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4章 我が女神、それは
できそうでできないこと
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街から遠く離れたところでアンジェラは子供の姿へと戻り、隣に並ぶ。
「助かった」
そうアンジェラに告げると「あたしというものがありながら他の子にデレデレしてたバツが当たったのよ」と睨まれる。
「シオミンのことか?」
「愛称で呼ぶな」
「すまない」
取り付く島もない。だが今から向かう先のことを考えるとそういうわけにもいかない。埋め立て工事でもなんでもして陸地に辿りつかなければ沈没して終わるだけだ。
「ともかく助かった」
無言。
「雪山にいるエネミーに心当たりはないか?」
無言。
「……ないよな。あったら教えてくれてるはずだしな」
無言からの嘆息。
「――まったくないわけではないわ」
続ける言葉を探していたらアンジェラが口を開いた。
「あれから考えたの。それが誰かは知らないけれど、あたしと同じ見た目ができて記憶を奪うことができるなら、十中八九精霊よ。おそらく妹さんを神に仕立てるだけじゃ飽き足らず、あたしが記憶を少しばかり頂戴しているのを見て、模倣犯を始めたのね。もしあたしの邪魔をしたいのが目的なら――被害者の記憶は全部なくなるかもね」
アンジェラを見る。たぶん丸い目をしていただろう。
「なによ」
怪訝な顔をされる。
「いや、いい女だなって」
「今頃気付いたのかしら?」
そう余裕ぶった声色で返されたが、耳は赤みがかっていた。
感情を表に出すタイプではあるが、ちゃんと理性のコントロールが効いている。俺の周囲は感情をコントロールできないか、自分の私利私欲を優先させる輩ばかりで今成すべきことを間違えないタイプは珍しい。今だって不機嫌を抑えて共有すべきことをきちんと共有してくれた。
俺みたいな女心がわからずやらかすタイプは、アンジェラのように理性を保ったまま言うべきことを言ってくれる人が向いているのだろう。
惜しむらくは彼女が人でなければ、見た目も幼い点だろう。
そんなことを考えたら強くない力で肩パンされた。
「なんか失礼なこと考えたでしょう」
「騎士である俺をもっと信頼してくれないか」
納得しない様子のアンジェラとともに走り続け、雪山の麓に辿り着く。そこは以前、その付近に隠れていた色違いのゴブリンに殺された場所であった。また同じ場所にゴブリンが隠れているはずと考え、警戒する。今の俺はアカウントを取得し直したため、あの頃とほとんど変わらない最弱の状態だ。不意打ちでもなんでも一発喰らえば死ぬ。
そう警戒してゴブリンがいた方向を確認したが、そこにゴブリンはいなかった。
「今ブルースフィアからモンスターは全て非表示にされたわ」
アンジェラが言った。
「モンスターだけじゃない。ノンプレイヤーキャラクターもいなくなってる。いるのは魂がある存在だけよ。模倣犯がそう改竄してるみたい」
システムの改竄。
精霊という存在のアンジェラがエネミーとして現れることができるのもそのおかげだ。だがアンジェラ自身は神になる存在として秩序を司る存在になるべくむやみやたらな改竄を好まない。いや、語弊がある。システムに則った攻撃を加えればエネミーがダメージを受けるという改竄をしている。つまるところフェアプレイの精神で、戦いを挑み、その結果記憶を頂いているということだ。
騎士道精神ともいえるが「抗え、さもなくば死ね」の精神ゆえに気狂い武士道に近い。
アンジェラの場合はシステムに則り、エネミーとしてプレイヤーと戦う。それで十分だった。だが模倣犯の場合はそうはいかないだろう。モンスター、NPCを消したということは動く存在は全てプレイヤーになる。狩る側からすればこれ以上に楽なものはない。自分に有利なことを喜んでやるという性質から導くと、システムに則った戦闘ではまともな戦闘にならない可能性がある。
チートだ。
「アンジェラ、俺が模倣犯に対してできることはあるか?」
「そこまで辿り着いたのね。さすが騎士様」
「今は弓士だけどな」
アンジェラは俺にしゃがむよう指示をする。妹に用意してもらったアバターの背は高くしゃがんでもまだ俺の方が目の位置が高かった。アンジェラは少し上を向き、俺の額に指を当てる。すると額から広がるように暖かさが全身に広がった。
「今、魂の外郭に小さな孔を空けたわ。そこから漏れ出る力を使えば戦う分には問題ないはずよ。でも過信しないでね。できるのは戦うことだけだから」
「普通に負けて記憶を奪われる可能性もあるんだな」
「そう。あと心を強く持ってね。今かけたのは精霊、妖怪、神へ対抗した鬼の力なの。揺るがない心は悪しきを弾き、燃える魂は全てを凌駕する。覚えておいてね」
「すまない。心を強く持つってどういうことだ?」
「野郎ぶっ殺してやるってことよ」
「それなら得意だ」
「助かった」
そうアンジェラに告げると「あたしというものがありながら他の子にデレデレしてたバツが当たったのよ」と睨まれる。
「シオミンのことか?」
「愛称で呼ぶな」
「すまない」
取り付く島もない。だが今から向かう先のことを考えるとそういうわけにもいかない。埋め立て工事でもなんでもして陸地に辿りつかなければ沈没して終わるだけだ。
「ともかく助かった」
無言。
「雪山にいるエネミーに心当たりはないか?」
無言。
「……ないよな。あったら教えてくれてるはずだしな」
無言からの嘆息。
「――まったくないわけではないわ」
続ける言葉を探していたらアンジェラが口を開いた。
「あれから考えたの。それが誰かは知らないけれど、あたしと同じ見た目ができて記憶を奪うことができるなら、十中八九精霊よ。おそらく妹さんを神に仕立てるだけじゃ飽き足らず、あたしが記憶を少しばかり頂戴しているのを見て、模倣犯を始めたのね。もしあたしの邪魔をしたいのが目的なら――被害者の記憶は全部なくなるかもね」
アンジェラを見る。たぶん丸い目をしていただろう。
「なによ」
怪訝な顔をされる。
「いや、いい女だなって」
「今頃気付いたのかしら?」
そう余裕ぶった声色で返されたが、耳は赤みがかっていた。
感情を表に出すタイプではあるが、ちゃんと理性のコントロールが効いている。俺の周囲は感情をコントロールできないか、自分の私利私欲を優先させる輩ばかりで今成すべきことを間違えないタイプは珍しい。今だって不機嫌を抑えて共有すべきことをきちんと共有してくれた。
俺みたいな女心がわからずやらかすタイプは、アンジェラのように理性を保ったまま言うべきことを言ってくれる人が向いているのだろう。
惜しむらくは彼女が人でなければ、見た目も幼い点だろう。
そんなことを考えたら強くない力で肩パンされた。
「なんか失礼なこと考えたでしょう」
「騎士である俺をもっと信頼してくれないか」
納得しない様子のアンジェラとともに走り続け、雪山の麓に辿り着く。そこは以前、その付近に隠れていた色違いのゴブリンに殺された場所であった。また同じ場所にゴブリンが隠れているはずと考え、警戒する。今の俺はアカウントを取得し直したため、あの頃とほとんど変わらない最弱の状態だ。不意打ちでもなんでも一発喰らえば死ぬ。
そう警戒してゴブリンがいた方向を確認したが、そこにゴブリンはいなかった。
「今ブルースフィアからモンスターは全て非表示にされたわ」
アンジェラが言った。
「モンスターだけじゃない。ノンプレイヤーキャラクターもいなくなってる。いるのは魂がある存在だけよ。模倣犯がそう改竄してるみたい」
システムの改竄。
精霊という存在のアンジェラがエネミーとして現れることができるのもそのおかげだ。だがアンジェラ自身は神になる存在として秩序を司る存在になるべくむやみやたらな改竄を好まない。いや、語弊がある。システムに則った攻撃を加えればエネミーがダメージを受けるという改竄をしている。つまるところフェアプレイの精神で、戦いを挑み、その結果記憶を頂いているということだ。
騎士道精神ともいえるが「抗え、さもなくば死ね」の精神ゆえに気狂い武士道に近い。
アンジェラの場合はシステムに則り、エネミーとしてプレイヤーと戦う。それで十分だった。だが模倣犯の場合はそうはいかないだろう。モンスター、NPCを消したということは動く存在は全てプレイヤーになる。狩る側からすればこれ以上に楽なものはない。自分に有利なことを喜んでやるという性質から導くと、システムに則った戦闘ではまともな戦闘にならない可能性がある。
チートだ。
「アンジェラ、俺が模倣犯に対してできることはあるか?」
「そこまで辿り着いたのね。さすが騎士様」
「今は弓士だけどな」
アンジェラは俺にしゃがむよう指示をする。妹に用意してもらったアバターの背は高くしゃがんでもまだ俺の方が目の位置が高かった。アンジェラは少し上を向き、俺の額に指を当てる。すると額から広がるように暖かさが全身に広がった。
「今、魂の外郭に小さな孔を空けたわ。そこから漏れ出る力を使えば戦う分には問題ないはずよ。でも過信しないでね。できるのは戦うことだけだから」
「普通に負けて記憶を奪われる可能性もあるんだな」
「そう。あと心を強く持ってね。今かけたのは精霊、妖怪、神へ対抗した鬼の力なの。揺るがない心は悪しきを弾き、燃える魂は全てを凌駕する。覚えておいてね」
「すまない。心を強く持つってどういうことだ?」
「野郎ぶっ殺してやるってことよ」
「それなら得意だ」
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