妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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5章 平等な戦い

決戦前夜

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 討伐作戦の指揮を執ることが決まってからは激動だった。俺以外の人たちが。

 電脳科学庁が宮内庁に凸をかまされ、官僚同士が縄張り争いを始めた。神を知らない人と神を知っている人の前提が異なる争いは歴史上類を見ないほどの泥仕合の様相を呈したらしい。樹神さんからすると大昔に流行ったすれ違いコントのようだったという。あまりにも無駄な争いは勝手な真似をしてとっちめられた大臣と内閣総理大臣が出張って、それを終わらせた。さながら水戸黄門のようだったらしい。

 樹神さんの意向はそのまま内閣総理大臣に伝えられ、そのまま内閣総理大臣の指示になる。こうしては俺は内閣総理大臣が直接指名した総指揮になった。

 マスコミにもそう発表され、俺の名は世間に広まることになる。

 内閣総理大臣からの直接指名のため、現場は大混乱。本来指揮を執る手はずになっていた桜庭からは電凸の嵐となった。開口一番「どういうことか説明しろや」とドスのきいた声が聞こえた。桜庭には神のことは言わないことが決まっていた。神を知る者は少ない方がいいという判断と説明するにはアンジェラのことが避けて通れないからだ。ゆえに現場の事情を知らない内閣総理大臣が国民向けパフォーマンスしたせいで総指揮になってしまったというカバーストーリーで桜庭を説き伏せた。

 この発表で世間が揺れる傍ら、俺は魂の力を制御する特訓をしたが、芳しい結果は得られてはいなかった。明日の作戦に控え、今日は特訓は休みとなった。もとよりそんな一朝一夕で身に付けられる技術ではないが、俺にはそれ以上の素養がなかったようだった。匙を投げられたともいう。

 決戦前夜。

 一人落ち着きたいため、サービス再開したブルースフィアにログインしていた。

 アカウントも量産型アバターの方で入り、敵も少ない海岸沿いでまったり佇んでいた。

 月夜で風にあたり、潮の香りに癒される。

 明日の今頃は銃を片手に、大勢の指揮を執るなんて慣れない真似をしなければならない。ならば今ぐらいは誰にも邪魔されず静かに心安らかに過ごしたい。

 そんな俺の思いを嘲笑うかのように背後から声をかけられる。

「おひさ」

 俺が失業騎士だった頃、知り合ったブランド女であった。ダンジョンで罵り合い、けなし合いをしてクリアした仲である。つまり、不仲である。

「ログインしてたからメールで一緒にダンジョン潜ろって誘ったのに全無視とかどうなってんの」

 咎めるような口調。一言文句が言いたいがために俺がいる場所までやってきたらしい。なかなかのクレーマー体質だ。

「悪いな。一人になりたかったんだ」

「なるほどね。そんじゃお姉さんに悩みの一つでも話してみる?」

「誰がお姉さんだ」

「ま、中身おばさんかもしんないし、もしかしたらオッサンかもしんないしね」

 肩をすくめるブランド女。

「でも誰だかわからない奴だからこそ言えることがあるかもしんないじゃん」

 あくまでお姉さんぶるブランド女に毒気が抜ける。

「別に悩みっつーほどのことじゃねえよ。いつの間にか立場が変わり過ぎて、どうしてこうなったんだって思ってるだけだ」

「あーでもわかるかも。がむしゃらに頑張ってたら目指した場所とちょっと違う場所にいたとかはあるし」

「アンタはもう少し思慮深く生きてみた方がいいんじゃないか」

「その言葉そのまま返してやるけど」

 ジャブの応酬を始めてみるも互いにそんな気分じゃないことが通じ合う。漫画で拳で通じ合うものと同じことが起きた。悪口の応酬で分かり合うなんて、ちっともロマンがないが。

「てかこっちの悩み聞いて」

 そう言って俺の返答を待たずに語り出す。

「ノリで友達のほっぺにキスしたらドン引きされて無視されてるんだけど、どうしたらいいと思う?」

「お前は馬鹿か」

 この夜は「誰にも邪魔されず静かに」という点では落第だが「心安らかに」という点では満点の月夜であった。
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