97 / 229
5章 平等な戦い
守るべきもの
しおりを挟む
白のエネミー。あの憎たらしい模倣犯。
アイツが俺を見つけた。
片手に剣を携えて、白磁の身体が迫ってくる。それを阻止すべくアンジェラがその横につく。高速で突き進みながらの攻防。身体をぶつけ、剣をいなし、鉤爪を躱す。我先にと一瞬の隙を探し続けるそれはさながらカーチェイスのようだった。
その先に待つのは動くこともままならない俺。
エネミー同士の戦いにおけるゴールラインは俺だ。
ならばチェッカーフラッグを振る大任を果たそうではないか。
高周波ブレードを上段に構える。
刃に心を乗せる。
先の戦いで消耗しきったそれはもはや攻撃を防ぐほどの量はない。ならばなけなしの力を全て乗せ、一撃に全てを乗せる。それに望みを賭けるしかアンジェラを手助けする道は残されていなかった。
刃に心が集まる。
体に残された心というノイズがなくなる。
静かであった。
心の底にいつもあった影がなくなった。
代わりに感覚が研ぎ澄まされる。
デジタル信号でしかないはずの世界で、身体が世界と繋がる感覚を覚える。
足は大地に根付き、腕は重力から解き放たれたように軽く、目は空にあった。
ただ――切る。
それだけがあった。
目測五十メートル。
エネミー同士のいざこざが続く。
目測四十。
黒が大きく鉤爪を振り下ろす。
目測三十。
白がそれをひらりと躱し、前に出た。
目測二十。
白が横薙ぎの構えを取る。
目測十。
白が薙ぎ払う。
俺は構えた足を一歩引いた。
白が振るった剣先が鼻先を掠める。
そして、高周波ブレードを振り下ろした。
刃が白の肩に振れ、唸り、めり込み、切断した。
背後で白の腕が落ちる音がする。
それに伴い白自身も止まった。
俺は身体に力が入らなくなり、その場で膝をつく。
どうにか首を回し、後ろに目を遣った。
化け物が眼前に迫っていた。目を持たず、獰猛な牙を持った蛇のようなもの。精霊たちを喰らったそれが俺を喰らおうと迫っていた。
それは切断したはずの腕から伸びていた。
――死んだ、な。
そう思った。
――あとはアンジェラが上手くやってくれるはずだ。
そう願った。
目を瞑る。
身体が横からの衝撃を覚える。
身体が衝撃を受けた先へ浮かんだ。
痛みはない。
ビルに身体が打ち付けられる。
ビルが倒壊し、崩れ行く中、見えてしまった。
俺を庇い、喰い千切られ、胴体と下半身が分かれたアンジェラの姿を。
ビルの倒壊に巻き込まれ、残り体力が尽きる。
俺はアンジェラの最期すら見届けられなかった。
アイツが俺を見つけた。
片手に剣を携えて、白磁の身体が迫ってくる。それを阻止すべくアンジェラがその横につく。高速で突き進みながらの攻防。身体をぶつけ、剣をいなし、鉤爪を躱す。我先にと一瞬の隙を探し続けるそれはさながらカーチェイスのようだった。
その先に待つのは動くこともままならない俺。
エネミー同士の戦いにおけるゴールラインは俺だ。
ならばチェッカーフラッグを振る大任を果たそうではないか。
高周波ブレードを上段に構える。
刃に心を乗せる。
先の戦いで消耗しきったそれはもはや攻撃を防ぐほどの量はない。ならばなけなしの力を全て乗せ、一撃に全てを乗せる。それに望みを賭けるしかアンジェラを手助けする道は残されていなかった。
刃に心が集まる。
体に残された心というノイズがなくなる。
静かであった。
心の底にいつもあった影がなくなった。
代わりに感覚が研ぎ澄まされる。
デジタル信号でしかないはずの世界で、身体が世界と繋がる感覚を覚える。
足は大地に根付き、腕は重力から解き放たれたように軽く、目は空にあった。
ただ――切る。
それだけがあった。
目測五十メートル。
エネミー同士のいざこざが続く。
目測四十。
黒が大きく鉤爪を振り下ろす。
目測三十。
白がそれをひらりと躱し、前に出た。
目測二十。
白が横薙ぎの構えを取る。
目測十。
白が薙ぎ払う。
俺は構えた足を一歩引いた。
白が振るった剣先が鼻先を掠める。
そして、高周波ブレードを振り下ろした。
刃が白の肩に振れ、唸り、めり込み、切断した。
背後で白の腕が落ちる音がする。
それに伴い白自身も止まった。
俺は身体に力が入らなくなり、その場で膝をつく。
どうにか首を回し、後ろに目を遣った。
化け物が眼前に迫っていた。目を持たず、獰猛な牙を持った蛇のようなもの。精霊たちを喰らったそれが俺を喰らおうと迫っていた。
それは切断したはずの腕から伸びていた。
――死んだ、な。
そう思った。
――あとはアンジェラが上手くやってくれるはずだ。
そう願った。
目を瞑る。
身体が横からの衝撃を覚える。
身体が衝撃を受けた先へ浮かんだ。
痛みはない。
ビルに身体が打ち付けられる。
ビルが倒壊し、崩れ行く中、見えてしまった。
俺を庇い、喰い千切られ、胴体と下半身が分かれたアンジェラの姿を。
ビルの倒壊に巻き込まれ、残り体力が尽きる。
俺はアンジェラの最期すら見届けられなかった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる