79 / 229
5章 平等な戦い
罰のないルールは破っていい
しおりを挟む
ここにいてはまた怒られると思い、場所をプライベートスペースに移すことを提案する。
アンジェラは提案を受け入れるも妹が「こいよ、やってやる」とシャドーボクシングの真似をする。
「妹さん、躾がなっていなくてよ」
「親のせいだな」
「甘い親御さんなのかしら」
「俺には厳しいけどな」
「ならあたしが甘えさせてあげてもよくてよ」
妹が画面から出てきそうなぐらい顔をドアップにする。
「私をダシにいちゃつくんじゃないっ!」
妹がまた切れ散らかして長くそうなのですみやかにプライベートスペースへの移動を開始した。到着するもアンジェラの姿はまだなかった。
妹は俺が到着するやいなや背後に回り、ケツに蹴りを入れてくる。
「なにするんだ」
「八つ当たり」
それだけ言って妹は舌を鳴らし、アンジェラを待つ姿勢に移る。俺と同じかそれ以上のことをアンジェラにもするつもりなのだと悟った。
カメラ越しに映る現実の自室にはアンジェラの姿はなかった。
このやり取りを見てはいないはずだが、あえて遅れているような気がする。
「さあ来い!」
拳を掌にぶつけて気合十分な妹。
その思いに答えるように来訪者が現れる時のエフェクトが再生される。
前後にステップをして身体が現れたらすぐさま一発当ててやろうとする妹。
エフェクトの再生が終わり、身体が出現しても、文字通り手も足も出なかった。
なぜなら現れた身体は金髪を携えた少女のものではなく、黒く無機質な巨躯であったからだ。少女に一発くれてやろうという全年齢平等主義の妹も意気消沈してしまった。
妹が上手いこと黙ったので二人を椅子につくよう勧める。妹が座り、アンジェラもそれを見届けてから少女の姿に戻り、席につく。俺も席につき、話し始める。
「確認、相談したいことがある」
議題は三つ。
模倣犯の目的と禁忌について。
妹の安全と今後の活動方針について。
俺の力について。
この三つはできる限り早くはっきりさせておきたいことであった。
アンジェラもその意図を汲んでくれて模倣犯の目的について話し始める。
「あの模倣犯――名前は知らないから便宜上、名無しと呼ぶことにするわ。名無しの目的は最初はあたしの邪魔だと思っていたけれど、禁忌を犯したことでハッキリしたわ。アレも神になろうとしてる。邪道な方法でね」
俺は尋ねる。
「禁忌とはなんなんだ?」
「禁忌は存在を喰らうことよ。そもそも私達がどういう生命体なのかという話をしなくてはいけないわね」
オカルトな生物には大まかに分けて三つの分類がされる。
一つは肉体を持つもの。妖怪や神話の生物とされ超常的な力を扱える。寿命の多寡はあれど、人と同じように子をなし、血を紡いでいく。
一つは肉体を持たぬもの。精霊がこれに該当し、魂のみの存在であり、魂がこの世界に紐付いているものを指す。
一つは神。この世界の権能を司るもの。
「精霊はこの世界そのものの分霊みたいなものなの。だから殺してもしばらく待てば生き返る。分霊の存在は世界そのものに記憶されてるから。けれどその存在を取り込むことで力を得た場合、取り込んだ側がいることで分霊は世界に存在してることになり、生き返ることはなくなる」
「……バグみたいなもんか?」
「そうね、大まかな認識としては合っているわ」
妹が手を挙げる。
「それさ、なんでやっちゃいけないの? 神様になる手段なんでしょ?」
「簡単よ。人手が足りなくなるの。例えば一人のパーフェクトな人と百人の普通の人、大量の事務仕事を与えた場合どちらがすぐに終わらせられるかで考えてみて。百人いたほうが早く終わるでしょう。神様がいっぱいいた時代にそれをやりすぎたとある地域では、精霊がいなくなって大地が死んだの。自然豊富な土地だったのに今じゃ砂漠ね」
「ゆえの禁忌か。しかし、禁忌っていうぐらいだ。犯したからには相応の罰があるんだろう?」
「ないわ」
信じられない一言が返ってくる。
「正確には罰を与えられる存在はもう地上からは去ってしまった、ね」
樹神さんも初めて出会った時、そんなことを言っていた。地上に残った数少ない神様の一人、と。
「樹神さんでは駄目なのか? あの人も神様だろう?」
「無理だと思うわ。まともに相対できれば彼女が間違いなく勝つでしょう。でも彼女の権能と私たちが今から成ろうとする神の権能は真逆過ぎる存在なの。彼女は文字通り樹を司る自然の神様。現実の神様。私たちが目指すのは電脳の神。虚構を司るの。彼女が対処できずに逃げる手段はいくらでもあるの」
アンジェラが自身を指差す。
「あたしがいい例ね」
少し自慢げにそう言った。
アンジェラは提案を受け入れるも妹が「こいよ、やってやる」とシャドーボクシングの真似をする。
「妹さん、躾がなっていなくてよ」
「親のせいだな」
「甘い親御さんなのかしら」
「俺には厳しいけどな」
「ならあたしが甘えさせてあげてもよくてよ」
妹が画面から出てきそうなぐらい顔をドアップにする。
「私をダシにいちゃつくんじゃないっ!」
妹がまた切れ散らかして長くそうなのですみやかにプライベートスペースへの移動を開始した。到着するもアンジェラの姿はまだなかった。
妹は俺が到着するやいなや背後に回り、ケツに蹴りを入れてくる。
「なにするんだ」
「八つ当たり」
それだけ言って妹は舌を鳴らし、アンジェラを待つ姿勢に移る。俺と同じかそれ以上のことをアンジェラにもするつもりなのだと悟った。
カメラ越しに映る現実の自室にはアンジェラの姿はなかった。
このやり取りを見てはいないはずだが、あえて遅れているような気がする。
「さあ来い!」
拳を掌にぶつけて気合十分な妹。
その思いに答えるように来訪者が現れる時のエフェクトが再生される。
前後にステップをして身体が現れたらすぐさま一発当ててやろうとする妹。
エフェクトの再生が終わり、身体が出現しても、文字通り手も足も出なかった。
なぜなら現れた身体は金髪を携えた少女のものではなく、黒く無機質な巨躯であったからだ。少女に一発くれてやろうという全年齢平等主義の妹も意気消沈してしまった。
妹が上手いこと黙ったので二人を椅子につくよう勧める。妹が座り、アンジェラもそれを見届けてから少女の姿に戻り、席につく。俺も席につき、話し始める。
「確認、相談したいことがある」
議題は三つ。
模倣犯の目的と禁忌について。
妹の安全と今後の活動方針について。
俺の力について。
この三つはできる限り早くはっきりさせておきたいことであった。
アンジェラもその意図を汲んでくれて模倣犯の目的について話し始める。
「あの模倣犯――名前は知らないから便宜上、名無しと呼ぶことにするわ。名無しの目的は最初はあたしの邪魔だと思っていたけれど、禁忌を犯したことでハッキリしたわ。アレも神になろうとしてる。邪道な方法でね」
俺は尋ねる。
「禁忌とはなんなんだ?」
「禁忌は存在を喰らうことよ。そもそも私達がどういう生命体なのかという話をしなくてはいけないわね」
オカルトな生物には大まかに分けて三つの分類がされる。
一つは肉体を持つもの。妖怪や神話の生物とされ超常的な力を扱える。寿命の多寡はあれど、人と同じように子をなし、血を紡いでいく。
一つは肉体を持たぬもの。精霊がこれに該当し、魂のみの存在であり、魂がこの世界に紐付いているものを指す。
一つは神。この世界の権能を司るもの。
「精霊はこの世界そのものの分霊みたいなものなの。だから殺してもしばらく待てば生き返る。分霊の存在は世界そのものに記憶されてるから。けれどその存在を取り込むことで力を得た場合、取り込んだ側がいることで分霊は世界に存在してることになり、生き返ることはなくなる」
「……バグみたいなもんか?」
「そうね、大まかな認識としては合っているわ」
妹が手を挙げる。
「それさ、なんでやっちゃいけないの? 神様になる手段なんでしょ?」
「簡単よ。人手が足りなくなるの。例えば一人のパーフェクトな人と百人の普通の人、大量の事務仕事を与えた場合どちらがすぐに終わらせられるかで考えてみて。百人いたほうが早く終わるでしょう。神様がいっぱいいた時代にそれをやりすぎたとある地域では、精霊がいなくなって大地が死んだの。自然豊富な土地だったのに今じゃ砂漠ね」
「ゆえの禁忌か。しかし、禁忌っていうぐらいだ。犯したからには相応の罰があるんだろう?」
「ないわ」
信じられない一言が返ってくる。
「正確には罰を与えられる存在はもう地上からは去ってしまった、ね」
樹神さんも初めて出会った時、そんなことを言っていた。地上に残った数少ない神様の一人、と。
「樹神さんでは駄目なのか? あの人も神様だろう?」
「無理だと思うわ。まともに相対できれば彼女が間違いなく勝つでしょう。でも彼女の権能と私たちが今から成ろうとする神の権能は真逆過ぎる存在なの。彼女は文字通り樹を司る自然の神様。現実の神様。私たちが目指すのは電脳の神。虚構を司るの。彼女が対処できずに逃げる手段はいくらでもあるの」
アンジェラが自身を指差す。
「あたしがいい例ね」
少し自慢げにそう言った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説


ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。
しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。
そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。
このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。
しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。
妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。
それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。
それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。
彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。
だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。
そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。
最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
羽海汐遠
ファンタジー
最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。
彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。
残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。
最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。
そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。
彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。
人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。
彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。
『カクヨム』
2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。
2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。
『小説家になろう』
2024.9『累計PV1800万回』達成作品。
※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。
小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/
カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796
ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709
ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる