たらしい笑みを作る。
「俺が今どこで何をしているのか聞かなくていいのか」
「どうせ聞いたところで答える気ないんだろう。だったらお前と話す理由はない」
「そういうやつだよな、お前は」
桜庭は深くゆっくりと息を漏らす。その後、片手を腰に置いたままログアウトしていった。
「ここをお前には教えたことはない。何故ここを知っている?」
その問いに桜庭は肩を竦める。
「アイツに教えてもらった。俺の恋人が人質に取られているのだから、こっちも人質を取って構わないだろうって説得してな」
「ケイオスの狙いは汐見か?」
桜庭は面倒くさそうに頭を掻く。
「勘違いするな。アイツはそこのアイドルに興味はない。作り物の魂に輝きは宿らないとか言ってな」
「ならここにいるのはお前の意志ってことだな」
「まさか総司と出くわすことになるとは思わなかったけどな」
俺は汐見を隠すように前に出る。
それを見た桜庭は少し慌てたように手を前に出す。
「待て待て。俺はここでやり合うつもりはない」
「わざわざ現れておいてそんなこと言うのか」
「殺るつもりなら騙し討ちだ」
「敵となったお前を攻撃しない理由は俺にはならない」
「お前がそのつもりなら、俺はこの電脳の出入りを封鎖する。お前の推しも巻き込まれるぞ」
もし桜庭の言う通り、封鎖が可能ならば汐見は戦いに巻き込まれるだろう。巻き込まれないよう庇いながら戦うという選択肢もあるが、今の俺では難しい。影の暴走があるからだ。桜庭相手に手加減はできない。だが本気を出すということは影の暴走を度外視にしなければならない。そうなれば汐見の無事は保証できない。
舌打ち。それから桜庭を睨む。
「ならさっさと帰れ」
「まあ、待てよ。少し頼み事聞いてくれないか?」
「どの面下げて言ってんだ」
「このイケメンフェイスだろ」
「胡散臭いビジネスやってそうな面にしか見えねえよ」
「胡散臭いビジネスじゃ済まないことやったからこその頼み事なんだけど」
「……さっさと言え」
正直聞く義理などありやしないが、コイツも俺相手に下手に出る意味などない。だからこそ聞く理由成りえた。
「俺が馬鹿やったせいでチームメンバーもといプロゲーマーの一部が悪く言われてる。だからうまいことやって彼らをフォローしてやってくれないか」
「そんな心配するぐらいならしでかしてんじぇねえよ」
「俺にとっちゃ一番は恋人だ。そこは譲れない。ただまあ気にするぐらいはするさ」
「俺のメリットは?」
「今後そこのアイドルは狙わない。他に何かいるか?」
「妹を狙うな」
「それはあの化物に頼んでくれ」
「まあいい。大して期待はしてない」
「意外だな。シスコンだからもっと粘るかと思ってたぞ」
「お前がこれを呑まないなら、こっちも考えがあるってだけだ」
具体的には工藤さんをアイドルにして、一緒に活動させる。妹に何かある時は工藤さんにも被害が及ぶ形式になる。最初は信仰を集めることが目的だったのに、いつの間にか桜庭に対する最強の盾になってしまった。見方を変えれば肉壁ともいえる非人道的な何かであるが、最初の目的は違ったのでセーフとしたい。ケイオスにとっては工藤さんの安否などどうでもいいのだろうが、そちらは桜庭がどうにかしてくれるだろう。
いやはや信頼できる敵というのはなんとも便利なものだろう。
「……?」
桜庭はこちらの意図がわからないようで拳で唇を軽く叩いていた。
俺は桜庭に言う。
「要求は呑む。話は以上だ。他に何もなければ帰れ」
桜庭はいたずらっ子のような子憎たらしい笑みを作る。
「俺が今どこで何をしているのか聞かなくていいのか」
「どうせ聞いたところで答える気ないんだろう。だったらお前と話す理由はない」
「そういうやつだよな、お前は」
桜庭は深くゆっくりと息を漏らす。その後、片手を腰に置いたままログアウトしていった。
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