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6章 一転

マイカP

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 この隠れ里にはとある公的機関がある。とはいっても公開されていない組織ゆえ、いわゆる秘密組織だと西野さんは得意げに言った。自分も別の組織ではあるが秘密組織の一員なのだと鼻を高くしながら。

 工藤さんを保護しているのはその隠れ里に本拠地を置く退魔組織らしい。相手がアンジェラの力を取り込んだ半神ゆえ通常の警護体制では守り切れないとの判断でこの里に連れてきたそうだ。

 堂島さんが迎えにいき、しばらくすると工藤さんが部屋にやってきた。

 工藤さんもどこかの旅館に泊まっていたのか浴衣の出で立ちであった。

「あーっ! 総司さんだ!」

 工藤さんが俺を見るなり指差してくる。その驚きようは事前に何も聞かされていないものであった。

「工藤さん、元気そうでよかったよ」

 そう挨拶したのだが、工藤さんはむっとした表情で近寄ってくる。

「元気そうでよかったじゃないよぉ! こっちはずっと気が気でなかったんだからね! ブルースフィアの生放送! 討伐作戦! 今朝の生放送なんて殺されかけてるのにのほほんとしてたし!」

「すみません。それどころじゃなかったんで」

「保護されて事情聞かされたからわかるよ。けど心配したんだからね!」

 感情優先で叱られてしまい困惑する。これではどんな言い訳を並べても心配したのだからと無敵の鉾で論破されてしまう。けれど、それが心地よく思えてしまった。もしこれが記憶喪失以前の性格を連なっているとしたら、少しばかり桜庭の気持ちがわかってしまう。

「そこに舞香もいますよ」

 そう言って説教から逃れる。このままだと変な性癖に目覚めそうであった。断じて、そういう性癖だと自覚してしまいそうになったからではない。その二つは似ているようで違うのだ。全くもって違うのだ。

「マイカさん、色々聞きましたよ。わたしより大変な状態だったなんて知らずに、あの時は会いたいなんてワガママ言ってごめんなさい」

 はわわ、なんて擬音が聞こえてきそうな慌て具合で頭を下げる工藤さん。

 妹は「いいよいいよ」なんて手を振って応じる。

「レイちゃんは私の大事なファンだからね。ファンサービスのためならえんやこらだよ」

「そういっていただけると助かります」

 二人の会話に花が咲く。妹の事情が伝わったことで二人の間に隠し事はなくなった。アイドルとファンという関係は変わりないが、それでも対等の友人として新たに関係を築くことはできるだろう。

 ただしばらくすると花が咲き乱れ、二人が話す空間が非常に姦しいものとなる。そこに樹神さんが混ざったものだから花畑が出来上がる。西野さんも悪ノリで入っていったものだからもはや花園となり、止められる人はいなくなった。

 野郎どもは部屋の隅で、この突発的に始まった女子会がいつ終わるのか待つ羽目になる。

 堂島さんが早々に席を立ち、行き場もなければ話題もない俺と北御門が女子会の話題に聞き耳を立てて早十五分。

 きっかけの発言は突然だった。

 工藤さんが言った。

「わたしができることだったらなんでもしますから言ってください」

 その発言に妹の目が妖しく光る。

「今なんでもって言った?」

「え、うん。できることならするけど……?」

 きっと身体があったら工藤さんの両肩を掴んで離さないような不敵な笑みを浮かべる妹。

「んじゃアイドルやろうか」

 工藤さんは驚きで一歩二歩後退りし、言葉に詰まっていた。

 その表情は混乱の極みであったのは言うまでもない。
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