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7章 偶像崇拝

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「お前にシオミンの何が分かるっていうんだ」

 睨みつけるもブランド女は飄々と言い放つ。

「んじゃ君に何が分かるっていうの?」

 俺は立ち上がり、大演説を始めた。

 シオミンは白ギャルっぽい、可愛い、おバカの三拍子が揃った陽キャである。

 一見中身がないように見えるがそれは間違いである。

 彼女は努力家である。

 彼女は最初は個人で活動していた。その頃は数人のオーディエンスを前に緊張し、たどたどしかった。そこで心が折れてしまう子が大量にいる中で彼女は折れなかった。わずか数か月で、度胸を身に着け、技術を手に入れた。頭角を現し、大手事務所に入ったあとは数万の歓声にも堂々とした姿を見せられるようになった。

 元より光る才能があった歌唱や踊りも、わずか数か月でプロレベルにまでなり、今では業界屈指の実力者となった。才能だけでは辿り着かない頂きに、血のにじむような努力を以て辿り着いた。

 これを努力家と呼ばずしてなんと呼ぶ。

 もし彼女が空っぽならばアイドルのみならず歌手やダンサー、タレントのほとんどが空っぽになってしまうではないか。

 お前は世にいるそれらも空っぽだと呼びたいのか。

「いいえ。それは否定しない。私は汐見柚子だけが空っぽだと言ったんだけど」

「どういうことだ?」

「アレは努力なんて積み重ねしてない。単なる模倣。つぎはぎ。寄せ集め。どこかで見た、聞いたようなものを真似て集めてるだけ。だからパーツ単体は凄いし、見れるようなものになるけど、何も感情が動かない。表現したいものがない。だから表現に、人に褒められたい、認められたいみたいな承認欲求が見え隠れする」

「承認欲求の何が悪い」

「それを昇華できない程度の表現しかできてないのが悪い」

「だが技術があるならそれで十分だし、空っぽじゃないだろう」

「そうね、それを空っぽだと見なさないファン層相手なら問題ないでしょうね」

「……お前シオミンのアンチか?」

 突っかかり方がどうも気になった。以前の罵り合いと違って、本気の感情が伝わってきた。シオミンのファンを公言する人間に対する突っかかり方としては異常ともいえる。ならばアンチというのがわかりやすい答えである。

「むしろ理解者なんだけど。世界で一人だけの理解者」

 厄介なファンの方であった。ファンが行き過ぎて反転したタイプの厄介者でしかないタイプのファンであった。

 そう知ってしまったら闘志がしぼんでしまった。こういう手合いと正面から殴り合いしても勝負が成り立たない。互いの勝利条件が違うためだ。だから、君子危うきに近寄らずが正解となる。やばい奴には近づくなというやつだ。

「あーうん、お前がそう思うならそうなんだろうな」

 だから適当にいなして話を終わらせることにした。

「信じてない……か。それじゃー今日の夜、汐見柚子がまた何かお知らせする。本当に大事なお知らせ。もしそれを見て、私と話したくなったら連絡ちょうだい。待ってるからね」

 そう言ってブランド女はログアウトした。

 そして、その日の夜のこと。

 シオミンから再び大事なお知らせがあった。

 活動休止のお知らせであった。
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