98 / 229
6章 一転
世界の敵
しおりを挟む
最悪の目覚めであった。
全身が痺れるように痛む。特に胸の痛みが顕著であった。這いずるように身体を起こす。外は既に明るく、やけにうるさかい。先日よりも酷い目覚めであった。だが先日はあったはずの少女の重みはない。
時計を見ると既に作戦終了予定時刻から大きく過ぎ、翌朝。
気を失っていたのだろう。
アンジェラが俺を庇い、殺されたあの時から。
最悪であった。俺が死ぬよりもあってはならないことであった。
アンジェラが俺を庇うなんて当たり前なことに気付けなかった俺に腹が立つ。何が俺の無事は努力目標に過ぎないだ。何がアンジェラさえ無事ならば俺の意志を継いでくれるだ。アンジェラの足手纏いになった挙句がおめおめと一人だけ帰還を果たしてしまった。
「アンジェラいるなら教えてくれ」
そう一人呟いた。
返事はない。インターホンも鳴らなかった。
――そうだ。作戦は。あのあとはどうなったんだ。
張り裂けそうな胸の痛みに耐えつつ、パソコンの前に移動する。
「舞香、いるか?」
反応がない。
「いないのか?」
「――あー! いるいる!」
デスクトップに妹が現れる。ドタバタと。何やら慌てた様子だった。
「にーちゃん! いつ目覚めたの!?」
「……今さっきだ」
呼吸さえ辛い。
「あの後どうなったんだ?」
「それも大事だけど今はそんな場合じゃなんだって!」
「どういうことだ?」
「テレビ見て!」
妹に言われてテレビを点ける。ニュース番組は何やら特番が流れているようだった。そして、リポーターが沢山のカメラマンや他社マスメディアの前で何やら話していていた。その背後に映るのは見覚えのある安アパートの扉。俺の家の前であった。
リポーターは話す。
「ただいま裏切ったとされる三刀容疑者の自宅前に来ております。かの人物は学生であり、こちらのアパートに住んでいるようです。中から何やら話し声がありました。もぬけの殻かと思われましたが、まだ中にいるようです」
昨日の作戦は放送されていた。そこで俺の行動、アンジェラが俺を庇った姿、それらから俺が裏切り者に見えたのだろう。プロゲーマーを倒す行動もしていたから、そう見えても仕方がない。しかし、どうして俺の住所まで割れているのだろうか。
桜庭だ。
俺の住所を知っているのは桜庭のみ。桜庭をそれをマスメディアに流したのだろう。裏切り者の自宅。俺への嫌がらせとしては上等な部類だ。電脳世界でいくらでも外部との接触を図れる現代でこれは嫌がらせ以上の意味を持たない。
だがこれを見た人は思うであろう。
俺が悪なのだと。
電話が鳴った。
父の名が画面に表示される。
着信に応じると矢継ぎ早に言われる。
「これはどういうことなのだ」
「今すぐ自首しろ」
「お前とは親子の縁を切る」
「死んだのが舞香じゃなくてお前だったらよかったにな」
そう言って電話は切れた。
その直後、ことさら外が騒がしくなる。
テレビに目を遣ると、巨大なハンマーを持った中年男性が大声をあげていた。
「お前のせいで俺の息子は寝たきりになったんだ! 許さねえぞ!」
ハンマーが扉に叩きつけられる。
同時に轟音が玄関から響く。
何度も何度も叩きつけ、その度に轟音が響く。
「その息子さん、愛されているようでなによりだな」
妹が「はやく逃げなきゃ!」としきりに言う。
もはやそんな気は起きなかった。
桜庭には怒りはない。同じ立場ならきっと俺もそうしていたから。
父に失望はない。いつかこうなる予感はしていたから。
ただ……少し疲れてしまった。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、一服する。
苦味が強かった。
全身が痺れるように痛む。特に胸の痛みが顕著であった。這いずるように身体を起こす。外は既に明るく、やけにうるさかい。先日よりも酷い目覚めであった。だが先日はあったはずの少女の重みはない。
時計を見ると既に作戦終了予定時刻から大きく過ぎ、翌朝。
気を失っていたのだろう。
アンジェラが俺を庇い、殺されたあの時から。
最悪であった。俺が死ぬよりもあってはならないことであった。
アンジェラが俺を庇うなんて当たり前なことに気付けなかった俺に腹が立つ。何が俺の無事は努力目標に過ぎないだ。何がアンジェラさえ無事ならば俺の意志を継いでくれるだ。アンジェラの足手纏いになった挙句がおめおめと一人だけ帰還を果たしてしまった。
「アンジェラいるなら教えてくれ」
そう一人呟いた。
返事はない。インターホンも鳴らなかった。
――そうだ。作戦は。あのあとはどうなったんだ。
張り裂けそうな胸の痛みに耐えつつ、パソコンの前に移動する。
「舞香、いるか?」
反応がない。
「いないのか?」
「――あー! いるいる!」
デスクトップに妹が現れる。ドタバタと。何やら慌てた様子だった。
「にーちゃん! いつ目覚めたの!?」
「……今さっきだ」
呼吸さえ辛い。
「あの後どうなったんだ?」
「それも大事だけど今はそんな場合じゃなんだって!」
「どういうことだ?」
「テレビ見て!」
妹に言われてテレビを点ける。ニュース番組は何やら特番が流れているようだった。そして、リポーターが沢山のカメラマンや他社マスメディアの前で何やら話していていた。その背後に映るのは見覚えのある安アパートの扉。俺の家の前であった。
リポーターは話す。
「ただいま裏切ったとされる三刀容疑者の自宅前に来ております。かの人物は学生であり、こちらのアパートに住んでいるようです。中から何やら話し声がありました。もぬけの殻かと思われましたが、まだ中にいるようです」
昨日の作戦は放送されていた。そこで俺の行動、アンジェラが俺を庇った姿、それらから俺が裏切り者に見えたのだろう。プロゲーマーを倒す行動もしていたから、そう見えても仕方がない。しかし、どうして俺の住所まで割れているのだろうか。
桜庭だ。
俺の住所を知っているのは桜庭のみ。桜庭をそれをマスメディアに流したのだろう。裏切り者の自宅。俺への嫌がらせとしては上等な部類だ。電脳世界でいくらでも外部との接触を図れる現代でこれは嫌がらせ以上の意味を持たない。
だがこれを見た人は思うであろう。
俺が悪なのだと。
電話が鳴った。
父の名が画面に表示される。
着信に応じると矢継ぎ早に言われる。
「これはどういうことなのだ」
「今すぐ自首しろ」
「お前とは親子の縁を切る」
「死んだのが舞香じゃなくてお前だったらよかったにな」
そう言って電話は切れた。
その直後、ことさら外が騒がしくなる。
テレビに目を遣ると、巨大なハンマーを持った中年男性が大声をあげていた。
「お前のせいで俺の息子は寝たきりになったんだ! 許さねえぞ!」
ハンマーが扉に叩きつけられる。
同時に轟音が玄関から響く。
何度も何度も叩きつけ、その度に轟音が響く。
「その息子さん、愛されているようでなによりだな」
妹が「はやく逃げなきゃ!」としきりに言う。
もはやそんな気は起きなかった。
桜庭には怒りはない。同じ立場ならきっと俺もそうしていたから。
父に失望はない。いつかこうなる予感はしていたから。
ただ……少し疲れてしまった。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、一服する。
苦味が強かった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる