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7章 偶像崇拝
殻であり檻である
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遺跡の奥で一人立ち尽くしていた。
心の支柱がいなくなった。
彼女は俺のために活動を続けてくれたのに、俺は彼女の苦悩も何も知らずファンを公言していたことが不甲斐なかった。俺のためだけに二人きりで会話する機会をくれたのに、そこで彼女が辞める理由が理解できなかったことが情けない。
俺の中の汐見柚子は空っぽではないし、普通の女の子であった。芯のある子で、努力して普通ではない女の子に成り上がった。だからこそ彼女がそんなことを言う理由がわからなかった。
順風満帆だったはずの彼女に何があったのか――いや、何もなかったからとも言っていた。それならそれで問題はないはずなのだ。だからこそ訳が分からない。
彼女のために何もしてあげられなかった。
何も理解してあげられなかった。
女神だなんだと神聖視しておいてこの様だ。情けない。
ああ、死んでしまいたい。
――そう思ってしまった。
心の殻に亀裂が入る。
そうとしか思えない感覚が走る。
引き籠るための殻はその実、攻撃性のある影を外にださない檻の役目も果たしていた。ソレは度重なる心痛により脆くなっていた。もはや檻の役目を果たせなくなっていた。
殻が割れた。
足元から影が溢れる。
溢れる影は止まることをしらず、周囲の地面に広がった影から腕が無数に生える。それは統合し、巨大な一本の腕となり、俺の胴体に掴みかかる。
影をどうにか抑えようと気を回していた俺は不意をつかれる形で拘束された。
それは俺を強く握り締める。本来痛みを感じないはずのアバターの身体がミシミシと軋み、耐え難い苦痛が襲う。
俺から生じたものが俺を殺そうとする。
自傷行為であった。
楽になりたいと思っていたあの頃の思いや積年の恨みつらみを詰め込んで見ないフリしたものがこれであった。心がないと言われた俺は自分の心でさえ踏みにじってきた。その結果がこれだ。もはや積年の恨みつらみは自分に向いていた。
こうして苦しみながらも状況理解に努めようとする俺がまた嫌になる。
妹が死んだときも、アンジェラを亡くしたときも、今汐見柚子の別れを聞いたときも、心は悲しいのに抑え込んで理性ある行動をしてきた。
こういうところが本当に心がない。
最後に悲しくて泣いたのは何時だっただろうか。
もはや記憶にない。
また一段と力が込められる。
全身が砕け散りそうだった。
このまま死ぬことも覚悟した。
俺が嫌いな俺に殺されるなら仕方ない。
意識を手放そうとした瞬間、頭の中に声が響いた。
「あら、どちらも好きなのだから片方が死んでも困るわ」
影の腕から力が抜ける。
解放され地面に座る俺の足元へ、まるで高きから低きに流れるように影は吸い込まれていった。
静寂が戻った遺跡の奥。
そこにいたのは俺一人で他の人影はなかった。
けれど聞こえたあの声は、たしかにアンジェラのものであった。
心の支柱がいなくなった。
彼女は俺のために活動を続けてくれたのに、俺は彼女の苦悩も何も知らずファンを公言していたことが不甲斐なかった。俺のためだけに二人きりで会話する機会をくれたのに、そこで彼女が辞める理由が理解できなかったことが情けない。
俺の中の汐見柚子は空っぽではないし、普通の女の子であった。芯のある子で、努力して普通ではない女の子に成り上がった。だからこそ彼女がそんなことを言う理由がわからなかった。
順風満帆だったはずの彼女に何があったのか――いや、何もなかったからとも言っていた。それならそれで問題はないはずなのだ。だからこそ訳が分からない。
彼女のために何もしてあげられなかった。
何も理解してあげられなかった。
女神だなんだと神聖視しておいてこの様だ。情けない。
ああ、死んでしまいたい。
――そう思ってしまった。
心の殻に亀裂が入る。
そうとしか思えない感覚が走る。
引き籠るための殻はその実、攻撃性のある影を外にださない檻の役目も果たしていた。ソレは度重なる心痛により脆くなっていた。もはや檻の役目を果たせなくなっていた。
殻が割れた。
足元から影が溢れる。
溢れる影は止まることをしらず、周囲の地面に広がった影から腕が無数に生える。それは統合し、巨大な一本の腕となり、俺の胴体に掴みかかる。
影をどうにか抑えようと気を回していた俺は不意をつかれる形で拘束された。
それは俺を強く握り締める。本来痛みを感じないはずのアバターの身体がミシミシと軋み、耐え難い苦痛が襲う。
俺から生じたものが俺を殺そうとする。
自傷行為であった。
楽になりたいと思っていたあの頃の思いや積年の恨みつらみを詰め込んで見ないフリしたものがこれであった。心がないと言われた俺は自分の心でさえ踏みにじってきた。その結果がこれだ。もはや積年の恨みつらみは自分に向いていた。
こうして苦しみながらも状況理解に努めようとする俺がまた嫌になる。
妹が死んだときも、アンジェラを亡くしたときも、今汐見柚子の別れを聞いたときも、心は悲しいのに抑え込んで理性ある行動をしてきた。
こういうところが本当に心がない。
最後に悲しくて泣いたのは何時だっただろうか。
もはや記憶にない。
また一段と力が込められる。
全身が砕け散りそうだった。
このまま死ぬことも覚悟した。
俺が嫌いな俺に殺されるなら仕方ない。
意識を手放そうとした瞬間、頭の中に声が響いた。
「あら、どちらも好きなのだから片方が死んでも困るわ」
影の腕から力が抜ける。
解放され地面に座る俺の足元へ、まるで高きから低きに流れるように影は吸い込まれていった。
静寂が戻った遺跡の奥。
そこにいたのは俺一人で他の人影はなかった。
けれど聞こえたあの声は、たしかにアンジェラのものであった。
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