119 / 229
6章 一転
ノストラダムスの大予言
しおりを挟む
ノストラダムスの大予言とは一世紀ほど昔の世紀末に流行った世界滅亡論だ。昔を振り返るという内容のテレビ番組で特集されていたのを覚えている。同時に二千年問題も一緒に特集されていて「昔の人は先のことを考えないで馬鹿だなぁ」などと妹が馬鹿みたいな感想を述べたのをよく覚えている。
「当時の空気感とかはどうでした?」
「いうて心から信じとるのは滅多におらへんかったな。当日になっても学校とか会社とか普通にあったしな。けど共通の話題としては便利やったし、ワクワクもする天気の話みたいな感じで皆して話しとったな」
「恐怖の大王って神様からしたらどんな存在ですか?」
「世界を終わらせる力を持った神がまだ地上に残ってたら、今まで仕事もせずにどこに隠れてたんだ! って袋叩きに遭わせてやるとか冗談言いあってたわ」
「恐怖の大王っていう概念の神様が生まれたりはしなかったんですか?」
「一時のブームじゃ神様にはなれへんな。あったとしてもブーム程度じゃ付喪神程度が関の山やな」
「付喪神は神様の分類じゃないんですね」
「日本人はよくわからんもんを祀るから神様って呼ぶけど、実態は精霊みたいなふわふわしたもんやな」
「もしかしたらその時生まれた精霊がいるのかもしれないんですね」
「せやな」
「……それがケイオスだったりしませんか?」
沈黙。
樹神さんが反応を示すまで待ち続ける。
そして返ってきた反応は「いやぁ、さすがにそれはないやろ!」と笑い飛ばすものであった。俺自身確信があって聞いたわけではないのでその反応に「やっぱそうですよね」と笑って返した。
笑っていたら修行場に到着する。ほどなく北御門が走って追いつく。その肩には何本かの刀袋をかけていた。
「さて道具も届いたことやし、やろか」
その掛け声で樹神さんは刀袋から一本取り出し、俺に手渡す。
「抜いて、適当に心込めてみ。壊しても構へんから全力でな」
鞘から刀の抜いた。刃が丸く潰してある刀であった。模造刀だろうか。だが刃は鋼鉄であり、頑丈そうに見える。これが壊れるというのが想像つかなかった。コンクリートにでも思い切り叩きつけてようやく刀身が歪む、そのぐらいには頑丈そうであった。
目の前に刀を構える。
授業で剣道をやった時に覚えた中段の構えだ。
木刀よりも手に掛かる負荷が大きい。ズシリと感じるそれは、ちゃんと力を入れ、姿勢を正さなければ前のめりになってしまいそうだった。電脳世界ならば片手で自由自在に扱えるというのに、現実との落差に悲しくなってしまう。この世には身体を鍛え、電脳世界の動きを現実でも再現しようとする猛者が一定数いるらしいが、モヤシ野郎には縁のない話である。
雑念を振り払い、刀に意識を集中させる。
ゲーム内で行ったときと同じように魂を、心を、刀に込めていく。
妹を神にするという誓いを。
ケイオスに対する怒りを。
アンジェラの無念を晴らすという覚悟を。
刀の周囲がほのかに発光し始める。それは段々と光量を増し、強く鋭い光に変化していく。
まだいける。
こんなものではない。
俺の魂はまだ足りないと叫んでいた。
――力が抜けた。
立ち相撲で勢いよく出した腕が相手を捉えられずにそのまま倒れてしまうような、力の行き場が失った感覚に陥った。
刀身から急速に光が失われていく。露わになった刃はひび割れ、そして砕け散った。
行き場を失った俺の魂が、足元から広がる。
それは影のようなナニカとして広がっていく。
「当時の空気感とかはどうでした?」
「いうて心から信じとるのは滅多におらへんかったな。当日になっても学校とか会社とか普通にあったしな。けど共通の話題としては便利やったし、ワクワクもする天気の話みたいな感じで皆して話しとったな」
「恐怖の大王って神様からしたらどんな存在ですか?」
「世界を終わらせる力を持った神がまだ地上に残ってたら、今まで仕事もせずにどこに隠れてたんだ! って袋叩きに遭わせてやるとか冗談言いあってたわ」
「恐怖の大王っていう概念の神様が生まれたりはしなかったんですか?」
「一時のブームじゃ神様にはなれへんな。あったとしてもブーム程度じゃ付喪神程度が関の山やな」
「付喪神は神様の分類じゃないんですね」
「日本人はよくわからんもんを祀るから神様って呼ぶけど、実態は精霊みたいなふわふわしたもんやな」
「もしかしたらその時生まれた精霊がいるのかもしれないんですね」
「せやな」
「……それがケイオスだったりしませんか?」
沈黙。
樹神さんが反応を示すまで待ち続ける。
そして返ってきた反応は「いやぁ、さすがにそれはないやろ!」と笑い飛ばすものであった。俺自身確信があって聞いたわけではないのでその反応に「やっぱそうですよね」と笑って返した。
笑っていたら修行場に到着する。ほどなく北御門が走って追いつく。その肩には何本かの刀袋をかけていた。
「さて道具も届いたことやし、やろか」
その掛け声で樹神さんは刀袋から一本取り出し、俺に手渡す。
「抜いて、適当に心込めてみ。壊しても構へんから全力でな」
鞘から刀の抜いた。刃が丸く潰してある刀であった。模造刀だろうか。だが刃は鋼鉄であり、頑丈そうに見える。これが壊れるというのが想像つかなかった。コンクリートにでも思い切り叩きつけてようやく刀身が歪む、そのぐらいには頑丈そうであった。
目の前に刀を構える。
授業で剣道をやった時に覚えた中段の構えだ。
木刀よりも手に掛かる負荷が大きい。ズシリと感じるそれは、ちゃんと力を入れ、姿勢を正さなければ前のめりになってしまいそうだった。電脳世界ならば片手で自由自在に扱えるというのに、現実との落差に悲しくなってしまう。この世には身体を鍛え、電脳世界の動きを現実でも再現しようとする猛者が一定数いるらしいが、モヤシ野郎には縁のない話である。
雑念を振り払い、刀に意識を集中させる。
ゲーム内で行ったときと同じように魂を、心を、刀に込めていく。
妹を神にするという誓いを。
ケイオスに対する怒りを。
アンジェラの無念を晴らすという覚悟を。
刀の周囲がほのかに発光し始める。それは段々と光量を増し、強く鋭い光に変化していく。
まだいける。
こんなものではない。
俺の魂はまだ足りないと叫んでいた。
――力が抜けた。
立ち相撲で勢いよく出した腕が相手を捉えられずにそのまま倒れてしまうような、力の行き場が失った感覚に陥った。
刀身から急速に光が失われていく。露わになった刃はひび割れ、そして砕け散った。
行き場を失った俺の魂が、足元から広がる。
それは影のようなナニカとして広がっていく。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない
紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。
世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。
ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。
エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。
冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜
古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。
かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。
その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。
ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。
BLoveさんに先行書き溜め。
なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる