妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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6章 一転

だって三大欲求だもの

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 街並みには統一感があった。黒い瓦屋根、白い漆喰で塗られた壁。木造建築のそれらはバルコニーがつけられ、当時としてはモダンとして親しまれたのだろう。長く時間が経過した現代においては、郷愁を誘い、温かな気持ちを抱くことができた。道の途中にはガス灯が等間隔で並び、夜にはオレンジ色の明かりで街を暖色で包み込むのだろう。それはきっと美しい光景に違いない。

 街行く人たちは観光客のようにラフな格好をした人もいれば、浴衣姿の人もいた。みな、お土産屋を見たり、店先で食事したり、温泉街を満喫しているようだった。ただ、一つ気になる点があるとするならば、動物らしき耳があったり、尻尾が生えていたり、そもそも人間の体躯では考えられないぐらいに大きな者もいた。

 ここはきっと超高度なコスプレイヤーが集う観光地なのだろう。

 そう自分に言い聞かせて、思考を停止させる。

「ここで一旦降ろします。自分は車を置いてくるので先に宿へ向かっていてください」

 堂島さんが車を停めてそう言った。

 俺と樹神さん、どうにか歩けるぐらいに回復した西野さんが車から降りる。

 俺らの目の前には巨大な朱色の橋があった。

 それを渡ると、街並みと似た雰囲気の木造建築の旅館があった。ただ、縦にも横にも巨大であった。まるでこの街一番の旅館だと圧をかけられていると錯覚するぐらいにノスタルジックな情緒と厳めしさが同居していた。

「久しぶりに来たわぁー」

 樹神さんがこなれた様子で旅館の入り口に入っていき、西野さんがフラフラとそれに続く。俺もあとを追う。携帯のカメラで外を覗く妹が「あー写真撮りたいー!」と騒がしく提案したので「あとで撮ろうな」と消極的な同意で返した。正直なところ、俺自身も写真を撮りたい欲を抑えていた。

 暖色で落ち着いた雰囲気の旅館に入ると、出迎えたのは女将さんではなく、モデルくんであった。

「会長、西野さんに、三刀さんもお疲れ様です。部屋は準備してあるので行きましょう」

 正直、女将さんや従業員の方に説明されながら部屋に案内されてみたい感があったので、これには少しばかり萎えてしまった。いや、チェックインなどせずに部屋に向かえるのは、それはそれで贅沢なのだろうが。

 北御門の案内で部屋に向かう。

 案内された部屋は凄いの一言に尽きた。

 妹の言葉を借りるならば「えぐい」である。

 我が安アパートの部屋が丸々五部屋入れても余裕のありそうな広さ。木のぬくもりをこれでも感じるかというぐらいの木造仕様。家具に至っては素人でも分かるぐらい、質が違った。部屋には温泉露天風呂がついているにも関わらず、部屋の中にはまた違う大きな浴槽が備え付けられていた。

 一生に一度くらいはこんなところに泊まってみたい。

 それを叶える部屋であった。

「神様が泊まる部屋って凄いな」

 一介の大学生が泊まるような部屋ではない。

 ならば神様が泊まる部屋なのだろうと結論付けた出た言葉であった。

 そんな願望に似た何かは北御門の笑い声とともに一蹴される。

「やだなー三刀さんが泊まる部屋に決まってるじゃないか。これから世界を救ってもらうんだから当たり前でしょー」

 再び聞く訳の分からない要望に乗せて一蹴される。

 わけわからないといった顔をしていたのだろう。北御門は意思疎通が上手くいっていないと察すると樹神さんに尋ねる。

「まだ話してなかったりしますか?」

「マスコミに追いかけ回されたり、この子がゲボ吐いたりで騒がしかったからなぁ」

 北御門が腕を組み、目を瞑る。

 少しして、こう言った。

「夕食食べてからにしようか」

 世界の危機とは食事よりも後回しにしていいことなのだろうか。

 そう思いつつ、この旅館の食事に期待している俺もいた。
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