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6章 一転
セカイ系主人公は唐突に
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樹神さんに誘われて車の前に立つ。
黒塗りの高級車。総理大臣や外国の要人が乗るようなエレガントかつゴツイ見た目の車であった。神様が乗る車というのはやはりこれぐらいの警護体制でなければいけないのだろう。
樹神さんに続けて車の後部座席に乗り込む。
運転席、助手席には既に人がいて、それぞれ振り返る。
運転席の男性は、日頃から気苦労が絶えないからか眉間に深いシワが刻まれた痩せ型であった。
「前から失礼。公安の堂島だ」
助手席の方は女性であった。狐を思わせる細い目が特徴的であった。
「同じく前から失礼します。宮内庁特務機関所属、西野です。よろしくね」
二人ともできる人という雰囲気が佇まいから伝わる。おそらく一流大学を出て、エリート街道を歩んできた人間なのだろう。そんな二人が、樹神さんはともかく、三流大学の落ちこぼれを送迎するなんて思ってもみなかっただろう。俺自身申し訳なく思う。
挨拶をする二人に樹神さんは笑って応える。
「公安に特務機関って、まるで漫画の世界に来たみたいやな」
堂島さんは前を向き、車を発進させる。
「私だって昔は神様なんて漫画の世界にしかいないと思っていましたよ」
マスコミたちも慌てた様子で車に乗り込み、俺達が乗る車を追いかける。
それを見た西野さんは呆れた顔をする。
「この送迎車見たら少しは遠慮するかと思ったら報道加熱してそう。この車の意味を知らないわけでもないだろうに」
神様が乗る車という意味がマスコミに伝わるのだろうか。
そんな疑問に気付いたのか西野さんは続ける。
「ああ、この車は要人警護にも使われている車ってこと。例えば総理大臣とかね。それだけ格式も防弾性能もお高めなの。ちなみに渦中の三刀くんはこの事態をどう思ってる?」
この問いにはどう答えるべきなのだろうか。単なる会話のきっかけか、それとも嫌味を含ませた問いか、どちらなのだろうか。
俺が答える前に樹神さんは俺の肩に手を置き、肩を竦ませる。
「そない身構えなくてもええよ。この騒動の対応に職員出したっていう口実作りで派遣されただけやから」
堂島さんは苦笑する。
「身も蓋もないが、その通りだな。三刀さんも俺らのことは置物だと思ってくれていいぞ」
西野さんもため息を吐く。
「樹神さんも樹神さんですよ。普段は宮内庁に顔出してくれないのにこういう時だけ呼び出すなんて」
「悪い悪い! やっぱこういう時に役に立つのは公権力やからな!」
どうやら樹神さんの味方であり、俺への隔意はないらしい。
樹神さんは親指を立てた。
「ま、そういうわけやから思ってることなんでも言ってええよ」
そう言われても困る。
いや、一つ言わなければならないことがあった。
「皆さん、お忙しいところ、わざわざ助けて下さりありがとうございました」
堂島さんは「こっちも仕事だから気にするな」と口角を上げる。
西野さんは「むしろ君を助けないと日本が、てか世界が危ないからなー」と軽い口調で聞き捨てならないことを言う。
「どういうことですか?」
俺の問いに西野さんは「あ、まだ言っちゃ駄目なやつでした?」と苦笑いを浮かべる。
樹神さんは呆れ、頭を片手で支える。
「妹ちゃんは連れてきてはるやろ?」
そう問われ、俺は樹神さんに妹が入った携帯の画面を見せる。
妹はここで何故自分の名前が出るのかわからず混乱しているようだった。
「うん、いるならかまへん。ただこない落ち着かん場所で言うような話でもあらへんし、落ち着ける場所に着いたら説明するわ」
樹神さんはそう言って周囲を囲むマスコミの車に目を遣った。
堂島さんは「では手筈通りに」と自動運転からマニュアル操作に切り替えた。
旅行と言っていたが俺は今からどこに連れていかれるのだろう。
今更そんな疑問が頭に浮かんだ。
黒塗りの高級車。総理大臣や外国の要人が乗るようなエレガントかつゴツイ見た目の車であった。神様が乗る車というのはやはりこれぐらいの警護体制でなければいけないのだろう。
樹神さんに続けて車の後部座席に乗り込む。
運転席、助手席には既に人がいて、それぞれ振り返る。
運転席の男性は、日頃から気苦労が絶えないからか眉間に深いシワが刻まれた痩せ型であった。
「前から失礼。公安の堂島だ」
助手席の方は女性であった。狐を思わせる細い目が特徴的であった。
「同じく前から失礼します。宮内庁特務機関所属、西野です。よろしくね」
二人ともできる人という雰囲気が佇まいから伝わる。おそらく一流大学を出て、エリート街道を歩んできた人間なのだろう。そんな二人が、樹神さんはともかく、三流大学の落ちこぼれを送迎するなんて思ってもみなかっただろう。俺自身申し訳なく思う。
挨拶をする二人に樹神さんは笑って応える。
「公安に特務機関って、まるで漫画の世界に来たみたいやな」
堂島さんは前を向き、車を発進させる。
「私だって昔は神様なんて漫画の世界にしかいないと思っていましたよ」
マスコミたちも慌てた様子で車に乗り込み、俺達が乗る車を追いかける。
それを見た西野さんは呆れた顔をする。
「この送迎車見たら少しは遠慮するかと思ったら報道加熱してそう。この車の意味を知らないわけでもないだろうに」
神様が乗る車という意味がマスコミに伝わるのだろうか。
そんな疑問に気付いたのか西野さんは続ける。
「ああ、この車は要人警護にも使われている車ってこと。例えば総理大臣とかね。それだけ格式も防弾性能もお高めなの。ちなみに渦中の三刀くんはこの事態をどう思ってる?」
この問いにはどう答えるべきなのだろうか。単なる会話のきっかけか、それとも嫌味を含ませた問いか、どちらなのだろうか。
俺が答える前に樹神さんは俺の肩に手を置き、肩を竦ませる。
「そない身構えなくてもええよ。この騒動の対応に職員出したっていう口実作りで派遣されただけやから」
堂島さんは苦笑する。
「身も蓋もないが、その通りだな。三刀さんも俺らのことは置物だと思ってくれていいぞ」
西野さんもため息を吐く。
「樹神さんも樹神さんですよ。普段は宮内庁に顔出してくれないのにこういう時だけ呼び出すなんて」
「悪い悪い! やっぱこういう時に役に立つのは公権力やからな!」
どうやら樹神さんの味方であり、俺への隔意はないらしい。
樹神さんは親指を立てた。
「ま、そういうわけやから思ってることなんでも言ってええよ」
そう言われても困る。
いや、一つ言わなければならないことがあった。
「皆さん、お忙しいところ、わざわざ助けて下さりありがとうございました」
堂島さんは「こっちも仕事だから気にするな」と口角を上げる。
西野さんは「むしろ君を助けないと日本が、てか世界が危ないからなー」と軽い口調で聞き捨てならないことを言う。
「どういうことですか?」
俺の問いに西野さんは「あ、まだ言っちゃ駄目なやつでした?」と苦笑いを浮かべる。
樹神さんは呆れ、頭を片手で支える。
「妹ちゃんは連れてきてはるやろ?」
そう問われ、俺は樹神さんに妹が入った携帯の画面を見せる。
妹はここで何故自分の名前が出るのかわからず混乱しているようだった。
「うん、いるならかまへん。ただこない落ち着かん場所で言うような話でもあらへんし、落ち着ける場所に着いたら説明するわ」
樹神さんはそう言って周囲を囲むマスコミの車に目を遣った。
堂島さんは「では手筈通りに」と自動運転からマニュアル操作に切り替えた。
旅行と言っていたが俺は今からどこに連れていかれるのだろう。
今更そんな疑問が頭に浮かんだ。
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