妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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5章 平等な戦い

守るべきもの

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 白のエネミー。あの憎たらしい模倣犯。

 アイツが俺を見つけた。

 片手に剣を携えて、白磁の身体が迫ってくる。それを阻止すべくアンジェラがその横につく。高速で突き進みながらの攻防。身体をぶつけ、剣をいなし、鉤爪を躱す。我先にと一瞬の隙を探し続けるそれはさながらカーチェイスのようだった。

 その先に待つのは動くこともままならない俺。

 エネミー同士の戦いにおけるゴールラインは俺だ。

 ならばチェッカーフラッグを振る大任を果たそうではないか。

 高周波ブレードを上段に構える。

 刃に心を乗せる。

 先の戦いで消耗しきったそれはもはや攻撃を防ぐほどの量はない。ならばなけなしの力を全て乗せ、一撃に全てを乗せる。それに望みを賭けるしかアンジェラを手助けする道は残されていなかった。

 刃に心が集まる。

 体に残された心というノイズがなくなる。

 静かであった。

 心の底にいつもあった影がなくなった。

 代わりに感覚が研ぎ澄まされる。

 デジタル信号でしかないはずの世界で、身体が世界と繋がる感覚を覚える。

 足は大地に根付き、腕は重力から解き放たれたように軽く、目は空にあった。

 ただ――切る。

 それだけがあった。

 目測五十メートル。

 エネミー同士のいざこざが続く。

 目測四十。

 黒が大きく鉤爪を振り下ろす。

 目測三十。

 白がそれをひらりと躱し、前に出た。

 目測二十。

 白が横薙ぎの構えを取る。

 目測十。

 白が薙ぎ払う。

 俺は構えた足を一歩引いた。

 白が振るった剣先が鼻先を掠める。

 そして、高周波ブレードを振り下ろした。

 刃が白の肩に振れ、唸り、めり込み、切断した。

 背後で白の腕が落ちる音がする。

 それに伴い白自身も止まった。

 俺は身体に力が入らなくなり、その場で膝をつく。

 どうにか首を回し、後ろに目を遣った。

 化け物が眼前に迫っていた。目を持たず、獰猛な牙を持った蛇のようなもの。精霊たちを喰らったそれが俺を喰らおうと迫っていた。

 それは切断したはずの腕から伸びていた。

 ――死んだ、な。

 そう思った。

 ――あとはアンジェラが上手くやってくれるはずだ。

 そう願った。

 目を瞑る。





 身体が横からの衝撃を覚える。

 身体が衝撃を受けた先へ浮かんだ。

 痛みはない。

 ビルに身体が打ち付けられる。

 ビルが倒壊し、崩れ行く中、見えてしまった。

 俺を庇い、喰い千切られ、胴体と下半身が分かれたアンジェラの姿を。





 ビルの倒壊に巻き込まれ、残り体力が尽きる。

 俺はアンジェラの最期すら見届けられなかった。
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