妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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5章 平等な戦い

うつくしきもの、それは子供

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 ドヤ顔をするアンジェラに妹が再び手を挙げる。

「私のアイドル活動ってどーなるの? またプライベートスペースだけとか嫌なんだけどさ」

 せっかく外での活動再開をしたのだからまた元に戻りたくない気持ちはわかる。だが、事態は悪化している。ここはどうにか呑んでもらう必要がある。小さかった頃と同じように物で釣れたら楽なのだが。

 どうにか妹が納得する方法を考えているとアンジェラが予想を裏切る提案をする。

「良い機会だからあなたも戦えるようになるといいわ」

 これには俺も妹も声を合わせて「え」と声を漏らす。

「あら、兄妹仲いいこと」

 俺はアンジェラに問う。

「アンジェラ、舞香を戦えるようにするっていうのはどういう意図だ?」

 妹に戦わせるなんてとんでもない。兄として守らなければ、そして元の生活に戻ってもらわなければならない。戦って失うリスクなんて負えない。

「妹さんが大事なのはわかるわ。あたしも積極的に戦えとは言わない。けれど、もう自衛手段を持たなくてもいいという状況は終わってしまったの」

 アンジェラが言うことはわかる。

「ならプライベートスペースに引きこもっていれば安泰じゃないのか?」

「正直、あいつから身を隠すにはイントラネット環境に、そのサーバの場所も世界のどこかに秘匿するようなものが必要よ」

 イントラネット――簡単に言えば閉じたインターネット。組織内だけで構築され、外部とは繋がらないもの。ゆえに外部からの悪意のあるアクセス事態がされない。だが、それは配信者としては致命的なものであった。

「イントラネットって何?」と妹がアホ面を晒す。

「インターネットが使えなくなると思ってくれていいわ」

 アンジェラは馬鹿にでもわかる説明で済ませた。

「えーそんなん無理じゃん!」

 馬鹿だったためそれでようやく理解した。

 頭が痛くなりつつアンジェラに尋ねる。

「自衛が必要なことは理解した。それで本当に身を守れるのか?」

「力さえあればね。あなたもそれは理解しているでしょう?」

 野郎ぶっ殺すの精神のことだろう。何も鍛えていないはずの俺でさえ精霊を一蹴することができた。ならば妹も力さえあればそれが可能なのだろう。最悪、逃げるための時間を稼ぐ力さえあればことが足りる。

「あのまじないみたいなことをすれば妹も俺と同じ力を手に入れられるのか?」

「妹さんにそれは不要よ。だってあたしと同じ半神だもの。あとは力を手に入れるだけ」

「俺は元から持っていたが、妹にはないのか?」

「個人でそれだけもっているあなたがおかしいの。妹さんはアイドルだったわね。ならその活動を通して信仰を集めることね。それが面倒ならあたしのように記憶を奪ってもいいけれど」

「それは無しだ」

「なら今まで通りにアイドル活動ね。でも時間がないから、昨日コラボしてた子とユニットでも組めば効率的に信仰を集められるのではなくて?」

 その提案に妹は即座に「無理!」と反応する。

「あの人、人気あるのわかるけどなんか私を見る目怖くて無理! 百合営業っぽいけどアレ絶対ガチなやつ過ぎてやだ!」

 妹の反応に内心落胆する。妹が拒否するとシオミンを近くで眺める機会がなくなってしまう。いや、一ファンが声を交わすことができたのだ。ならば昨日のコラボは夢だったと思い、また一ファンとして応援に戻るのが正しいのだろう。

 だがしかしやはり残念であった。

「嫌なら仕方ないわね」

 アンジェラは元から期待していなかったのかそれ以上何も言わなかった。

「あ、でもユニット組む自体は人気取りとしてはいいかもしんない」

 言ったのは妹だった。

「できればこちらの事情も知ってるか、教えても問題なさそうな信頼ある人がいいよね」

 アンジェラが肩をすくめる。

「そんな便利な人材がいるの?」

 俺は気付く。

 妹も「素材は良いしいけるかも」と気付いたようだった。

 金の御髪、白い肌、幼さの残る可愛らしい顔立ち、碧眼。それはたしかに美少女と呼ぶに相応しい素材であった。ジュニアアイドル、もしくは子役に近い立ち位置だろうが妹では得られなかったファン層を獲得するには最適なのかもしれない。

「にーちゃん、アイドルオタクとしての勘はどう言ってる?」

「逸材だな」

 俺と妹の熱い視線にアンジェラは気付く。最初は何見ているのだろうと怪訝な顔だったが、途中でハッとして勢いよく立ち上がる。

「嫌よ! やらないからね!」

 その拒否する姿も愛らしい。小さきものが大げさな反応するのは可愛らしい。小さきものが可愛らしいのは仕方がない。かの清少納言もそう言っている。だから、ジュニアアイドルも悪くないと少し思ってしまった俺は何も間違っていない。
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