89 / 229
5章 平等な戦い
決戦前夜
しおりを挟む
討伐作戦の指揮を執ることが決まってからは激動だった。俺以外の人たちが。
電脳科学庁が宮内庁に凸をかまされ、官僚同士が縄張り争いを始めた。神を知らない人と神を知っている人の前提が異なる争いは歴史上類を見ないほどの泥仕合の様相を呈したらしい。樹神さんからすると大昔に流行ったすれ違いコントのようだったという。あまりにも無駄な争いは勝手な真似をしてとっちめられた大臣と内閣総理大臣が出張って、それを終わらせた。さながら水戸黄門のようだったらしい。
樹神さんの意向はそのまま内閣総理大臣に伝えられ、そのまま内閣総理大臣の指示になる。こうしては俺は内閣総理大臣が直接指名した総指揮になった。
マスコミにもそう発表され、俺の名は世間に広まることになる。
内閣総理大臣からの直接指名のため、現場は大混乱。本来指揮を執る手はずになっていた桜庭からは電凸の嵐となった。開口一番「どういうことか説明しろや」とドスのきいた声が聞こえた。桜庭には神のことは言わないことが決まっていた。神を知る者は少ない方がいいという判断と説明するにはアンジェラのことが避けて通れないからだ。ゆえに現場の事情を知らない内閣総理大臣が国民向けパフォーマンスしたせいで総指揮になってしまったというカバーストーリーで桜庭を説き伏せた。
この発表で世間が揺れる傍ら、俺は魂の力を制御する特訓をしたが、芳しい結果は得られてはいなかった。明日の作戦に控え、今日は特訓は休みとなった。もとよりそんな一朝一夕で身に付けられる技術ではないが、俺にはそれ以上の素養がなかったようだった。匙を投げられたともいう。
決戦前夜。
一人落ち着きたいため、サービス再開したブルースフィアにログインしていた。
アカウントも量産型アバターの方で入り、敵も少ない海岸沿いでまったり佇んでいた。
月夜で風にあたり、潮の香りに癒される。
明日の今頃は銃を片手に、大勢の指揮を執るなんて慣れない真似をしなければならない。ならば今ぐらいは誰にも邪魔されず静かに心安らかに過ごしたい。
そんな俺の思いを嘲笑うかのように背後から声をかけられる。
「おひさ」
俺が失業騎士だった頃、知り合ったブランド女であった。ダンジョンで罵り合い、けなし合いをしてクリアした仲である。つまり、不仲である。
「ログインしてたからメールで一緒にダンジョン潜ろって誘ったのに全無視とかどうなってんの」
咎めるような口調。一言文句が言いたいがために俺がいる場所までやってきたらしい。なかなかのクレーマー体質だ。
「悪いな。一人になりたかったんだ」
「なるほどね。そんじゃお姉さんに悩みの一つでも話してみる?」
「誰がお姉さんだ」
「ま、中身おばさんかもしんないし、もしかしたらオッサンかもしんないしね」
肩をすくめるブランド女。
「でも誰だかわからない奴だからこそ言えることがあるかもしんないじゃん」
あくまでお姉さんぶるブランド女に毒気が抜ける。
「別に悩みっつーほどのことじゃねえよ。いつの間にか立場が変わり過ぎて、どうしてこうなったんだって思ってるだけだ」
「あーでもわかるかも。がむしゃらに頑張ってたら目指した場所とちょっと違う場所にいたとかはあるし」
「アンタはもう少し思慮深く生きてみた方がいいんじゃないか」
「その言葉そのまま返してやるけど」
ジャブの応酬を始めてみるも互いにそんな気分じゃないことが通じ合う。漫画で拳で通じ合うものと同じことが起きた。悪口の応酬で分かり合うなんて、ちっともロマンがないが。
「てかこっちの悩み聞いて」
そう言って俺の返答を待たずに語り出す。
「ノリで友達のほっぺにキスしたらドン引きされて無視されてるんだけど、どうしたらいいと思う?」
「お前は馬鹿か」
この夜は「誰にも邪魔されず静かに」という点では落第だが「心安らかに」という点では満点の月夜であった。
電脳科学庁が宮内庁に凸をかまされ、官僚同士が縄張り争いを始めた。神を知らない人と神を知っている人の前提が異なる争いは歴史上類を見ないほどの泥仕合の様相を呈したらしい。樹神さんからすると大昔に流行ったすれ違いコントのようだったという。あまりにも無駄な争いは勝手な真似をしてとっちめられた大臣と内閣総理大臣が出張って、それを終わらせた。さながら水戸黄門のようだったらしい。
樹神さんの意向はそのまま内閣総理大臣に伝えられ、そのまま内閣総理大臣の指示になる。こうしては俺は内閣総理大臣が直接指名した総指揮になった。
マスコミにもそう発表され、俺の名は世間に広まることになる。
内閣総理大臣からの直接指名のため、現場は大混乱。本来指揮を執る手はずになっていた桜庭からは電凸の嵐となった。開口一番「どういうことか説明しろや」とドスのきいた声が聞こえた。桜庭には神のことは言わないことが決まっていた。神を知る者は少ない方がいいという判断と説明するにはアンジェラのことが避けて通れないからだ。ゆえに現場の事情を知らない内閣総理大臣が国民向けパフォーマンスしたせいで総指揮になってしまったというカバーストーリーで桜庭を説き伏せた。
この発表で世間が揺れる傍ら、俺は魂の力を制御する特訓をしたが、芳しい結果は得られてはいなかった。明日の作戦に控え、今日は特訓は休みとなった。もとよりそんな一朝一夕で身に付けられる技術ではないが、俺にはそれ以上の素養がなかったようだった。匙を投げられたともいう。
決戦前夜。
一人落ち着きたいため、サービス再開したブルースフィアにログインしていた。
アカウントも量産型アバターの方で入り、敵も少ない海岸沿いでまったり佇んでいた。
月夜で風にあたり、潮の香りに癒される。
明日の今頃は銃を片手に、大勢の指揮を執るなんて慣れない真似をしなければならない。ならば今ぐらいは誰にも邪魔されず静かに心安らかに過ごしたい。
そんな俺の思いを嘲笑うかのように背後から声をかけられる。
「おひさ」
俺が失業騎士だった頃、知り合ったブランド女であった。ダンジョンで罵り合い、けなし合いをしてクリアした仲である。つまり、不仲である。
「ログインしてたからメールで一緒にダンジョン潜ろって誘ったのに全無視とかどうなってんの」
咎めるような口調。一言文句が言いたいがために俺がいる場所までやってきたらしい。なかなかのクレーマー体質だ。
「悪いな。一人になりたかったんだ」
「なるほどね。そんじゃお姉さんに悩みの一つでも話してみる?」
「誰がお姉さんだ」
「ま、中身おばさんかもしんないし、もしかしたらオッサンかもしんないしね」
肩をすくめるブランド女。
「でも誰だかわからない奴だからこそ言えることがあるかもしんないじゃん」
あくまでお姉さんぶるブランド女に毒気が抜ける。
「別に悩みっつーほどのことじゃねえよ。いつの間にか立場が変わり過ぎて、どうしてこうなったんだって思ってるだけだ」
「あーでもわかるかも。がむしゃらに頑張ってたら目指した場所とちょっと違う場所にいたとかはあるし」
「アンタはもう少し思慮深く生きてみた方がいいんじゃないか」
「その言葉そのまま返してやるけど」
ジャブの応酬を始めてみるも互いにそんな気分じゃないことが通じ合う。漫画で拳で通じ合うものと同じことが起きた。悪口の応酬で分かり合うなんて、ちっともロマンがないが。
「てかこっちの悩み聞いて」
そう言って俺の返答を待たずに語り出す。
「ノリで友達のほっぺにキスしたらドン引きされて無視されてるんだけど、どうしたらいいと思う?」
「お前は馬鹿か」
この夜は「誰にも邪魔されず静かに」という点では落第だが「心安らかに」という点では満点の月夜であった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ホスト異世界へ行く
REON
ファンタジー
「勇者になってこの世界をお救いください」
え?勇者?
「なりたくない( ˙-˙ )スンッ」
☆★☆★☆
同伴する為に客と待ち合わせしていたら異世界へ!
国王のおっさんから「勇者になって魔王の討伐を」と、異世界系の王道展開だったけど……俺、勇者じゃないんですけど!?なに“うっかり”で召喚してくれちゃってんの!?
しかも元の世界へは帰れないと来た。
よし、分かった。
じゃあ俺はおっさんのヒモになる!
銀髪銀目の異世界ホスト。
勇者じゃないのに勇者よりも特殊な容姿と特殊恩恵を持つこの男。
この男が召喚されたのは本当に“うっかり”だったのか。
人誑しで情緒不安定。
モフモフ大好きで自由人で女子供にはちょっぴり弱い。
そんな特殊イケメンホストが巻きおこす、笑いあり(?)涙あり(?)の異世界ライフ!
※注意※
パンセクシャル(全性愛)ハーレムです。
可愛い女の子をはべらせる普通のハーレムストーリーと思って読むと痛い目をみますのでご注意ください。笑
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。
この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。
最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!!
悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる