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6章 一転
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妹は尋ねた。
「そもそもあの精霊の子ってなんで殺されたの?」
西野さんが答える。
「神に至るためですね」
妹は続けて問う。
「そもそも神ってなんなの?」
「では今回の事例と合わせて説明させていただきますね」
何かの権能を司る概念的存在。それが神だという。
一つの概念につき、一柱。それが基本。各神話に存在する太陽神のようなものは例外。人類史が生まれる前よりも長い年月。それこそ最低数万、億単位すらあるかもしれない年月をかけて概念を共有する神が増えていった。
今回の事例でいえば、電脳世界を司る神に至るための権利が生まれ、誰かがその神の座に収まるはずであった。そして、人類史的には最後の神になる可能性があった。
そもそもの予定ではアンジェラが神になる予定だった。天上へと去った神々、地上に残った少ない神々、それぞれに根回しは済んでいた。あとはアンジェラが神格を得るために必要な環境作りを各国の宗教関係者がサポートする予定であったという。
それが去年の夏までの予定であった。
計画に狂いが出たのは去年の冬。
電脳世界を司る神に至るための権利が二分された。
半分はアンジェラが握り、もう半分は妹が抱えることになった。
何故妹が半分を妹が抱える羽目になったのか。その理由は未だ不明であるとのこと。
だが死んだ理由は想像がつくという。
人が神に至るには厳しい修行や信仰の対象になる、超常的存在に見初められるなどがある。前者二つは超人に足を踏み入れるという工程が必要となり、後者は人ならざるものに変化するという。
それらは一介の女子高生では抱えきれないものである。
ゆえに妹は本能で抱えきれるように肉体と記憶を手放したのではないか。
それは権利に見初められてしまったといえるらしい。権利自体が誰かを選別することはないゆえ誰かに押し付けられたのではないかということだった。
では誰が押し付けたか。
おそらく禁忌を犯し、アンジェラを殺した奴だろうと推察された。桜庭が最初にエネミーと妹のアバターを見たという光景は押し付けた時のことを指していると予想できた。
この事件を機に、アンジェラは単独行動を開始することになる。
西野さん曰く、誰が敵かわからない状況ゆえ動きを悟られたくなかったかもしれないとのことだ。
「そこらへんは三刀さんの方が詳しいのかもしれませんね」
そう言われて思い返す。
アンジェラは俺を神使――騎士にする時に「あたしの邪魔をする存在たちよ」と言った。それは誰かを牽制するためのものであった。アンジェラはたしかに誰かを敵視していた。
「アンジェラは精霊を敵視していました」
ブルースフィアで多くの精霊に襲われた。返り討ちにしたが、それも奴の計画通りだったのだろう。奴は返り討ちに遭った精霊たちを取り込んだ。もしかすると相打ちになったアンジェラも取り込む予定だったのかもしれない。
その後、アンジェラと妹は初めて会うことになる。
「アンジェラは力のコントロールをすべきだと言っていました。また、妹は信仰を集めるためのアイドル活動を続けろとも」
「なるほど……ではそれらは私どもでフォローさせていただきます。ほかに何か仰っていましたか?」
「……これはどうしようかレベルで止まっていた話なのですが、誰かとユニットを組めた方がいいかもという議題はありました」
西野さんは困ったように唸る。
「こちらでは準備は難しいかもですね。公安の方でなんとかなりませんか? 一日署長とかあるでしょ?」
「管轄外だ。一応掛け合ってみるが、裏事情はともかく、金銭面や拘束時間とかの条件面で難しいかもしれないな」
妹の相方探しは一旦置いといて話は討伐作戦での桜庭の裏切りに移る。
「桜庭さんはアンジェラさんを返り討ちにした大会後から主に宮内庁の方から接触をし、どの程度情報を得ているか探りを入れていました。行方が知れなかった半神の片割れとともにいたことが判明し、重要参考人としてマークしていました」
西野さんたち、宮内庁は桜庭をマークしていた。公安もそれに協力していたらしい。調査の結果、桜庭が妹とともにいたことは偶然だと結論づけた。マークがついたのと同時期に天樹会から俺へのアプローチもかけていた。天樹会に派遣されている北御門がたまたま学友だったため白羽の矢が立ったからだという。
半神の兄と友人。アンジェラに記憶を奪われた幼馴染がいる。宮内庁と公安が掴んだ情報はその二つ。
桜庭が隠していた情報は、妹が殺された現場に居合わせたこと、探りを入れていたことに気付いていたこと、俺が天樹会とつるんでいたことに気付いていたことの三つ。
大会の日、桜庭は俺にこう言った。「アイツは言った。麗子の記憶を奪ったのは今現れた黒いやつだと」と。
それらを加味すると桜庭の裏切りには奴が関与しているのは間違いなかった。
俺がブルースフィアで奴との戦闘後、数日間のうちに接触があったのだろう。もしかするともっと前かもしれない。
そうなると点と点が繋がりそうで繋がらない出来事が多い。偶然の要素が多い。どこからどこまでが奴の計画通りなのか。どこまで計画していたのか。いや、そもそも計画なんてあったのか。
俺は口にする。
「奴はどこまで計算してこの状況を作り上げたんだ?」
「そもそもあの精霊の子ってなんで殺されたの?」
西野さんが答える。
「神に至るためですね」
妹は続けて問う。
「そもそも神ってなんなの?」
「では今回の事例と合わせて説明させていただきますね」
何かの権能を司る概念的存在。それが神だという。
一つの概念につき、一柱。それが基本。各神話に存在する太陽神のようなものは例外。人類史が生まれる前よりも長い年月。それこそ最低数万、億単位すらあるかもしれない年月をかけて概念を共有する神が増えていった。
今回の事例でいえば、電脳世界を司る神に至るための権利が生まれ、誰かがその神の座に収まるはずであった。そして、人類史的には最後の神になる可能性があった。
そもそもの予定ではアンジェラが神になる予定だった。天上へと去った神々、地上に残った少ない神々、それぞれに根回しは済んでいた。あとはアンジェラが神格を得るために必要な環境作りを各国の宗教関係者がサポートする予定であったという。
それが去年の夏までの予定であった。
計画に狂いが出たのは去年の冬。
電脳世界を司る神に至るための権利が二分された。
半分はアンジェラが握り、もう半分は妹が抱えることになった。
何故妹が半分を妹が抱える羽目になったのか。その理由は未だ不明であるとのこと。
だが死んだ理由は想像がつくという。
人が神に至るには厳しい修行や信仰の対象になる、超常的存在に見初められるなどがある。前者二つは超人に足を踏み入れるという工程が必要となり、後者は人ならざるものに変化するという。
それらは一介の女子高生では抱えきれないものである。
ゆえに妹は本能で抱えきれるように肉体と記憶を手放したのではないか。
それは権利に見初められてしまったといえるらしい。権利自体が誰かを選別することはないゆえ誰かに押し付けられたのではないかということだった。
では誰が押し付けたか。
おそらく禁忌を犯し、アンジェラを殺した奴だろうと推察された。桜庭が最初にエネミーと妹のアバターを見たという光景は押し付けた時のことを指していると予想できた。
この事件を機に、アンジェラは単独行動を開始することになる。
西野さん曰く、誰が敵かわからない状況ゆえ動きを悟られたくなかったかもしれないとのことだ。
「そこらへんは三刀さんの方が詳しいのかもしれませんね」
そう言われて思い返す。
アンジェラは俺を神使――騎士にする時に「あたしの邪魔をする存在たちよ」と言った。それは誰かを牽制するためのものであった。アンジェラはたしかに誰かを敵視していた。
「アンジェラは精霊を敵視していました」
ブルースフィアで多くの精霊に襲われた。返り討ちにしたが、それも奴の計画通りだったのだろう。奴は返り討ちに遭った精霊たちを取り込んだ。もしかすると相打ちになったアンジェラも取り込む予定だったのかもしれない。
その後、アンジェラと妹は初めて会うことになる。
「アンジェラは力のコントロールをすべきだと言っていました。また、妹は信仰を集めるためのアイドル活動を続けろとも」
「なるほど……ではそれらは私どもでフォローさせていただきます。ほかに何か仰っていましたか?」
「……これはどうしようかレベルで止まっていた話なのですが、誰かとユニットを組めた方がいいかもという議題はありました」
西野さんは困ったように唸る。
「こちらでは準備は難しいかもですね。公安の方でなんとかなりませんか? 一日署長とかあるでしょ?」
「管轄外だ。一応掛け合ってみるが、裏事情はともかく、金銭面や拘束時間とかの条件面で難しいかもしれないな」
妹の相方探しは一旦置いといて話は討伐作戦での桜庭の裏切りに移る。
「桜庭さんはアンジェラさんを返り討ちにした大会後から主に宮内庁の方から接触をし、どの程度情報を得ているか探りを入れていました。行方が知れなかった半神の片割れとともにいたことが判明し、重要参考人としてマークしていました」
西野さんたち、宮内庁は桜庭をマークしていた。公安もそれに協力していたらしい。調査の結果、桜庭が妹とともにいたことは偶然だと結論づけた。マークがついたのと同時期に天樹会から俺へのアプローチもかけていた。天樹会に派遣されている北御門がたまたま学友だったため白羽の矢が立ったからだという。
半神の兄と友人。アンジェラに記憶を奪われた幼馴染がいる。宮内庁と公安が掴んだ情報はその二つ。
桜庭が隠していた情報は、妹が殺された現場に居合わせたこと、探りを入れていたことに気付いていたこと、俺が天樹会とつるんでいたことに気付いていたことの三つ。
大会の日、桜庭は俺にこう言った。「アイツは言った。麗子の記憶を奪ったのは今現れた黒いやつだと」と。
それらを加味すると桜庭の裏切りには奴が関与しているのは間違いなかった。
俺がブルースフィアで奴との戦闘後、数日間のうちに接触があったのだろう。もしかするともっと前かもしれない。
そうなると点と点が繋がりそうで繋がらない出来事が多い。偶然の要素が多い。どこからどこまでが奴の計画通りなのか。どこまで計画していたのか。いや、そもそも計画なんてあったのか。
俺は口にする。
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