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6章 一転
ゲロインは唐突に
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俺らを乗せた車は街を抜け、郊外を抜け、峠へと進んでいく。
その間、マスコミの車はぴったりと後ろについたままだ。このまま俺らが向かう場所までついて来るつもりなのだろう。
「そろそろやんな?」
樹神さんがそう言うと辺りに霧が出始めた。それは濃く、少し先も見通せないほどであった。車はスピードを落とし、安全運転で進んでいく。後ろについたマスコミの車も同様だ。
堂島さんが樹神さんの問いに答える。
「ええ、そろそろですね。人によっては不快感を覚える方もおりますのでもしそうなったら教えてください」
この濃霧に紛れてマスコミの車を振り切るつもりなのだろうか。まさか濃霧の中で峠を攻めるのだろうか。いやいや警察関係者がそんな道交法を破るわけがないだろう。そうは思いつつ、この時代に自動運転機能を使用していないことから払拭できずに一人恐怖していた。
そんなことを考えているうちに濃霧はさらに濃くなる。少し先どころか全く何も見えない状況に陥る。その中をノロノロとした速さで進んでいく。
「よく道がわかりますね?」
堂島さんに尋ねた。
「この先はしばらく一本道が続くから一度来たことさえあれば問題ないんだよ」
ふうん、と何も見えない外を眺めていると堂島さんに尋ねられる。
「なんともありませんか? 体調悪くなったりしていませんか?」
車酔いもしていないし、ノロノロ安全運転で身体に負荷がかかることもない。何か不快になる要員があるのだろうか。
「なんともなさそうなのは流石ですね。英雄様は違うなぁ」
ハハハと笑う堂島さん。まさか公安の人に英雄様呼ばわりされるとは思わず苦笑いしかできなかった。
そんな俺の代わりに樹神さんが応じるように笑う。
「せやろ。あーうちが先に見つけとったら絶対部下にしてたし!」
堂島さんは苦笑する。
「そこは後輩の男の趣味が良かったって譲りましょうよ」
話が見えなかった。
「すみません、どういうことでしょうか?」
俺の問いに樹神さんが「見てみい」と助手席を指差す。
助手席の西野さんに目を遣ると、西野さんは真っ青な顔をして、背中を丸め、口元はエチケット袋にインしていた。幸い、まだ嘔吐まで至っていないが、嗚咽が何度か聞こえてしまうあたり、もはや猶予は残されていないように見える。
「かーっ、宮内庁職員が情けないわぁ」
呆れた顔の樹神さん。
それに西野さんが涙目でこちらを向く。
「……あた……しは、単なる事務員で武闘派……と一緒にしないでください……」
必死の反論。悲しきかな、それが防波堤決壊の切っ掛けになってしまった。
溢れ出るゲロ。止まらないゲロ。断続的に続く嗚咽。充満する酸っぱい臭い。
気まずい車内。
堂島さんは窓を開けた。
「あと少しで結界抜けたのにな」
車内の空気が入れ替わりつつ進む車。
だんだんと視界が晴れ渡っていき、一分もしないうちに霧が晴れる。
空は青く澄み切っていた。
後ろにいたマスコミの車は一台もない。
新緑に囲まれた道路の先に何かが見えてくる。
大正ロマン溢れる温泉街であった。
その間、マスコミの車はぴったりと後ろについたままだ。このまま俺らが向かう場所までついて来るつもりなのだろう。
「そろそろやんな?」
樹神さんがそう言うと辺りに霧が出始めた。それは濃く、少し先も見通せないほどであった。車はスピードを落とし、安全運転で進んでいく。後ろについたマスコミの車も同様だ。
堂島さんが樹神さんの問いに答える。
「ええ、そろそろですね。人によっては不快感を覚える方もおりますのでもしそうなったら教えてください」
この濃霧に紛れてマスコミの車を振り切るつもりなのだろうか。まさか濃霧の中で峠を攻めるのだろうか。いやいや警察関係者がそんな道交法を破るわけがないだろう。そうは思いつつ、この時代に自動運転機能を使用していないことから払拭できずに一人恐怖していた。
そんなことを考えているうちに濃霧はさらに濃くなる。少し先どころか全く何も見えない状況に陥る。その中をノロノロとした速さで進んでいく。
「よく道がわかりますね?」
堂島さんに尋ねた。
「この先はしばらく一本道が続くから一度来たことさえあれば問題ないんだよ」
ふうん、と何も見えない外を眺めていると堂島さんに尋ねられる。
「なんともありませんか? 体調悪くなったりしていませんか?」
車酔いもしていないし、ノロノロ安全運転で身体に負荷がかかることもない。何か不快になる要員があるのだろうか。
「なんともなさそうなのは流石ですね。英雄様は違うなぁ」
ハハハと笑う堂島さん。まさか公安の人に英雄様呼ばわりされるとは思わず苦笑いしかできなかった。
そんな俺の代わりに樹神さんが応じるように笑う。
「せやろ。あーうちが先に見つけとったら絶対部下にしてたし!」
堂島さんは苦笑する。
「そこは後輩の男の趣味が良かったって譲りましょうよ」
話が見えなかった。
「すみません、どういうことでしょうか?」
俺の問いに樹神さんが「見てみい」と助手席を指差す。
助手席の西野さんに目を遣ると、西野さんは真っ青な顔をして、背中を丸め、口元はエチケット袋にインしていた。幸い、まだ嘔吐まで至っていないが、嗚咽が何度か聞こえてしまうあたり、もはや猶予は残されていないように見える。
「かーっ、宮内庁職員が情けないわぁ」
呆れた顔の樹神さん。
それに西野さんが涙目でこちらを向く。
「……あた……しは、単なる事務員で武闘派……と一緒にしないでください……」
必死の反論。悲しきかな、それが防波堤決壊の切っ掛けになってしまった。
溢れ出るゲロ。止まらないゲロ。断続的に続く嗚咽。充満する酸っぱい臭い。
気まずい車内。
堂島さんは窓を開けた。
「あと少しで結界抜けたのにな」
車内の空気が入れ替わりつつ進む車。
だんだんと視界が晴れ渡っていき、一分もしないうちに霧が晴れる。
空は青く澄み切っていた。
後ろにいたマスコミの車は一台もない。
新緑に囲まれた道路の先に何かが見えてくる。
大正ロマン溢れる温泉街であった。
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