妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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5章 平等な戦い

糞ゲー

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 桜庭の宣言により、戦場は混沌と化す。

 エネミー同士が争いを始め、作戦参加者は桜庭の宣言に混乱し、それが隙となりエネミー同士の戦いの余波で散っていく。

 そんな中、桜庭が指示を出す。

「黒い方が内通していた敵だ! 白を援護しろ!」

 混乱していた作戦参加者はそれぞれ了解の意味する言葉を発し、それに従った。

「俺は三刀を追う! 射程が届かない奴らはこちらを手伝ってくれ!」

 続いた桜庭の号令。

 これ以上の不利な状況は作り出されたくまいとこちらも声を張り上げる。

「桜庭の妄言に耳を貸すな! 今はエネミー優先のはずだ! こちらに手を貸すな!」

 英雄と呼ばれた男の言葉。だが一か月前までは一般人だった急ごしらえの英雄の言葉は、競い合う間柄の信頼関係には勝てなかった。

 俺の言葉に返答はなかった。

 あちこちのビルからプレイヤーがこちらを覗く目が見えた。それらは狩人の目をしていた。獲物を逃すまいと、息を忍び、獲物を追い立て息の根を止める。そういう死の間際にある高ぶりを生きる糧にしている者の目であった。

 プロゲーマーのみならず競技者はその傾向があるのだろう。競い勝利する、そのためならばどんな地道な苦労も厭わない人種。努力家、スパルタ、なんて言葉では生温い。一種の狂気に落ちなければ見えない世界があるのだろう。

 その世界の上澄み達が今、俺に狙いを定めていた。

 心が冷えた。

 燃える魂はない。

 昂ぶらない。

 だが冷静になれた。

 今の設定ではフレンドリーファイアは効かない。唯一の例外として、まじないによる心を込めた攻撃。これはあの男子と交流があったと思われる桜庭にしか使えないだろう。

 しかし、拘束するだけならば、このゲーム由来の能力を用いればできてしまう。今回の戦いでも、アンジェラとの最初の戦いでも選択肢したシールド生成能力。この能力は正六角形を組み合わせて形状を変化できる。以前はグレネードを運ぶために形状変化させていた。拘束するためならば体に巻き付くように形状変化させれば叶えられるだろう。

 能力によってできることは異なるが、想像力によっていくらでも補完できてしまう。

 相手は熟練。

 いつまででも逃げおおせることはできないだろう。

 ならば俺が今ここで成し遂げなければならないことはんだ。

 あの男子を倒す。

 アンジェラを逃がす。

 この二点だ。

 俺の無事は努力目標に過ぎない。最悪、アンジェラさえ無事ならば俺の意志を継いでくれる。その場合、妹とアンジェラが険悪なことが気掛かりだがなんとかなるだろう。

 まずはここを切り抜け、アンジェラのもとまで辿り着く。

 先日妹が投げ出した超高難度ゲームと同じだ。成功は難しく、一つのミスで積み上げてきたものをすべて失うものだ。それをプロゲーマー相手に行う。違うのは最初からやり直すことすらできない。一度きりの挑戦だけだ。

 糞ゲーだ。

 けれど、やらなければならない。

 間違いだらけの世界で己を貫く強さを求められているのだから。
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