妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜

宮比岩斗

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4章 我が女神、それは

重い男

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 アンジェラと背中合わせに立つ。

 周囲にはアンジェラを模した白い精霊。その手にかぎ爪はなくそれぞれ細身の剣が握られていた。

「どうせ見た目を合わせるのならかぎ爪まで真似ればいいのにな」

 軽口を叩く。

「あたしを馬鹿にしたいけど何から何まで真似っこしたくないっていう子供心よ。ほんとくだらない」

「ああ、くだらないな」

 白い精霊たちが剣を目の前に構える。

「アンジェラだけなら勝算はあるか?」

「あたしだけなら全員をどうにか半殺しにして自分が無事かどうかってところかしら」

「なら俺のことは気にせずに戦え」

「お断りよ」

「お前の目的は神になることだろ。妹のことは任せる」

「大切なものなら自分で守りなさい。それに貴方、勘違いしているわ」

 アンジェラは一呼吸置く。

「二人なら皆殺しよ」

 思わず笑みが漏れた。

 この人数を相手に、さも当然のように口にしたアンジェラ。それを面白く思わないのは周囲の精霊たちだった。無機質な顔から感情は伺えない。だが剣を持つ手が怒りで震えていた。なにより宣戦布告をした模倣犯が顔を真っ赤に地団駄を踏んでいた。昔の子供さえやらないそれをやった。

「ふざけんな! 土下座でもして神を諦めたら見逃してやろうかと思ったのに! もう許さないからな!」

 その癇癪の発現とともに精霊たちが襲い掛かってきた。

 その動きは統率がなく、我先にと勢い余った奴から突っ込んでくる。アンジェラは飛び回り、一体、また一体と近づいた奴を切り裂く。大多数の有利を活かせず、疑似的な一体一に落とし込んでいた。

 無論、その中には冷静な奴もいて、タイミングを合わせてアンジェラを挟み撃ちにしようとすることもあった。

 そこで俺の出番だった。

 精霊を見据え、弓を構える。

 弓道においては矢を射る時は無心であるのが好ましいと聞く。

 だが俺はその逆をいく。

 心を込めるのだ。

 一射に思いを乗せる。

 殺意という燃える魂を。

 アンジェラを守るという鋼の意志を。

 そして、妹にあったはずの未来を取り戻すという反逆の精神を。

 放たれた矢は旋風を巻き起こし、大地を穿つ。矢じりが精霊に触れても勢いは失われない。胸元を貫き、旋風が周囲を巻き込み、大地に突き刺さる。射線には無残な姿の精霊が大量に横たわっていた。

 ゲーム内の描画を超えた光景を目の前にして、俺は固まってしまう。ただ、それは敵方も同じだった。誰もが突如発生した現象に意識がもっていかれていた。

 だが、その中で一人だけ動き回る存在がいた。

 黒いソレはその隙を逃さず、白いソレがいなくなるまで狩り尽くすのは僅か数秒のことであった。

 残されたのは模倣犯一人。周囲には致命傷で這いずる白い精霊たち。そのどれもが模倣犯に助けを求めるように手を伸ばしていた。

 アンジェラは変化を解き、少女の姿に戻る。

 アンジェラと目と目が遭う。

「……予想以上ね。さすがのあたしも思いが重すぎてちょっとだけ引いたわ」

 重すぎて引かれるのは、恋愛以外のこういう場合も当てはまるのだろうか。

 状況についていけず、そんなことをふと考えてしまった。
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