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6章 一転
物分かりが良すぎてついていけない
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夕食は樹神さんがこちらの部屋にやってきて同席した。当然とばかりに北御門も同席する。堂島さんと西野さんは食事後に来るらしい。西野さん曰く、なんでも「この旅館は一職員が出張扱いで使うには高すぎて泊まれません」ということらしい。別の安い宿を取り、食事は外のどこかで適当に済ますらしい。
待望の夕食は豪華であった。
一人用の牛肉の鍋、川魚の姿焼き、天ぷらに各種小鉢類。これぞ旅館という食事であった。縦の成長期が終わり、これから横の成長期が始めるであろう俺は、特に川魚の姿焼きが気に入った。脂っこさのない淡泊な味わいと塩味、ふわっとしていながらしっとりとした食感がハマってしまった。
俺が無言で食べ続ける姿を見た妹がつまらなそうな顔をする。
「いいなぁ。私も食べたかったー」
「しょうがないだろ。我慢しろ」
「我慢はするけど不満は溜まる一方なんだけどー」
俺らの会話に樹神さんがおかしそうに笑って入ってくる。
「妹ちゃんが受肉できたらまた連れてくるから堪忍な」
「約束したかんねー!」
こんな会話を繰り広げて夕食を終えた。
頃合いを見計らったように堂島さんと西野さんが部屋にやってくる。
それぞれ部屋の適当な位置に腰掛け、雑談はほどほどに、保留されていた話題に移っていく。
「単刀直入に言うけど、三刀はんには世界を救う勇者になって欲しいんや」
樹神さんがそう切り出した。
「……今絶賛世界の敵になっている俺には無理じゃないですか?」
消音されて点けっぱなしだったテレビの画面には、俺が悪いのだという論調のニュース特番が流れていた。リモコンでそれを消した西野さんが間に入る。
「評判周りは宮内庁の威信にかけてどうにかしますね。ただ、世界を救う勇者になって欲しいというのはまさにその通りでして、今現在電脳でエネミーに対抗する術を持っているのは二人しかいないのです」
一人は俺、もう一人は桜庭。
「今の社会は電脳抜きでは存続できないものになっています。エネミーがそれを支配するということは社会基盤が支配されるのと同義です。万全のフォローは約束します。妹さんが神様になれるよう協力は惜しみません。どうか我々に力を貸してください」
頭を下げる西野さんと堂島さん。
温泉に料理を楽しませたあとに頼み事をするのは狡さを覚えるが、もとより接待だと予想はしていたゆえ不平不満は感じなかった。一介の大学生如きがタダでしていい贅沢ではないのだから。
「舞香、お前は神様になる気はあるのか?」
妹に尋ねる。
「んーそもそも神様ってなんなのかよくわかんないし。にーちゃんに任せる」
「お前のことだぞ」
「そんなこと仰いましてもー。私こんな身体になってるけど、神様とか精霊とか妖怪とか世界の危機とかと無縁だった個人勢ネットアイドルだし。第一! 記憶喪失前は多分おバカな女子高生だった人間にそんな大事なこと言われても困るから!」
妹の発言はその場にいた人全員が配慮に欠けていたことを痛感する。
まだまだ子供なのだ。本来なら親に甘えて生きている年齢。幼い頃から努力を積み重ねてきた経験もなければ、競い合い何かを勝ち取る経験もない。ネットアイドルなんて特殊なことを始めているが、それも趣味の延長戦上でしかない。
「てかさ! 精霊の子死んじゃったんだよ! なんで皆そんな淡々としてんの!?」
堂島さんが頭を下げる。
「……すまない。配慮に欠けていた。兄が理性的な方だったゆえ、妹の方もそういう方だとばかり考えていた」
西野さんがそれに続く形で口を開く。
「説明を兼ねて一度情報を整理しましょうか」
待望の夕食は豪華であった。
一人用の牛肉の鍋、川魚の姿焼き、天ぷらに各種小鉢類。これぞ旅館という食事であった。縦の成長期が終わり、これから横の成長期が始めるであろう俺は、特に川魚の姿焼きが気に入った。脂っこさのない淡泊な味わいと塩味、ふわっとしていながらしっとりとした食感がハマってしまった。
俺が無言で食べ続ける姿を見た妹がつまらなそうな顔をする。
「いいなぁ。私も食べたかったー」
「しょうがないだろ。我慢しろ」
「我慢はするけど不満は溜まる一方なんだけどー」
俺らの会話に樹神さんがおかしそうに笑って入ってくる。
「妹ちゃんが受肉できたらまた連れてくるから堪忍な」
「約束したかんねー!」
こんな会話を繰り広げて夕食を終えた。
頃合いを見計らったように堂島さんと西野さんが部屋にやってくる。
それぞれ部屋の適当な位置に腰掛け、雑談はほどほどに、保留されていた話題に移っていく。
「単刀直入に言うけど、三刀はんには世界を救う勇者になって欲しいんや」
樹神さんがそう切り出した。
「……今絶賛世界の敵になっている俺には無理じゃないですか?」
消音されて点けっぱなしだったテレビの画面には、俺が悪いのだという論調のニュース特番が流れていた。リモコンでそれを消した西野さんが間に入る。
「評判周りは宮内庁の威信にかけてどうにかしますね。ただ、世界を救う勇者になって欲しいというのはまさにその通りでして、今現在電脳でエネミーに対抗する術を持っているのは二人しかいないのです」
一人は俺、もう一人は桜庭。
「今の社会は電脳抜きでは存続できないものになっています。エネミーがそれを支配するということは社会基盤が支配されるのと同義です。万全のフォローは約束します。妹さんが神様になれるよう協力は惜しみません。どうか我々に力を貸してください」
頭を下げる西野さんと堂島さん。
温泉に料理を楽しませたあとに頼み事をするのは狡さを覚えるが、もとより接待だと予想はしていたゆえ不平不満は感じなかった。一介の大学生如きがタダでしていい贅沢ではないのだから。
「舞香、お前は神様になる気はあるのか?」
妹に尋ねる。
「んーそもそも神様ってなんなのかよくわかんないし。にーちゃんに任せる」
「お前のことだぞ」
「そんなこと仰いましてもー。私こんな身体になってるけど、神様とか精霊とか妖怪とか世界の危機とかと無縁だった個人勢ネットアイドルだし。第一! 記憶喪失前は多分おバカな女子高生だった人間にそんな大事なこと言われても困るから!」
妹の発言はその場にいた人全員が配慮に欠けていたことを痛感する。
まだまだ子供なのだ。本来なら親に甘えて生きている年齢。幼い頃から努力を積み重ねてきた経験もなければ、競い合い何かを勝ち取る経験もない。ネットアイドルなんて特殊なことを始めているが、それも趣味の延長戦上でしかない。
「てかさ! 精霊の子死んじゃったんだよ! なんで皆そんな淡々としてんの!?」
堂島さんが頭を下げる。
「……すまない。配慮に欠けていた。兄が理性的な方だったゆえ、妹の方もそういう方だとばかり考えていた」
西野さんがそれに続く形で口を開く。
「説明を兼ねて一度情報を整理しましょうか」
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